127 いざ さる母娘との再会
新開拓村が稼働し始めた、もうすぐ第二陣の移住者も移動してくる。
第二陣は個人店が主の為に各自が到着と共に活動を開始する。
忙しく畑を耕しているユウゾーの元に可愛い訪問者が訪ねてきた。
「あれ ケイトじゃないか、新開拓村に居住してきたのか?」
森の中で魔物に追いかけられていた屋台の娘だ。
「えっ この凄い畑はお兄さんの土地なの?」
改めてユウゾーの切り開いた畑を見渡して驚いていた。
立ち話も何だ、皆に声をかけてお茶の時間にする。
ライラの手作りのお菓子とお茶を勧めて要件を尋ねる。
「お兄さんのお陰でお母さん元気になったの、有難う。お母さんが元気になってからお兄さんを探したのだけど見つからずにお礼が言えなかったの」
おうおう それは良かった。あのポーションが効いたのだな。良かったな。
だが商売はその後あまりうまく行かずに知り合いを訪ねて開拓村に流れてきたそうだ。
その開拓村では新開拓村の拠点の話で盛り上がっており、聞けばかなり恐ろしい場所だが、城壁がしっかりしているので無闇に森に入らなければ問題ないと皆が話していたらしい。
当初知人の仕事を手伝いながらわずかなお金をもらっていたが、このままでは先が見えずにお母さんが悩んでいる時に新開拓村で出店の募集があり、屋台も場合によっては可能だと説明されて条件も良く、ならばダメ元で申請したら運良く許可されて第二陣にて移動してきたらしい。
「それでね お兄さんに謝らなければならないのだけど、貰ったお薬の一本のお薬を大事にとっていたのだけれど、生活が苦しくてお母さんに差し出しお金に代えたの。ごめんなさい」
ふむふむ よくある話だ、気にするな あれはケイトにあげた品だから好きに使えばいいよ。
しきりに謝るケイトを宥めて此処に来た理由を再度尋ねてみる。
「野菜が欲しかったの、昔してたスープの屋台を始めようとしていたのだけど、野菜類は開拓村から運んでくるのでもの凄く高くて屋台で売っても買ってくれるか、お母さんが困っていたの。冒険者達さんが隣の大きな施設で野菜を作っていると教えてくれたの。お願いします、野菜のくずでも結構ですので分けて欲しいの お願いします」
なる程 確かに他の店からも野菜の取引話しが出ていた。
現在ライラが窓口でわけられる量と金額の交渉をしていたな。
くず野菜に近い物で良ければ安く売る事も可能だが一つ心配事がある。
考え込んで返答をしないユウゾーに皆が心配そうにユウゾーを見ている。
皆はクズ野菜ならタダで上げてもと口に出そうだな。
「クズ野菜に近い物は安く売っても良いが、ひとつ条件がある。今お母さんを呼ぶことが出来るかな?」
その返答にケイトは喜びの顔を浮かべ 直ぐに呼んでくると席を立ち駆け出していく。
愛くるしい後ろ姿に皆がほっこりしている中、ユウゾーだけは少し考え込んでいた。
「どうしたユウゾー 何を考えているのだ?」
ニーナとアーシャが子供をあやしながら近付いて来た。
皆の中で一人だけ浮かぬ顔をしたユウゾーに気づいた様だ。
「いや 少し気になる事があってな、思い過ごしなら良いのだが…」
二人から子供を受け取り両手にそれぞれ抱きしめてにこやかに子供達の顔を覗き込む。
暫くしてケイトに手を引かれて母親がやってきた。
挨拶もそこそこにあのお薬のお陰で元気になったと繰り返しお礼の言葉をユウゾーに伝える。
隣でケイトも母親に合わせて頭をぴょこんと下げた。
それを両手で制しながらユウゾーは本題に入る。
ここの畑にある野菜を使って、最高に美味しいと思う野菜スープを作って欲しい。
良い野菜を選んで構わないので 其れが条件だとユウゾーは伝えた。
怪訝そうな顔をした母親と皆の顔を眺めながら さあ始めようと急かす。
感の良いマーラが あっと一言呟いた。
疑問はあれどまずはその依頼に答えようと母親は畑に向い、これと思った野菜を何種類か集める。
持ちきれぬ野菜はユウゾー達が手伝い、家の台所に食材を運びこむ。
調味料も各種用意して好きに使って良いと伝え、出来上がるのを待つことにした。
隣の食堂にて出来上がりを待っている、隣の台所では母娘が懸命に美味しい野菜スープ作りをしている気配が伝わってくる。
待つことしばし、最後の味見をケイトにさせたのか、喜びの声が伝わってきた。
「美味しい こんなスーブ初めて。お兄ちゃん達喜ぶよ」
可愛い声が聞こえ 皆がにっこり笑い出す。
その声に やはりかとユウゾーは呟く、マーラも少し苦笑いをしている。
皆が待つ食卓に野菜スープが運ばれてくる、皆が手を合わせ いただきますと出来たてのスープを飲み始めた。
ケイトと母親が心配そうに皆の食べる様子を見ていた。
スープを飲み終わり皆の表情を眺めてみた、飲み終わった者まだ途中の者それぞれだが、その顔は一様に少し困った顔をしていた。
皆も同じ感想だとユウゾーは感じたのだ、ゆっくりと母娘に向い一言伝えた。
「このスープでは商売は難しい」
そこには凍りつく母娘の姿があった。
野菜からそれなりの旨味が溶け出していて前回食した時に比べ味があがっているが、それだけだ。塩味だけの限界なのだ、つまりどこにでもある味で、それ以上でもそれ以下でもなく、普通の味である。
場所によってはこの味で十分売れるかもしれない、だがこの地では無理とユウゾーは判断した。
ユウゾーが持っている香辛料等の追加でかなりの評判を呼ぶかもしれないが、香辛料はべらぼうな金額が必要となる、屋台でおいそれと使える品ではない。
母娘が屋台のスープ屋を再開したいと言う話からユウゾーは直ぐに思い出した事があった。
何故この母娘がオレオンの東門にて屋台を開いていたかである。
もしかして当初は別の場所で店を開いていたのかもしれないが、いつの間にか東門が店の定位置になっていたと思われる。
何故か?東門から行けるのは特別なケースを省いて初級ダンジョンへのアプローチ門だ。
つまり冒険者に成り立ての腹すかし底辺冒険者が店の得意客となっている筈だ。
味よりも安く腹を膨らませる事を優先する者達が多いのが東門の客層とも言える。
それに対してこの新開拓村は当面3級冒険者以上の中堅者が対象だ。
初級と中級との格差は大きい、食い扶持に困らず装備品にも金を回せる冒険者となる。
彼女等は苦しかった底辺から脱却し、食べ物や飲み物をより良い物に変換している。
つまり舌が肥えてきたのだ、そんな者達にこの野菜スープはどう思うか?
一度は買うかも知れないが、二度三度と買ってくれるかと問うと甚だ疑問となる。
これらの点をわかり易く母娘に伝えた。
自分等の見込みの甘さに気づいた様だ、実際には屋台を出して見なければ何とも言えないが、それ程外れた考えではないと妻たちを見てみる。
妻たちはユウゾーに賛成と小さく頷く。
野菜は譲っても良い、だが何か屋台以外の事を検討した方が良いと思われる。
打しおれて俯いて固まった母娘にユウゾーは一つの提案を投げかけた。