3 『母=最恐』
そのまま学校が終わって帰宅する。親のことを考えると憂鬱な気持ちになっていた。親が成績のことで小うるさいのだ。“親がうるさい“と言っても他の家と違わず母さんだけがうるさく言っている。
「最低でも地元の国公立大学に現役で受かりなさい」と、言うのが高校一年生のときからの口癖だ。
そういう母さんは情報網がすごい。どの大学の偏差値はどの程度かとか、学校で大体何番目くらいならどの大学に受かっているのだとか、学年一位が誰で、二位がだれだれでとか俺でも知らないことをいってくる。因みに友達の少ない(友達は凛以外いない)俺は学年一位が誰かなんて知らない。
世のお母さんたちコミュ力ありすぎじゃない?といつも思う。うちの母だけ?
今日も御多分に漏れず成績のことをとある筋から聞き出してしまったらしい。
「けんたろー、今日この前やった模試の成績が返ってきたらしいじゃないの?見せなさい。」
そう言って微笑みながら近所では美人と名高い顔で問いかけてくる。
美人のほほえみは怖い。
先ずは表情が全く動かない。微笑んでいるのに動かない。田中み〇実が愛想笑いしているのをみて、可愛いと同時に怖いと思ったことはないか?
“うっせーよ”っていう心のうちが聞こえてくるような気がしたことはないか?
うちの母親はまさしくその笑みだ。田中み〇実なら可愛いと思えるからまだいい。でも実の母親が そんな笑みで待っているのは地獄だ。死刑宣告五秒前の心境だ。
「く、クラスによってじゃないかなぁ?うちの所は帰ってきていないよ。」
最後の抵抗をしてみるが凶悪な情報網をもつ母が断罪してくる。
「ふ~ん、そうなの~。三好さん家に聞いたんだけどなぁ~。健太郎君、リンちゃんと同じクラスじゃなかったんだぁ~」
怖い怖すぎる。何、その不自然な語尾は。そして未だに張り付いている笑顔。
ここで息子の俺が今言った母親の言葉に対して翻訳コン〇ャクばりの名翻訳をしてみようと思う。
“うっせーんだよ。こちとら言質はとれているんじゃ、ぼけ。さっさと見せんかい”
・・・やばい。翻訳したらホントにピンチな気がしてきた。けれど、もうどうしようもない。
母が高校の入学祝いに買ってくれた茶色の少し大人っぽいカバンから青色のとある予備校主催の模試の成績評をだしてみせる。
そうして、息子は黙って母からの死刑宣告を待つことにした。
成績を黙ってみる母親。そんな母親をじっと見ていると母親の感情がわかってしまう。
先ずは、全体の成績を見て、唇の片端を僅かに歪める。そうして、次には各科目の欄をみて眉をひそめていく。いつしか貼り付けていた笑みも取れている。
死にそう。怖すぎる。なにこれ。
ああ、天にまします神よわれらに祝福が訪れんことを。
「健太郎。これから一年間ゲーム禁止。そして、来週から塾に行ってもらいます。」
ああ、この一年間の俺よ強く生きてくれ。
そうして、私の一年は終了した。
*
まぁ、現実にはそんな早く受験生の一年間は終わらない。
とはいえ、塾に行くにしろ中途半端な季節だ。だからワンチャン夏期講習まで塾に行かなくてもいいんじゃないか?
寿命がまだ三ケ月程あるんじゃないか?
「健太郎、昨日の塾の件だけど中途半端なことになっちゃうからあなたを通わせるのはやめることにするわ。」
はい、きたーーー!!!
奥さんありがとー!!寿命が伸びた。
「だから今日から母さんの伝手で家庭教師を呼んであるからしっかり勉強するのよ。」
・・・
「最初っから塾じゃなくて家庭教師でよかったのよねー。けんたろーなら大丈夫だから受験勉強頑張りなさいよ。」
はい、そんな訳ないですよね。
そんな幻想はその右手でぶち壊すと言わんばかりに右手を掲げて力強く握りしめる母親が玄関に立っていました。
最悪だ。