130 いざ ドワーフバンドン
ケイトが一人の大人を案内してユウゾーの元に連れてきた。
えーと ドワーフかな?
作業の手を休めて対応するユウゾーの前には小柄ながら厳つい体型に顔中髭だらけの、孫のラノベ本に出てくる人物像にそっくりの男がいた。
「うむ ドワーフのバンドンだ、ヨロシクな」
互いに名乗り要件を伺うとケイトが代わりに話しだした。
「このおじさんが職を探しているの、エルフ姐さんのお店で遊んでいたらやって来たんだよ」
正確な話しはバンドン本人から説明があった。
バンドンは見かけより若く?最近になって師の親方より 基礎はすべて教えこんだ、後は百年ほど外の空気を吸って腕を磨いてこい とドワーフ村から武者修行の旅に出ることになった。
故郷の地から離れる事に抵抗があったが、師の命令は絶対であり一路オレオンの都市を目指す。
師の紹介状を手に師の孫弟子にあたる親方の工房に訪問すると、最近数名の弟子の面倒を見ることになり人員が過剰な状況であるという。
親方と二人でどこか修行に適した工房はと考え込んでいた時に、ふと何やら思いついた様子で店の棚から一振りの剣を持ってくると、この剣の目利きをしてみろと渡される。
手に取り目利きをすると なかなかの業物と思われる。
ただ自分でも年に数本なら作製可能であると判断し素直にその感想を告げると、にっこり親方は笑い種明かしをバンドンにした。
この剣は一介の冒険者がまとめて何本も作ったものだと、バンドンにとって驚くような話しであった。
一介の冒険者風情が作った事にも驚かされたが、更に何本もまとめて作っただと?!
先に述べたとおりバンドンも年に数本なら製作の自信があるが、通常の数打ち品と同じ感覚での製作には無理がある。
元腕の良い鍛冶師が冒険者家業に転職し製作したのかと親方に尋ねると、苦笑しながら作製者はまだ若い男だと説明される。
うんうん唸りながらバンドンは考え込んだ、信じられない 鍛冶師になる為にはドワーフ達は師の元で最低数十年の修行を行い、その後今回の様に各地に武者修行の旅にて一人前と呼ばれる。
それが若い人族の男が、長い下積みにおいてバンドンが築き上げたレベルに匹敵する技を持っている?!
信じられなくて当たり前なのだ、単なる天才とて冒険者家業の合間に剣を打った?
バンドンは軽いパニック状態になり、混乱していた。
その様子を工房の親方も見かねて言葉を続ける。
剣を持ち込んだ当時に3人の弟子にも今と同じ様に鑑定させたが、バンドンと同じ様な反応だったと その後弟子達が目の色を変えて修行に打ち込むようになったあらましを説明する。
「どうだ、その男の元に行ってみる気がないか?」
その男の元で修行して技を盗んでこいと親方は続けた。
その男は最近出来た大森林の森の第二開拓村にいるはずだ と親方は言う。
なんと 我が故郷の膝下にそんな男が住んでいるのか?!
行く! いや 大森林に帰り第二開拓村へ向かう。
な なる程…。状況説明は良く分かったが、困ったな、、、。
妻達が二人の様子を見ながら苦笑している。
まぁ 立ち話もなんだ、お茶を飲みながらその辺の話しをしようではないか…。
ユウゾーはどう説明すれば良いか、頭を振りながら家に案内する。
その後にバンドンとケイトがつづき、更に面白半分の妻達がにこやかに続いていく。
「な 何と、錬金術の技にてその様な事が可能なのか?!」
バンドンが大きな目を更に大きく見開きユウゾーに問うた。
テーブルに乗っていたお茶セットが危うく床に落ちる程の勢いでバンドンがユウゾーに迫った。
「まて 落ち着け、論より証拠だ」
ユウゾーは落ちそうになったお茶セットを片付けてもらい、テーブルに袋から鉄のインゴットを数個取り出した。
まぁ 見ておけ。 そう言ってユウゾーはインゴットに魔力を注ぎ込む。
慎重に魔力を練り込んでいく、気を抜くと刀身の長さや幅が微妙に変わってくる。
長さや幅が変わるのはある意味許せるが、肉厚が場所により変われば衝撃の際薄い箇所が折れやすくなるからだ、一汗流しながらユウゾーは剣一振りを作り上げた。
う うーむ。
バンドンが出来上がった剣を手に取り何度も確認しながらユウゾーに返す。
見事だ これで綺麗に磨いでいけばどれ程の切れ味に変わることだろう。
バンドンは言葉なく返した剣を遠くより眺めていたが、ふと目がテーブルの隅に置いてある残りのインゴットに注目する。
何だ このインゴットは何か可怪しい…。
バンドンの目が鋭くひかり、無意識にインゴットを掴み見つめていた。
この家業に入りイヤと言うほどインゴットを見て触ってきた感が、何かこのインゴットは違うと訴えていた。
この インゴットは…?
手で塊を掴んだままユウゾーに尋ねた。
このインゴットも錬金術を行使して、二束三文の剣を溶かして不純物を無くした塊だと説明する。
不純物を極限まで除去した?!
バンドンは大きく口を開き、そうか…この剣の見事さは極限まで不純物を無くした塊から出来た剣だ。
無論均一に厚さを広げる錬金術の技に感心するも、鍛冶師として不純物の無い剣は永遠のテーマだ。
インゴットの高品質を選び作製途中で考えられる手法で不純物を除去していくが、どんな名人の剣でも不純物の入っていない剣などない。
そうか 目先の錬金術に目を奪われていたが、此方のほうが本命だ。
バンドンは剣の秘密が理解出来た気がした、理解はしてもバンドンにとっては錬金術などのスキルは持っていない、術士に頼むとしてもこれ程の品が果たして可能か?
現代日本と違いこの異世界はまだまだ科学に対する意識が低い、錬金術がその穴を埋めてはいるが100%純粋の鉄のインゴットなど不可能な世界なのだ。
並々ならぬ錬金術の腕前のユウゾーに称賛の声を上げた。
その称賛に照れながらユウゾーはついいらぬ事を口走った…。
いやー そんなに褒められると照れてしまう、これで錬金術のスキルがあれば更に一段階良い剣が出来るかも…?
はいーーーーーーーーーい?!
バンドンが大きく口を開け固まってしまった。
周りの妻達が 馬鹿な事を喋ってと皆が頭を抱えている。
スキルがない スキルがない…。
無限に繰り返すバンドンを妻達が必死に宥め、脳を正常回路に導いた。
「失礼した、取り乱してしまい誠に恥ずかしい」
バンドンは未だ完全復活していない脳をフル稼働させてユウゾーに謝った。
ユウゾーの発言が問題点なのだが、それには敢えて互いに触れぬように会話が続く。
「是非ともこのバンドン ユウゾー殿にお願いがあります」
先程までとは違いしっかりとした口調でユウゾーに要望を伝えるバンドンである。