114 いざ 新拠点探し
開拓村にて遠征の準備を済ませるとユウゾー達は門から出て一路西に向かう。
これより先は基本道がない、冒険者達が歩いた獣道にも匹敵するような道なき道を進む。
道を知るミューを先頭に6名がひたすら歩く。
途中出没する魔物を狩りながら今日の野営地に到着した。
「ふむ この空き地は冒険者達が切り開いた空き地なのだな」
マーラは感心するように辺りを見渡す。
「少しでも早く魔物を見つけようと皆が少しづつ切り開いたようだ」
ミューも土地の様子から先輩達の苦労を偲んでいる。
お風呂と料理をプラハとライラにお願いしてテント周りに堀と防御柵を設置する作業を行い、最後に魔物除け袋を撒き散らしてようやく一息入れるユウゾーである。
次の日と翌々日もひたすら魔物退治を繰り返す。
「ここは魔物の数が多いな」
「此の地区は冒険者もそれ程多くは訪れないからな」
先導するミューが答える。
確かにこの地区は魔物天国なのかも、お陰で魔石も順調に回収していく。
「将来道を作るときにも苦労しそうだな」
将来と言ってもそれはもう近い未来なのかも知れない、作業員を守る為にはそれなりの護衛を必要とするだろう。
3日目の昼過ぎにようやく目安の川に到着した。
「此処ら辺がギルドの候補地になるのか?」
マーラが写しの地図を確認しながら そのようだ と答える。
「川はそれほど大きな川ではないんだな」
「この川を逆上って行くとエルフの第一村近くまでいけるのだぞ」
ミーアが川の水で汗をかいた顔を洗いながらユウゾーに教える。
「すると この川は途中で大きく曲がって北へ向かうのか?」
「あの遠くに見える山々から流れ出している」
マーラが木々の隙間から遠く見える山々を指差した。
「この大森林にはエルフ族しか住んでいないのか?」
「いや 第一村から4日程北東に進むと山の裾野に出る、その辺りにドワーフ族が住んでいる」
あっ そう言えば昔ミュー達が品物の護衛でドワーフの村に向かったと言っていたな。
「彼等はやはり鍛冶職人が多いのか?」
「ああ 鍛冶と鉱石回収なら彼等が一番だろう」
ふむふむ 孫娘のラノベ本と相違がないのだな。
将来村に住み着いてくれれば大きな戦力になりそうだが、無理かな?。
「いや 流れのドワーフが開拓村にもいるぞ。今度紹介しようか?」
なんと それはいい情報だ、是非にも紹介して欲しいな。
この日は川辺にて野営となり、翌日から辺りの散策を行い状況確認に入る。
「どうだユウゾー 土の状態は?」
ミーアが心配そうに土を調べているユウゾーに尋ねた。
「ふむ 俺も農業に関しては家庭農園のレベルだが、さほど悪いとは思えないのだが」
地表を軽くほじくり返して掌に広げて観察してみるが、腐葉土等の量を言われると自然の状況にしては少し少ないかなと思う程度である。
土中の虫や魔法で掘った何箇所かの土の中を見ながら困惑している。
「比較対象がないと何とも言えないか・・」
この土地の土の状況を覚えておこうとユウゾーは立ち上がる。
「水は川の水を引くか掘ってもさほど苦労なく出てくる筈だ」
マーラも辺りを調べてさほど土地の状況は悪くないと感じている様だ。
「だがユウゾー よく対岸の木や草の状況を見てくれ」
マーラが指さす方向は対岸の方向だ、何が違うかとユウゾーは凝視してみる。
「うーむ よく分からんが少し木の勢いが違うかな?」
しまったな 農業の専門家か土に詳しい者を同行させるべきだったか、ユウゾーは自分の不手際を悔いた。
「私も農業については左程詳しくはないが、対岸の草や木は此方側に比べて勢いがある」
指摘の通り比べればマーラが言わんとする事が分かるが、、、。
明日は川を渡り実際に確認しよう。
一日かけて新拠点に相応しい場所を探すユウゾー達であった。
翌日ユウゾー達は川を渡り対岸へ移動する、川幅は20m程度で水量も思ったより多くはないが浅瀬を選んで移動する。
「この飛び石状態も過去の冒険者が設置したと聞いている」
ミューによれば浅瀬を選んで石を投げ入れていたと言う。
浅い場所は膝下くらいかな流れに注意しながら対岸に渡る。
土地の変化は素人のユウゾーにもすぐに理解した。
森に入り込むと足の裏に伝わる感覚が違うのだ、直様魔法にて地表の表面を掘ってみる。
「やはり 腐葉土の厚みが全然違うな・・」
辺りの魔物の警戒をお願いしてユウゾーはマーラと共に森を歩いては地表をほじくり返す作業に没頭していく。
「凄いなマーラ これ程の違いがあるとは、、」
「だろ この地は農業に向いている、私でもそう思う」
定期的に出てくる魔物を他の者達が次々に始末する。
「同じボアでも一回り大きな魔物がいるのがこの土地だ」
いつの間にか魔物の死骸が積み上がっている、皆が何となく喜んで対応しているようだ。
「自然の状態がよく残っているのか餌が豊富なのだな」
冒険者にとっては宝の山かも、無論それなりの腕がなければ返り討ちにあうだろう。
「この場所から例のダンジョンには何日かかるのかな」
「約1週間前後だな 魔物の襲撃状態によっては更に数日かな?」
魔物次第か、中央部に行けば行くほど魔物の層は厚くなるからな。
ゴブリンのテリトリーまでは約3日程の地点になる。
ふとあのゴブリンキングを思い出す、いずれはあのキングと雌雄を決するかもしれんな。
互いのテリトリーを侵さなければ良いが、、。
更に一日懸けて辺りの土地を確認したユウゾーは、昨日作った10m四方の土壁をそのまま残して対岸へ移動した。
残した土壁の砦は二つの意味がある、一つは拠点作りに適した場所で有ることを示した目印代わりと、魔物に依る土壁の耐久性テストを行う為だ、土壁の中にはわざと魔物の死体を数体置いてきたのだ。
血の匂いに反応して魔物が集まり土壁を壊そうとするだろう、現在オーク級であれば防げる防御の硬さにしてある、これを破る魔物が出没するかのテストも兼ねてある。
森の中から出てきて川岸に到着したユウゾーは比較的に川幅の狭い場所を選び、近くの大きな木を数本切断して丸木橋をつくる。
これで冒険者達も安全に川を渡れるだろう。
「これだけの大きな木を魔法袋に収める事が出来るのか、重量もそうだが目茶苦茶な魔法袋だな」
木の運搬用に利用した魔法袋を皆が呆れて見ていた。
なんせヘパフラスコ神様からの贈答品だ、かなりの逸品であるのは間違えない。
対岸に渡ったユウゾーはふと思いつきミューを呼ぶ。
「近場の岩塩地区まで何日かかると言った?」
ミューが改めて3日かかると説明するとその場所まで案内してもらう事にする。
「ふむ 岩塩の質はまあまあか、問題はないが例の場所の岩塩に比べると劣るな」
例の場所とは昔ユウゾーが一人で住んでいた洞窟の近場にあった岩塩地区である。
「あの場所は特別だ。彼処の岩塩は高く売れるからな」
ミューも昔を思い出して頷いている。
「久しぶりに洞窟まで寄ってみるか・・」
この世界に来て初めて居住した洞窟が少し懐かしくなったユウゾーである。