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右手にサイコガンを持つ男  作者: 西南の風
134/281

134 いざ 屋台開業


 ケイトの不安をよそに妙に張り切るユウゾー一家がいた。



「ふむ ふむ  よしこんな屋台でいいかな?」


ケイトの為に創造魔法で作った屋台はユウゾーの思いがこもった力作になった。


「…ユウゾー これは何だ?屋台を作るのでは、、」


ミューとケイトが呆然とユウゾーの作った物を眺めていた。


「移動用の屋台だぞ、凄いだろう?」


得意げに笑いかけるユウゾーの作製したものは俗に言うキッチンカーであった。

全長2.5m 横幅1.2m 高さは1.8m程度の木製の車体だ。

正確にはケイトの体に合わせたコンパクトなミニカーと呼ぶのが相応しい。

動力源は効率のすこぶる悪い魔石仕様を利用している。


「これなら雨の日や寒い季節にも対応出来るし、重い荷物も持つ必要がない。おまけに歩くより早いし、ドアを閉めれば安全性も高い。更に各種対応できる変形モードが…」


「済まないが…これどうやって動かすのだ?馬にでも引かせるのか?」


ミューとケイトは何故か死人のような目でミニキッチンカーを眺めていた。

ならばとユウゾーが運転席に入り込む、中央に配置された運転席に窮屈そうに座ると目の前にはハンドルと言うより飛行機の半円型操縦桿に近い物があり、操縦桿の左右に各1本のレバーがある。


「この左のレバーは前進と後進の切り替えレバーで、右手のレバーは速度を3段階に切り替えられるレバーとブレーキを兼ねている」


理解の出来ない単語を並べて説明するユウゾーがまずは試運転と右手のレバーを軽く引き下げる。

すると音もなくミニカーがノロノロと前に進みだした。


 おおー!!  見ている二人の目が驚きで大きく見開かれた。



「なぁ ユウゾー これ赤子が歩くより遅いぞ…」


ノロノロ動くミニカーの横に近づいてミューがユウゾーに話しかける。


「失礼な 第一赤子は歩けないぞ。まぁ見ていろ」


ユウゾーは右のレバーを更に一段階引き下げる。

ミニカーは速度を上げ大人が歩く速度と同等の速さになる。


「まだまだ これが最終速度だ」


ミニカーは大人の小走りに近い速度にて動き出した。


 おおーー!! 二人から再び歓声が上がる。


ぐるりと庭先を一周してミニキッチンカーは元の場所にて止まった。


「どうだ! わが力作は?」


車体から降りてきたユウゾーはさも自慢げに胸を張る。


「お 俺に動かさせろ」


ミューが運転席に座り込む。ケイトも興味津々に乗り込む。

荷台側からユウゾーが指示を出して微速前進にてミニカーが動き出す。


「おおー 動いた動いたぞ」


暫く前進させて操縦桿を右や左に動かし始めるミューが楽しげに庭先を動き回る。


「なぁ ユウゾー もう少し早く動かしても良いか?」


あまりの低速に速度アップを要求するミューに中速での許可を出すユウゾーであった。

そんな騒ぎに気が付かぬ妻達ではない、皆が家から何事と飛び出してくる。


得体の知れない物体がユウゾーやケイトを載せて動き回っている。

皆が全て凍りついて呆然と見ている。


その皆の姿をミューとケイトが見つけ楽しげに皆に手を振る。

その様子から何となく無害な物体とようよう判断した皆が、止まっているミニカーに恐る恐る近づいてこれは何なのだとユウゾーに攻め寄った。


皆の勢いにしどろもどろに説明を繰り返すユウゾーであった。



その後約一週間をかけてケイトはユウゾーの指導の元ミニカーの操縦をマスターし、敷地内を楽しげに動かしている姿を皆が羨ましそうに見ていた。


ミニカーの操縦習得と並行して野菜スープ作りも合格点をもらい、ケイトは晴れて屋台の開業に向けて準備を着々と進めていた。



ケイトの一番の懸念であった商品にかかるコスト問題はある晩に意を決してユウゾーに相談をした結果、あまりにも簡単に問題が解決してしまった。


ユウゾーがケイトの疑問に関して出した答えは、一切の経費は 0¥ その代わり売上の半分を折半とする という、ケイトにとって誠に都合のよい条件で合意してしまったのだ。


いくら幼いと言っても小さいうちから母親の手伝いで家計の手伝いをしてきたケイトは、ユウゾーがこれまで用意してくれた数々の準備品にとてつもない金額が動いているのは理解できた。


その一例がある日新開拓村に出かけた折、馴染みの商人にユウゾーが発注した調味料がその店にも並べてあり、つい価格を覗き見たケイトはその場にて固まってしまった。


惜しげもなく鍋の中に入れていた調味料が目ン玉が飛び出すような高価な商品であると判明したからだ。

屋台風情が使用できるような商品ではなかったのである。


屋台の売上では決してペイしない価格なのであった。

なのにユウゾーはそれに対して恩を売るわけではなく、売上の折半で良いと笑っていた。


おまけにケイト専用のミニカーまで貸し与えている。

あまりの好条件に少し怖くなり母に相談すると、母は優しく笑って ユウゾー様の行為に甘えなさい、その代わり懸命に働いて頑張りなさい そしてユウゾー様の恩義を忘れてはいけません とケイトの頭を優しく撫ぜながら語る。


ユウゾーが母にはこっそり先に手を廻し報告していて、ケイトの事はすべて任せておけと口裏合わせがあった事はケイトは知らされていなかったのだ。


ケイトの母は深く感謝してもしきれない程のユウゾー達のケイトへの愛情を感じて、只々宜しくお願い致しますと頭を下げる事しか方法が思いつかなかった。



「いってきまーす」


その日が来た。色々な特訓が終わり今日からケイトが屋台の商売を始める事となった。


荷台にマーラを乗せて皆の声援を受けてケイトのミニカーが動き出す。

屋台の場所は当初は北門に同じ様に屋台の店が数店ある場所を検討していたが、治安が良いと言っても子供一人での屋台となると万一の可能性もある。


ならば西門の直ぐにユウゾーの直営店があるその前にて営業が良いだろうと皆の意見がまとまる。

この場所なら妻達が店の中から目が届く、何かあれば直ぐに対応が取れるし、横には新しく出来た宿屋がある。


宿屋から出てきた冒険者達の目にも屋台の存在がばっちりだ。

意外と屋台商売にも適した場所かもしれない。

西門の門番も目が届くし、妻達の目も届くダブルで監視体制がOKである。

ケイトのお母さんも無駄な心配がなくなるだろう。


「おっ 今日から営業開始か?頑張れよ」


西門の門番とも顔なじみだ。ケイトは明るく朝の挨拶を交わし、ミニカーを直営店の前に横付けする。

マーラが屋台の前準備を手伝い終えると、直営店の中に入り開店準備に取り掛かる。


「えーと 魔道具で大鍋の暖め開始で、次に看板を…」


ケイトはこの日の為に何回も一連の前作業を練習してきた、されど今日からはいよいよ本番となる、軽い緊張感も味わいながらテキパキとこなしていく。


昨日仕込みが終えた大きな寸胴鍋に魔道具で暖め開始すると、ユウゾーが作ってくれた看板を車の横に立てかける。

その看板にはユウゾーの書いた大きな文字が皆に分かるように書かれていた。


[ケイトの美味しい 特製野菜スープ店]  と。




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