132 いざ ケイトの決意
御礼。ブックマーク登録者数が60名に達しました。いつの間にか多くの皆様に私のつたない文を読んで頂き有難うございます。 文面にて深くお礼申し上げます。
ユウゾーの生活パターンは左程変化なく過ぎていく。
夏も終わりに近づき、実りの秋に向かっていく。
涼しくなると途端に仕事量も多くなり、皆が楽しそうに作物の出来やギルトの依頼による付近の魔物退治にと動き回っている。
大物の四ツ牙やジャイアントベアーが偶に拠点近くに出没する為に住民や冒険者の安全の為にギルマスからの依頼があったのだ。
どうやらジャイアントベアーに関してはユウゾー達が飼う養蜂の蜂蜜狙いである事が判明。
そのギルマスは日中はユウゾーの敷地内で木陰にハンモックをぶら下げてよく昼寝をしている。
昼寝から覚めるとライラの蜂蜜がたっぷり入った手作り菓子を食べて、仕方ない素振りでギルドへ戻っていく。
この所ギルドにいるよりユウゾーの敷地内に居る事の時間が多いようだが・・。
心配になって派遣しているエルフ達に尋ねると、皆が行き先を知っているので、何か急用があれば対応がとれると笑っている。
鍛冶屋の親父とバンドンが打つ剣が人気がでて、二人共忙しく対応しているようだ。
風の噂で二人の打つ剣が一振り白金貨1枚で売れたとか伝わってくるが、月に5個のインゴットしか卸していないのでかなりの予約本数があるらしい。
ユウゾーの作るインゴットは1個金貨2枚という高値で買ってくれるので、月に白金貨1枚がユウゾーの小遣いとして定期的に入るようになった。
他に直営店の売上、本職?の農業それに今回みたいに大物退治の依頼と順調に稼ぎが増えていく。
お金を管理しているライラも貯めている場所が手狭になったとぼやくので、今後は各自に多めに分配したいと提案したが、あっけなく拒否される。
来年には屋敷を増設か新築して対応を図るとおっしゃる。
了解です…。でもあまり家を大きくしても、、、。
貧乏性のユウゾーには居心地が悪いのだ。
隣の開拓村で消費する野菜関連の3割がユウゾーの作る農園で賄われているが、逆に言えば7割が運ばれてくる事になる。
野菜はどうしても日持ちが問題になる、村の開拓民から新鮮なユウゾー農園のほうが喜ばれる。
しかも価格がかなり安い。
ユウゾーとしては適正価格と思っていたが、ケイト等から安すぎると怒られる。
一旦この価格で卸し始めたので、暫くは続けたいと子供のケイトに頭を下げるユウゾーであった。
新開拓村民の要望及びマーラ達の要望に答えてこの冬には敷地を拡大する予定がある。
村民たちは安くて新鮮な野菜狙いだが、マーラ達の要望は別の目的がある。
春から飼い始めた蜜蜂のさらなる拡大計画である。
甘い物が不足がちな生活において蜂蜜は上等な甘味である。
その飼育に成功した皆からの強い要望が上がった。
女性達の真剣な表情に押されてユウゾーは敷地の拡大に賛成した。
全ては秋の収穫完了と冬支度の終了後に実施予定となった。
ケイトは午後の自由時間を利用して副業の開始を練っていた。
事の始まりはユウゾー達が作る野菜スープである。
たっぷりの各種具材と魔物の肉が入り、各種香辛料が入ったスープを初めて飲んだ瞬間に自分等母娘が屋台で作っていたスープがどれ程の品であったのか自覚したのだ。
あまりの衝撃に互いに顔を見合わせていた母娘であった。
ユウゾー達が作るスープを母娘が皆に教えられ完璧にマスターしたころ、ケイトはある事が気になっていた。
食べ物の処理についてである、ユウゾー達は畑の近くに大きな穴を掘って食事の残り滓等の投棄をして肥料作りを行っていたが、商人や個人の人が野菜を求めに来た時に外側の葉や痛んだ場所を綺麗にして渡していた。
