10 いざ 開拓村 1
掘るにしても200キロは半日、場合によっては一日仕事だろう。魔物も出没するからな。
これは一つ提案してみるか。
「 なあ ミュー一つ提案がある。私はこの世界で初めての村訪問になる。勝手も分からんし、お前の先ほどの話しから推測すると、無用のトラブルが発生する可能性も有るだろう?そこで村訪問に関してミューが同行してもらえればその可能性がかなり減ると思う。この提案に同意可能であれば、代償としてこの場で 200キロの岩塩を支払う事が可能だが?」
彼女の顔がひくついている。
「なぁ ユウゾー。1トン近くの魔獣を収納して、昨夜は木の柵を出現させた、それに各種道具や ワンタッチテントか?まで入っている。
最後に 200キロの岩塩を出すだと?どれだけ規格ハズレの魔法袋をもっているんだ!!!
この場でお前を殺しその魔法袋を売ればどれだけの大金が手に入るか認識しているのか!? ハァ ハァ…」
「お お落ち着け。息がかなり切れているぞ。」
「興奮しているのはお前が原因だ!! はぁーーー。 了解だ。その話に乗る。岩塩の場所まで往復4日 採掘に1日 計5日の短縮可能だ。浮いた5日で他の仕事をこなす事も出来る。私にとっても有り難い提案だ。 分かっているが何かしっくりこない。私なんか何年もかけてようやく 100キロの魔法袋を手に入れる事ができたのに…」 ブツブツ……。
「えーと 商談成立と言うことでいいんだな。その袋を貸してくれ、入れ替え作業をする」
片手を自分の魔法袋、もう一方の手を商人の魔法袋に手を置くと、頭の中で移動のイメージを固める。
「よし、岩塩200キロ 移動せよ!」
光の束が一方の袋からもう一つの袋に移動していく。
「完了! 確認してくれ」
ミューは袋を受け取り内容を確認する。
確かに中身と重量は間違えない。念の為手のひらに少量の岩塩を呼び出し、指のひらで捏ねて口に運び味を確認する。
「いい岩塩だな。ありがとう。さて村への帰り道なのだが、この森を直線的に進み距離を縮めたいと思う。一人では決して通らない道だが、ユウゾーの魔法銃と二人ならば問題ない。では準備を始めよう」
ミューには申し訳ないがサイコガンは秘密にしておいた方が、今後のためによいと判断し新型の魔法銃と説明したのだ。
手早く準備を終わらすと、ミューが先頭及び道案内で後方はユウゾーが守る。
「よくぞ次から次にゴブが出てくるものだ。 新しい集落が近くに出現したとしか考えられないが…。」
木の上に飛び乗り隠れているゴブリンを立て続けに射ると、ミューは獣人族の特徴でもある身体能力の高さを生かして、軽々と木から飛び降りた。
残りはユウゾーが次々にサイコガンで倒していく。
「午前中で二人で30体は倒したよな。まぁ銃の腕前が上がっていくのは喜ばしいのだが…。」
普段なら魔石の回収を行うのだが、いつ襲われるかわからないので、先に先にと歩を進めていく。
「野営地に到着だ」
ようやく目的地に着く。
流石に疲れた。本日何体の魔物と交戦しただろう。
見晴らしのきいた場所で休憩をとり、一息いれる。
魔法の水筒を取り出しミューに勧める。
この魔道具の水筒 かなり高価な品だな。ユウゾーと行動してると段々価値観が狂ってきそうだ。
水分を補給しながらミューは呟いた。
「おっ レベルが上っている。 次の討伐数は300…」
ステータス板を覗き込んでいたユウゾーは思わず呟いた。
「うん? それはおめでとう。 因みに現在のレベルは?」
「3だ。」
「先は長いな。 私は11だぞ まぁ互いに気長に行くしかないな」
「なぁ 限界レベルに達したら、それ以上は上がらないのか?」
「ははは 正直私の周りでも限界値に達した者は聞いた事がない。 神の気紛れ はそんなものだ あっ、可能性があるのはドワーフ・エルフ族の長命族かな。たまに村でも見かけるな」
レベルが上がる事を 神の気紛れ と呼んでいる様だ。
気持ちはわかる。忘れた頃にようやく上昇するからな。
「さて 野営の設置だ がんばるか」
周りに次々に出現する堀もどきを、半分死んだ目で見ているミューである。
その次の日の昼過ぎにミューが住む 開拓村 に到着する。
一日は短縮できたと彼女は言うが、その労力を考えると少し考え込む。
開拓村とは言うが、基本冒険者の為の村と言ったほうが正解だ。
村の人口の約半数近くがこの森で一旗上げようとしている冒険者だ。
そして1/4 が冒険者に関連する商店や職人達。残りの1/4 が純粋な開拓民で占められている。これからが開拓民としての本格的スタートとなる。
