2-13 『女の子=裏の顔を持っている』
「『現代版 ロミオとジュリエット ~二人の距離は何によって決められるのか~』を開演いたします。開演中は、周りのお客様のご迷惑になりますので、携帯電話・スマートフォンはマナーモードにして劇を楽しんでっいてください」
生徒の少しフランクな声が聞こえる。
その言葉で、観客たちの喋り声は潮が引くようにスーッとなくなってしまい、静寂が訪れる。
そして、体育館の遮光カーテンが閉められ、灯りも全て消えてしまう。
その静かな闇に紛れて、俺と凛とクラスメイトが舞台の真ん中に立つ。
灯りがパッとついた。
俺は、緊張しているためにくる唇の渇きを誤魔化すようにキュッと唇を噛み、セリフを言おうとする。
だが、俺の言葉はセリフではなく、別の言葉を呟いていた。
「体調、大丈夫か?」
気づけば、凛に向かって俺は、その言葉を呟いていた。
凛の頬は、青白くこけて、唇は、紫色になっていた。
「大丈夫だよ!ロミ君。ちょっと、文化祭で主役なんてもらったから緊張しちゃっただけ。だから、心配しないで!ロミ君、私の心配してくれるなんてありがと!」
凛は、ジュリエットとしてのセリフを呟く。
「いや、クラスメイトを心配するのなんて普通だよ」
少しだけ、心配だったけど俺もロミオとしてのセリフをはいた。
様子のおかしい凛を心配に思いながらも俺たちの劇はつつがなく進行していくのだった。
*
俺の心配は杞憂に終わった。
劇は、何事もなく終わりそうだった。
あとは、最後にキスをし(た振り)て終わり。
俺は、安堵のため息をつきそうになる。
その時、声がした。
少し遠い所から大きな声が。この舞台には聞きなじみのない年上の女性の声が聞こえた。
*
~千鶴さんと、健太郎が空き教室で話している頃~
千鶴さんが、けんたろーを連れて行った。わたしは、それをこっそりと見てしまっていた。
というよりも、わたしの目からはけんたろーが千鶴さんを連れて行ったようにも見える。
わたしは、頑張って千里さんとけんたろーをくっつけようと思っているのに!
最悪!!私の苦労を何だと思っているんだか。
わたし、多少はけんたろーを痛めつける権利あるよね??
わたしは、そう思いながらも約束の場所に向かう。
あの電話の後、『彼女』と約束した場所へと。
「千里さん、久しぶりです。おはようございます」
わたしは、ニコニコとした顔で声をかけた。
「おはよう、凛ちゃん」
千里さんも同じようにニコニコした顔で声をかけてくる。
ただし、わたしの目も千里さんの目も全くもって笑っていなかった。
「ところで千里さん、ようやくけんたろーと会う気になりましたか?来たってことはそういうことですよね??」
「う~ん。それは、違うかなぁ。ただ単に友達と遊びに来ただけだよ。というか何で、凛ちゃんに命令されなくちゃならないのかな?」
「いやいや、卑怯なことする清純風ビッチ女に対してアドバイスしてあげているだけですけど?もしかして、性格悪すぎてアドバイスを命令とか取っちゃっています?まさか、千里さんの性格がそれほど悪いとは思っていませんでしたよ」
「私も凛ちゃんがそんなに嫌味を言う子だなんて思っていなかったよ。健太郎君が見たら泣いちゃうんじゃないの?」
「大丈夫ですよ?けんたろーは今、もう一人のビッチ女とお喋り中ですから」
ここまでの嫌味を言っても可愛い千里さんは出てこなかった。
やっぱり、こっちが本性だったのだろうか?
少しだけ、恋心とは別の部分がチクリとする。
「そうなの?じゃあ、私も千鶴ちゃんがいないなら好き放題できるね」
「性格悪すぎですね」
「そうだよ!だから、うざい女性への免疫のない男からせいせいしているって本音も言えちゃうんだよね」
千里さんは、ニターッとして、笑みを濃くする。
「黙って!!!」
わたしは、思わず叫んでしまう。
千里さんだけはやっぱり許す訳にはいかない。
こんなに性格悪い女の子とけんたろーが付き合うことは阻止しなければならない。
わたしは、自分の思いとけんたろーへの思い遣りの方向がおんなじになって、ほっとしてしまう。
「あらあら、凛ちゃんはやっぱり初心だねぇ。好きな人の悪口を言われただけで感情的になるなんて。感情的になっちゃうけんたろー君とはお似合いなんじゃない?」
千里さんはそんなことを言ってくる。
「っ」
「じゃあ、あの女性への免疫0男君に私のこと伝えて諦めさせておいてねー。ストーカーとかされるのウザいし。それに、…」
けんたろーの悪口をその後も次々と言われて怒りが沸々と湧いてくる。
わたしは、拳を一度握って、生まれて初めて同性の人の胸倉を掴んで自分の思いを拳にのせる。
パーンッ
決意をした数舜の後に目の前で、顔だけは清純派の美少女が吹っ飛ばされていた。
しかし、それは、残念ながら私の行いによるものではなかった。
私の拳は千里さんに触れることなく空を切っていた。
そして、その行為を行った人も目の前にいた。
けんたろーと話しているはずの千鶴さんが見たこともない怒りの形相で立っていたのだった。




