110 いざ 開拓村へ
オレオンの街まで通常より一日多く懸けて帰り着いた。
直様ユウゾーはアーシャを医師の元に送り正式な懐妊の知らせを聞かされた。
其の夜はアーシャの妊娠の祝で盛り上がり、夜遅くまで賑やかな宴となる。
無論アーシャは途中で退席して休ませる。
本人は一緒に皆と居たい様子だったが、悪阻が治まるまでは禁止です。
さて 今後の事だが、どうするべきか?
家の契約は延長も可能だが、この地に逗まっていても何か違うような気がする。
「エルフの村に帰ろう」
プラハには申し訳ないが、一旦アーシャが安全に住める土地にて過ごさせてあげたい。
他のエルフ達も あの村が一番安全だと 賛成してくれる。
家の契約はまだ半月以上残っているので、この家でアーシャの回復を待ちつつサイドビシネスにて金を稼ごうとユウゾーは考える。
無論妻達は数人で近場に狩り三昧をお願いして、ライラが家の中を一手に引き受けてくれる事になった。
「よし 生まれる子の為にミルク代を稼ぐぞ」
ユウゾーは気合が入る。
薬師店と武器屋をそれぞれ週に二回訪問する。
一回毎に約1千万程の売上を上げる。都度週に4千万の収入になる。
其の気になればその数倍の売上も可能だが、目立ち過ぎるのは良くない。
ユウゾーは控えめに稼ぐをモットーにしたが、それは本人だけがそう思っているだけで、周りから見れば十分に目立っていた。
「おい ユウゾー、職替えしたのか?」
アーシャの懐妊がいつの間にか冒険者ギルドにも噂が届き、忙しい最中ギルマスとダンカン氏が祝の品と状況確認に訪れていた。
「い いやアーシャの側に居てあげたいので、内職をしているだけだ」
少し苦しい言い訳を語るユウゾーである。
「忘れたのか?ギルドに高額入金すると把握対象になっている事を」
そうだった、高額入出金に関しては防犯上の観点からギルマスに報告が上がるんだった。
つい うっかりしてたな…。
この二週間ちょいで1億は稼いでいたはずだ。
銀行代わりにギルドに預金していた自分を責めた。
「まったく 異邦人の力か、薬師店と武器屋にて荒稼ぎしおって」
いえいえ これでもかなりセーブしながらの結果なんですが・・。
でもよく立ち回り先まで調べたな。
「で アーシャの具合はどうだ?エルフ村までの長旅は問題ないのか?」
ユウゾーの隣に座っているアーシャに心配そうに問いかけた。
「ええ師匠、かなり落ち着いてきましたので大丈夫です。それに開拓村まではユウゾーが馬車を借りていますので、ご心配なく」
アーシャも周りの者からの過剰な心配にかなり申し訳ない様子で答える。
「他の者達の姿がみえないようだが?」
「ああ もう帰還の準備でお土産品等を買いに、、」
お土産も確かに購入しているが、村の食料状況を考えながら不足している穀物や衣服・日用品関連と幅広く買い漁っている筈だ。
ユウゾー達が村にもたらす利益はユウゾーが考えているより遥かに上を行くものになっている。
魔法袋を何袋も追加で作製して渡してある。
購入資金はすべてユウゾーの私金によるものだ。
「そうか? この街でもお前達の買い占めは有名になっているぞ。まるで新しく開拓村を作る勢いだとな」
ダンカン氏も含み笑いでギルマスの話しに頷いている。
そ そんなに有名な話しになっているの?少しやり過ぎか、、。
「いいさ 街の売上に協力して貰っているからな」
それなら良かったが、確かにマーラは当初渡したお金を使い果たし、追加のおねだりをしてきたな。
うーん 今度買い物リストを見せてもらうか。
今回ユウゾーは武器店等に商品を納める以外はほとんど外に出ていない事を思い出す。
「おう 先程も言ったがお前達の事を商人達は 開拓団が来た と呼び合っているそうだ」
なんだそれ? 変な噂が流れているのか、それにしても開拓団とは…
いや、待て。開拓団か・・。それ面白いかも いや、後でゆっくり考えねば。
ユウゾーは何気ない会話から少し気になるワードが頭から離れなかった。
「マーラ 今回どの位買い込んだのだ?少し多すぎないか」
「そうか?前回とそんなに変わっていないぞ」
いやいや 前回は冬越しの為の食料援助があったからかなりの金額を使ったが、今回はまだ半年しかたっていないのだけど。
「まぁ 店で見ていると欲しい物が次から次に出てくるのも事実だな」
エルフ村で雑貨屋でも開くつもりかな?其れはそれで楽しいのかもな。
いつの間にかマーラにまるめられている事に気づかないユウゾーであった。
やがてオレオンの街から離れる日が来た。
貸馬車に乗り込み知り合いの冒険者や買い占めた店の店主達も、ユウゾー達に別れを惜しんで集まってくれた。
おい 冒険者達はわかるが、店主まで集まってきた?絶対次回を期待しての見送りだな。
軽いため息と共にユウゾーは大森林の開拓村を目指し馬車を動かす。
空は青く空気は澄み渡っている、旅には絶好の日和である。
アーシャの体調を考えて休み休みの旅となる。
別に急ぐ理由もない一行が大森林の開拓村に到着したのは一週間後の事だった。
草原から森に入ると皆が安堵の表情を浮かべる。
森の濃い空気が漂ってくると何故かユウゾーも落ち着いた気になる。
うん 大森林の空気が自分も合っているのかな?
住むには厳しい環境ではあるが、慣れると色々大森林からの恵みも分けてもらえる。
エルフ達がこの森から出たがらないのも何となく理解出来る様になってきた。
ただユウゾーは一応都会育ちである、物の豊かさは森と都会では雲泥の差があるのは理解している。
森はあくまで生きるに最低限に近い恵みしか提供しない事も理解している。
何とかこの森で二つの良い所を合体して住めないかと考え始めていたユウゾーだ。
開拓団か 開拓団な・・。
ユウゾーの頭にそのフレーズが流れ込んでくる。
エルフの村にて永住もよいが、漏れ聞こえてくる情報は少し組織として膠着化している点が気になっているのだ。
やるなら一から妻達の協力を得て作り上げたい。
その為の準備が必要になるし、場所選びも重要な問題点だ。
ただ考えもなく村を作れば孤立する可能性もある。
それは単なる世捨て人の類だろう、ユウゾーには妻もこれから増える家族もいる。
単なる世捨て人の感覚で開拓は無謀なのだ。
うーむ やはり二つの文化の融合方式にせねば・・。
それをどの様に解決していくのかが、ユウゾーには今現在不明であった。
無い知恵を絞り出している間に馬車は森の開拓村に到着した。