記念動画(その2)
視線が窓際の真ん中あたりの席に向けられた。すると、何やら3人の生徒がこちらを見ているようだ。
見ているようだ、というのも、他の生徒は風景とともに顔にぼかしがかかっているのだが、この3人の顔には、どこかで見たことがあるようなキャラクターのイラストが貼り付けられている。
『はい、左からキャラクターの説明をしますね。
”お前のものは俺のもの!”言わずと知れたガキ大将!
そして真ん中、悪意を感じるニックネームナンバーワン。なんとブタとゴリラを融合してしまったこの人!
そして最後に右、悪い人と言ったらこの人。ナメクジの星の出身で、緑色で、触角が2本生えていて、口から卵を産み出す大魔王!
えっ?右の人、なんか説明と見た目が違う?教育テレビ”マンマといっしょ”の、ジャンプで地響き起こすペンギンの方だって?
ま、可愛いからいいよね(笑)映像だけでも紅一点ほしいでしょ、というケッチャンの心遣いです。
古くてわからないという人はごめんなさい、検索してみてね。
はい、ということで、いました!アーベーツェー!
懐に”大成功”のプラカード仕込んでるから、いつでもいじめてくれていいですよ!』
そんな意気込みとは裏腹に、映像は超早送りになってしまった。どうやら視線だけで何も起こらなかったらしい。
時は超高速で、放課後へと送られた。
帰りのホームルームが超早送りで流され、机の脇からバッグを取り、そそくさと超高速で帰るミタ君。
『いやー、何も起きませんでしたね。まぁ、人がいる教室で何か起きるなんて期待はしてませんでしたけどね。
勝負はここから、放課後デス!』
下駄箱に到着したところで等速に戻った。自分の下駄箱を開け、覗きこむ。
『スニーカーは、ありますね。靴を隠されるなんて幼稚なことはされないですね。うーん残念。
今日はここらへんで終わりですかね』
下駄箱から取り出したスニーカーを履き、とぼとぼと校門を出ようとしたその時、何か声が聞こえ、主観映像が声の方に向いた。
映像にはいじめっこキャラ2人と人気ペンギンキャラの1人の、合計3人の姿が映った。
『キタァァーーーっ!金曜ロードショーで何回か流したら、”ばるす”並みの祭りになりそうな瞬間ですね』
ガキ大将の口が動いた。声も、それぞれ、なんだかキャラクターに寄せたものに編集されている。
「なんかさ、また新しいゲーム買ったって聞いたんだけど。前に借りたやつ、もう遊び終わったからさ、新しいの貸してよ」
「...貸すなんて言ってないし、それに前持っていったの返してもらってないし...」
「あ?聞こえないけど。ま、とりあえずお前ん家ね」
3人がにやにやと嫌な顔をしてミタ君を取り囲み、4人で歩き始めたようだ。
主観映像には映らない、ミタ君の顔も同じようににやにやしていたに違いない。
帰り道は超早送りされ、あっという間にミタ家に到着したところで、等速に戻った。
「久しぶりだからなんか遠く感じたな」
「2回目だけど半年も経ってるし、やっぱり家までの道覚えられないよな。これじゃ借りたの返せないじゃん」
などという会話の中、3人を招くようにミタ君が玄関へと向かい、鍵を開けた。
『あれ?金庫並みに厳重だって言ってた玄関の鍵がそんなに簡単に開くのか、って思いますよね?うんうん、だって、つけたのアタクシですからね。ま、とりあえず今だけは簡易に施錠していました』
玄関のドアを開けると、我先にと、3人が中に入る姿が映された。家までの道は覚えられなくても、ミタ君の部屋までの道は覚えているらしく、階段で2階に上がり、一直線にミタ君の部屋へと向かった。
遅れてミタ君も部屋に入ると、すでに物色し、手に取っている3人の姿が映った。
「なに、またこのゲーム機買えたの!?やった!3人で1台じゃやっぱり足りないよな」
「ソフトも増えてんじゃん」
「漫画も増えてるし。あ、これ読みたかったやつじゃん」
3人それぞれ、持っていくものを決めたのか、今度はものを入れる袋を探しているようだ。
「袋も無いし、他の部屋も見てみようぜ」
ガキ大将がそう言い部屋を出ると、他の2人も続く。
「さすがに、親の物持っていったらバレるんじゃない?」
冷静なペンギンがそう言いながらも、他の部屋の戸を開けた。ベッドが2つ並んでおり、どうやらミタ君の両親の寝室に入ったようだ。
「ここは何も無さそうかな...でも一応クローゼットも拝見、と」
ブタとゴリラの融合体がクローゼットを開けると、そこにはミタマンマの服やら装飾品が入っているようだった。指輪やネックレスなどがいくつか入っている。さすがに手をつけないと思いきや、融合体がその中から高そうなものを物色し、手に取った。
「いっぱいあるから、一つくらい無くなってもわからないよな。どこいったんだろ、ってなるだろ」
「お前、そんなのもらってどうする気だよ」
「ネットでうまく売ってみるよ。売れたら山分けじゃ」
3人は寝室を出ると、ガキ大将が2階にあるもうひとつの部屋のドアノブに手をかけた。だが、ドアは開かないようだった。
「なんだよ、鍵かかってんのかよ。この部屋何なの?鍵ないの?」
3人は一斉に振り返り、後ろにいるミタ君に向かって怒鳴るように聞いた。
「お父さんの書斎だよ...仕事に行ってる間は鍵かけてるんだ。仕事関係の大事な書類があるから、お父さんとお母さんしか鍵持ってない...」
「ふーん、まぁ、ここはいいか」
「じゃ、適当に袋見つけて、さっさと借りていこうぜ」
3人は1階に降りると、居間やキッチンを物色し、どこからか袋を見つけるとまた2階のミタ君の部屋に向かった。