日本人のきれい好きは定評があるが、ユウゾーも幼い頃は別にして今は後分にもれず虫食い葉の除去した品を渡していた。
見栄えの良い商品を選ぶ、つい馴染んでしまった習慣である。
だが異世界人の目からすれば、ユウゾーの処置はある意味不思議な行いである。
何故食べれる葉を無造作に穴に廃棄するのか理解できないのだ。
普段ならつい文句の一つもでる行為なのだが、格安な商品を分けてくれるユウゾーにあえて何も言わない村人達であった。
そんな商人や村人達の思いに気づかぬユウゾーであったが、生き馬の目を抜く異世界育ちのケイトには不思議な行為として目に写っていた。
現代日本ならば見栄えの良い商品しか選ばない消費者にも問題ありと言う声も確かに上がっている。
しかしそれらはまだまだ少数派に過ぎない、多くの日本人が見栄えの良い品を求めているのも事実である。
ケイトはユウゾーの一挙手に注目する。
あの捨てている野菜片を利用したい…。
今ならユウゾー達が教えてくれたやり方次第で屋台を開いても出来そうだ。
幼い頭でこの世界を生きていく為に懸命に考えている。
ただ不足している物がある、ユウゾー達が良く用いている各種調味料だ。
あの味を知るまでは塩が全ての料理から考えが一新した。
母に尋ねてもケイトとほぼ同じ理解でしかなかった。
ただあの調味料はかなり高額な調味料であるとしか正体がわからない。
ケイトはユウゾーの休憩場所に近づき、子供をあやしているユウゾーに語りかける。
「あのー お兄さん少しお話が…」
その声に振り向いたユウゾーはケイトが何か思い悩んでいる表情に気づく。
「どうしたんだ、何か相談事かな?」
何か考えを伝えようとして必死になって言葉を探しているケイトを優しく見つめる。
「焦らなくていいから、ゆっくり話してごらん」
その言葉にふっきれたのかケイトは考えていることを話し出す。
ユウゾー達が良く使用している調味料について聞きたがっていたのだ、あの調味料を用いて再度屋台に挑戦してみたいとケイトは語る。
ふむ この子の年でもうこの世界での生き残りを考え始めているのか。
通状は遊びたい盛りであろう、そう思いケイトには午後からの仕事は全て無くしている。
無論午後からは自由時間だからケイトが何をしても構わないが、幼い頃から母を助けて働いていたケイトは働いて稼ぐことに戸惑いはなかった。
それどころか幼い頭の中はどうすれば将来生きていけるのかを模索している様子が感じられる。
不憫な 一瞬頭の中に言葉が浮かんだが、ユウゾーは慌てて打ち消した。
ケイト母娘には通常の住み込み給与よりかなり高額な金額を毎月渡してある、普通なら気兼ねなく遊びに夢中になれる環境だが、ケイトは違っていた。
現状に甘えることなくこの先を考えているようだ、自活の道を。
この世界の女性は逞しい、いやこの世界の環境がこの子達を逞しく育てて居るのだろう。
自分の住んでいた世界と比較するのは間違いなのだ。
ならばと ユウゾーはケイトに逆に尋ねた。
「その前にこの事はお母さんに相談したのかな?お母さんが承諾したならケイトへの協力をしてあげられるけど?」
あっ と言う顔でケイトは少し固まった。
おそらく自分一人での考えであろう、何故そんな考えになったか疑問ではあるが、まずは母親の承諾が最初に必要である。
相談してくる とケイトは踵を返すと母親の元に走り出した。
その後姿を子を抱きながら静かに笑ってみている妻達がいた。
「偉いわねケイトちゃんは…」
ニーナとアーシャが感心したように互いの顔を見合わせた。
二人が感心するならばケイトはこの世界でも飛び抜けた存在かもしれない。