「ミューか? お帰り。仕事は無事に終わったか?」
門番兵らしき女がにこやかに対応する。
「あいよ。お陰さんで此方の兄さんの協力があり、予定より早く完了したよ。村も特別変わりなかったのかい?」
「ああ このところ平和なもんだ。と、男が一人か? これは驚いた」
「その件でギルドマスターに報告がある。通っていいかい?」
もろ好奇な目を向けている門番兵を無視して、ミューがユウゾーの背を押し村の中に案内を進める。周りを太く高い木の柵で囲まれた門を潜ると、景色が一変して人が住む居住区が目に入る。久方ぶりの文明圏と異世界での初めての訪問先にユウゾーはしばし見とれていた。
村の中は物売りの声と冒険者の活気が溢れている。正確には人数的には30名弱程度なのだが、異世界に来て初めての体験となる。
「本当に女性ばっかりだな…」
「はは 嘘は言ってないだろう?しっかりと私の後から付いてきてくれよ」
村の商店や出店がならぶメイン通り?の左右を確認しながら歩む。
ユウゾーが通ると一瞬会話が止まり、女性たちの好奇な視線を全身に受ける。
軽い緊張感に包まれ、ミューと一緒で良かったとしみじみ感謝する。
ギルドに行く前に依頼の完了報告に、とある商店に訪問。
店の奥から店主が顔を見せるとミューは預かっていた魔法袋を手渡す。
「おい 随分早かったな。まぁ、早いぶんには助かるが…」
中身の確認後、依頼料を受け取り店を出ようとすると呼び止められて、二言三言会話を始めたが適当な感じで話を終わらせ店の外に出てきた。
「ふぅ お前さんの事を気になったようだ。質問が五月蝿い事…」
「そうか やはり此方では男は目立つのか…」
「まあな それで後は昨夜の打ち合わせ通り冒険ギルドに登録訪問と、色々な部材の買取で良いのだな?」
「手間を掛けるがその分後で還元する」
「はは それは嬉しいね。お金はいくらあっても邪魔にならないからな」
にやりといい笑顔になると先ほど来た道に戻る。門の近くに冒険ギルドの建物があるそうだ。だいたいどの町でも似たような場所設定になっていると教えられた。
「ライラ 新規冒険者の登録をお願いだ」
「はい ミューさんお久し振りです。新規の方此方に…」
猫耳の可愛らしい受付嬢が笑顔のまま私を見て固まった。
それを見てミューは やったと 悪い顔をして喜んでいる。確信犯だなこいつ…
「し 失礼しました。えーと男性の方の登録に関しては…」
「分かっているよ。ギルマスは居るかい?」
「は はい。暇そうにしていますので呼んできます」
ギルマスは暇なのかい。いい事なんだろうね。こんな僻地で忙しすぎるのも問題だよな。
話が通って二階のギルマス室に呼ばれたのでミューと共々部屋に訪問をする。
「さて どんな事情なのか詳しく説明しな」
ギルマスは中年のオバサン風でなかなか鋭い目つきのやり手と推測する。
ミューは俺との出会いと今までの経緯について話だす。
「あいた、迷い人の異邦人か。森に寝蔵を構えて一人で生活していたと言うのかい?まったくあの森に棲み着くなんて… 3百年前のあの迷い人といい、なんでこんなにも常識外れが多いんだ……」
最後の方は何か失礼なような気がするが、過去にも同じ様な事が発生したのだな。それよりも 3百年前に迷い込んだ人物を知っているような口調だが…
「ああ知っているよ 名は確か ミヤタ ケンイチ だったな。私がまだエルフの第一村に居るときの話だからな。ケンイチも散々無茶をやってこの世界を楽しんでいたな」
でた!エルフなんだ このギルマス! 確かに若い時は綺麗な… ごほん、失礼。
「なんか非常に無礼な… まぁいいさ、ついでに少し話しておくと私は人族とのハーフエルフなのさ」
姿や魔力は純粋種とそんなに大差はないが、寿命に関しては純粋種より劣るとの事。
大体7割り程度だそうだ。それでも5百歳以上の寿命だ。信じられんわ。
「話をそちらの事に戻すが、森から出てこの村に住む気はあるか?」
私は暫く考え込むが、今現在はその気はない。しかし物資は不足する物があるし、偶に村に訪問して倒した魔物の部材と交換して補充したいとその旨を伝えると、深い溜息とともに承諾をしてくれた。
「特殊なケースだが、ギルマス権限で認めよう。迷い人は基本的に強く拘束せずが基本方針だからな。下手に拘束するとケンイチみたいに国がひっくり返りそうな大暴れをされた前例もあるからな……」
えーと そのケンイチさんは何をしたのかな?いや聞くまい。武士の情けだ?
下の受付で登録を済まし、持参した部材を買い取るとの事。