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右手にサイコガンを持つ男  作者: 西南の風
131/281

131 いざ インゴットの秘密


しっかりとした口調でユウゾーに願いを伝えるバンドンである。


「このインゴットで剣を打ってみたい。どうだろうか?」


本職の仕事は一度じっくりと見てみたいとは思っていたが、ただ此処には鍛冶場がない。

第二開拓村の北門近くに一軒工房がある、そこに連れて行くか…。


あの親父は道楽半分で店を開いている、息子に店を譲り余生をのんびり過ごすのだと笑っていた。

剣も多くは打たない、気が向けば自分の好きな剣を作り、冒険者達の剣の補修作業が主な仕事だ。


ただ腕は長い鍛冶場生活により良い物を持っていると評判になっている。

確かドワーフの血が祖先にいると言っていたし、バンドンとは気が合うかもしれん。




「爺さん 邪魔するよ」


ユウゾー達は暇そうな店に入り込み、入り口で大きな声で来訪者を伝える。


「おう 待っとれ。いま行くぞ」


奥からゆっくりと人影が現れ、ユウゾー達の前に出てきた。

仕事着に着替えてはいるが奥でのんびりしていた様だ。


「おう ユウゾーかどうした?うん そっちはドワーフか?」


「うむ バンドンと言う よろしくな」


二人が挨拶を交わし来訪目的を告げる。


「ほう その気になるインゴットを見せてみろ」


爺さんにバンドンは塊を手渡した。


「ほうほう なる程こいつは純度のかなり高い品だな…」


インゴットをかなり丁寧に調べて、面白い品だ鍛冶場を貸すから打ってみろ と仕事場に案内された。



「な 何だこの鉄は!」


剣を鍛え始めたバンドンは金槌を打ち込む度に悲鳴にも聞こえる声を上げる。

何事かと皆がバンドンの一挙手に注目するが、其れには答えずひたすら剣を打ち続ける。


やがて皆が待ちわびた瞬間がくる、じっと出来上がった剣を眺めていたバンドンが満足げに爺さんにまず見せた。

爺さんの目が驚きに変わる、色々角度を変えながら出来上がった剣を眺めていた。


「物凄い腕だな 村でもかなり優秀な人材と見た」


剣をユウゾーに手渡すが、ユウゾーにはそこまで剣の知識がない。

良い品が出来たと分かるが、どこまで凄いのかは認識出来ないのだ。


代わりにマーラが剣をユウゾーからひったくり、驚くほど真剣な顔で剣を見つめていた。


「いや 俺は村では中の上クラスだ、だから旅に出された」


何の事かと隣のミーアに尋ねると、ドワーフの昔ながらのしきたりで工房の親方がこれはと言う弟子を選び工房の後継者候補とするらしい。


候補に選ばれた者はそれから長い間親方の相方を努め、更に腕を磨いていく毎日になる。

候補に残念ながら選ばれなかった者は、今回のバンドンと同じく外に出て他の師につくか、自分で独立する準備におわれる事になる。


 ドワーフの世界も厳しいのだな…。


成長が止まった者をいつまでも工房には置いておけないらしい。




「これは俺の技量ではない、この素材が生み出した合作だ」


皆が出来上がった剣に目を奪われている最中、バンドンは力なく呟いた。

バンドンに依ると鉄を叩いている最中に自分の思う通りに鉄が伸びてくれると言う。

ある温度に冷めると通常の硬さに戻るらしい。


錬金術でしか作った事しかないユウゾーにとっては新しい発見である。

実際に鍛冶師でなければ体験出来ない状態となる。


鍛冶屋の親父が是非俺にも打たせろと、ユウゾーより新たな素材を受け取り炉の中に入れ投入して剣を作り出す。


 うぉー 言っている事が分かるぞ。この素材は凄い。


鍛冶屋の親父も夢中になり鉄を打ち続け剣を作り出した。


「こいつは今まで作った中で最高クラスだ…」


出来上がった剣を皆に見せ、親父はユウゾーに素材の秘密を問うた。


「そうは言っても魔力を練り込んで、不純物を極限まで減らす事しか…」


ユウゾーにとっては何がこの素材が凄いのか、どうしてこの様になるのか見当がつかない。


「まて 魔力を練り込むとは…?」


バンドンが不思議そうな顔でユウゾーの言葉を追求する。

ハタとユウゾーは考え込む。


当初錬金術を行使する為に数ヶ月に渡り、悪戦苦闘した日々を思い出していた。

あらゆる手を考え魔力を効率的に働きかけてようやく到達した過程を…。


「…ふむ 言われれば少し変わった方法で精錬したかな?」


錬金術での精錬を誰かのアドバイスや手技を見て真似たわけではない。

数ヶ月に渡る毎日をただ魔力での精錬だけでしつこい程繰り返した事により、編み出したユウゾーのオリジナル方式である。


バンドンと親方は呆れた顔でユウゾーの説明を聞いていた。

ユウゾーによると最終的に鉄の()()内にも魔力を行き渡せる様に練り込み始めたら、結果が出るようになったとしか説明が出来ない。


 ()()とは何だ??


 あっ そうだった、急にこんな事説明しても分からんよな。


ユウゾーは出来る限りの説明を行うが、周りの皆は理解を超えた話しにあっけに取られている。



「ごほん 詰まりなんだ、ユウゾー独自の精錬方式であると…」


これ以上聞いても分からんとバンドンが言葉を遮った。

悪いな こんな話しをしても説明している本人もよく分からん事出し…。


「で どうだ?今後共これは定期的に供給出来るのか?」


親方やバンドンにとって必要な事はこの一点だろう。


 うーむ 困った。どう答えるべきか…。


出来ると言えば出来るが、その為にはそれなりの時間と魔力が必要になる。下手に出来るなどと答えたなら今後のユウゾーの生活サイクルが狂ってくる可能性が大だ。


鍛冶師なら誰もが望む素材であるとバンドンが目を輝かしているからな。

噂が噂を呼びのっぴきならぬ状態になるのが容易に推測出来る。

自分の生活サイクルを守るためにも制約を設けねば…。


嘘も方便と ユウゾーは割り切って身の安全を守る事を決意する。

ユウゾーが出した条件は、


・この素材の出所は秘密にする事

・素材の供給量には月の限界がある事

・特注品等の特別な事にしか用いない事

・当面発注は都度契約とする事


この内容が守れれば素材を供給しても良いと提案する。

二人共直様この条件をのんだ。

鍛冶師としてのレベルが数段上がる素材を手放す筈がないか…。


バンドンは親方の家に住み込む事に決定。

親方も話し相手と技の研磨に喜んでバンドンを迎えた。


早速素材に慣れるために各自に2個のインゴットを袋から手渡す。

当面この2個で剣を打ちそれを溶かしてまた剣を打ちと練習して、素材のより良い活用法を見つけると喜んでいた。


 えーと インゴット代はそれなりの代金になりますので、毎度!


それから暫くして辺境の地の鍛冶屋にて、店内にとてつもない剣を飾ってあると評判になり、その剣を求める冒険者や目先のきく武器商人がよく訪問する話しが国中に静かにしかも確実に伝わりだした


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