ミタ君が遅れて部屋に入ると、ゲーム機やソフト、漫画などを各々、袋に詰め始めていた。
「じゃあ、また借りていくからな」
「貸すなんて言ってないけど...だって前に持っていったやつだって返してくれないし...」
「だって、返してって言われてないしな。しかもお前、学校来なくなったから返せないじゃん。くれたのかな、って思ったけど」
「あげてないし、貸してない...無理矢理持っていったんだ...」
「うるさいな、借りるって言ってんだよ。な、貸すよな、『うん』て言えばいいんだよ」
正面に映っていたガキ大将の手が画面いっぱいに大きくなり、その直後、画面が後ろに大きく揺れた。どうやら後ろに突き飛ばされたようだ。
「おい、手はだすなよ、面倒臭いから」
「いいだろ、傷がつかなけりゃわかんないって。じゃ、借りていくからな。止めないんだから、いいってことだろ。じゃあな」
ガキ大将がそう言うと、3人は袋を手にし、部屋を出ていった。
ミタ君は3人の後をゆっくりと追いながら、
「貸してない...前も、今も、盗まれたんだ...泥棒」と呟いた。階段を降りる3人には聞こえていない。
「じゃあな、また半年くらい経ったら貸してくれよな。学校には別に来なくていいから、ゲームとか買っといて」
ガキ大将が最後にそう言うと、3人は玄関のドアを開け、外に出ていった。
ドアが閉まり、外の光が消えた。
映像が玄関に背を向けると、階段を上がってミタ君の部屋を素通りする。
先ほど鍵がかかっていた部屋の前に立つと、鍵を手に取り、鍵を開けて中に入った。
部屋の中には家具が一切置かれておらず、部屋の中央、フローリングの床にパソコンが1台と、猫だろうか、毛並みがリアルな被り物のようなものが1つ置いてあった。
ミタ君の手が被り物に伸び、手にとり、少し間を置くと、パソコンを開いた。すると、動画の画面表示が切り替わった。
4つの画面に分割されていたものが、1画面に。ミタ君、いやリアルな猫の被り物を被った人物を映す画面へと変わった。
そして、その人物は少し籠った声で話し始めた。
「いやぁ、ひどい目に合いましたね。運よく捕まったと思って、途中までは内心にやにやしてたんですけど...
自分からいじめられにいったにもかかわらず、かなり精神的にきてます。というのが今の心境です。
なんだか、シナリオどおりのいじめって感じで、やらせと思われても仕方がありませんね、これ。
でも、本当の本当に、一切、やらせはありません!これだけは断言します、ていうか、信じてください!
さて、今回の映像を観て気分が悪くなった人も多いんじゃないでしょうか。
ケッチャンも、少し甘く見ていたかもしれません。もしかしたら、殴る蹴るの暴力のほうが、マシないじめかとも思ってしまいましたね。
えっと、大成功!ってプラカード出すつもりだったんですけど、さすがのケッチャンもこの展開では無理ですね、苦笑い、です。
ふぅっ、と大きなため息。はい、立ち直りましたよ!早っ!
さて、実は、今回のいじめですが、4月に本物のミタ君がいじめられたときと同じやり口です。4月のことは本人に聞いたんですけどね。
だから、今回も最も確率が高いと考えていた、想定済みの展開です。
でも1つ、どうしても心配なことがありました。ケッチャンといじめっこが家に入るところを近所の人に見られていないか、です。
だって、ミタ君一家は今ごろ世界旅行に行ってるんですから。
両隣の家にも、旅行の前日に挨拶しているし、もし見られたらこの企画は失敗なのです。
でも、結構リスク高いですよね?いじめられる確率より、家に入るところを見られる確率の方がはるかに高そうだと思いませんか?
ふふっ、そこは半年の準備期間で、不安材料は全て取り除きました。
実は、ここは本物のミタ君の家ではありません。ミタ君の家から少し離れたところにある、似たような家です。
だって、半年前に1回だけ行った家の位置とか、見た目なんか、はっきり覚えてなんかいないですよね。
あ、もしいじめっこが近所に住んでたらばれそうですけど、そこは大丈夫。高校で初めて会った3人なので、学区が違うし、結構離れてるので。
ということで、本当のミタ家からは約1km離れた、全然別の家なので、近所の人に見られてもばれません。
じゃあ、ここは誰の家か、もちろんケッチャンの家ですよ。にこっ。
この買い物が一番高かった...これだけでうん千万...
ってのは冗談で、ここは借りてます。ちょうど良いタイミングで売家になってたので、売主に交渉したところ、オーケーが出たのでした。
だから、安くはないけど、買うよりははるかに安くできたんです。
どうもね、この家の、前の住人、この家に住んだ途端、良くないことが続いたらしく、買って1年もしないうちに出てっちゃったんだって...
いわくつきですね...まぁ、ケッチャンは借りたけど実際は住んでないのでわかりませんが。
ミタ家と同じような家具やら服やら装飾品やらを置かせてもらって、本番に使うだけのただの箱ものです。
さて、本編動画もそろそろ終了です。楽しんで...もらえる内容ではないですよね(苦笑)。どよーんってなってしまいましたかね。
でも、ごめんなさい、1週間後、来週のこの時間まで我慢してください。
必ずや、そのどよーんを晴らしてみせます。
タイトルだけ、告知しておきましょうかね。来週のタイトル発表とともに、この動画を終わることにします。
それでは、また来週お会いしましょう。
来週は『対処してみた』です!バヒバヒ~!」