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いじめられてみた(旧)  作者: ケト
自白してみた
33/33

イッツ、ショータイム!

 午前5時。

 独りになった恵子は、クローゼットからとあるモノを取り出した。


 両手で抱えたそれは、恵介の制服を身に付け、顔は恵介に似せた、等身大の人形、『恵介君人形』であった。

 椅子を使い、天井のフックに縄をかけると、人形の首に巻き付ける。

 手を離すと人形は天井から吊り下がり、『恵介の首吊り』をつくりあげた。


 当初は恵介本人を吊り下げる予定だったが、半年も冷凍庫に入っていたこともあり、思い描く体勢を保つかわからないし、何よりわたしが1人で吊るすには重過ぎた。



 次に、ドアに向かうと、目線の高さに設置した小窓に手を伸ばす。

 部屋の外側から見るとただの頑丈な小窓であるが、内側には追加でガラスをスライドできる構造になっていた。

 薄く白いガラスを1枚スライドさせると、結露でもかかったかのように見える。

 外から見れば、部屋の中の光景はぼんやりと映り、恵介君人形もきっと、本物に見えるに違いない。



 午前9時。

 家の中に設置した監視カメラ映像を観ていると、リビングで少年が動いた。 

 少年は時間をかけて1階を探索すると、階段に向かい、2階へと上がる。


 部屋の中では、全員が既に所定の位置に着いていた。

 恵介(人形)は部屋の中心で天井から吊り下がり、夫(ただの屍)はベッドの奥側で仰向けになっている。

 そしてわたし(美巨乳)はベッドの手前側で仰向けになり、首は入り口の小窓に向けていた。

 目は開けており、小窓と、監視カメラ映像を映したモニターを確認していた。



 少年は、まずは手前の寝室、わたしと夫の『愛の巣窟』に入ったようだ。

 少年にとって有益となるものは何ひとつ置いていないためか、すぐに出てきた。


 そして、真ん中の部屋の前に立った。

 鍵がかかっていることを認識すると、小窓を覗いた。



 小窓から覗く少年と目が合う。

 驚いた目がすぐに視線を外した。

 廊下の映像では、少年がドアから距離をとる様子が見られた。


 

 小窓から覗く少年の目と再会する。

 今度は、少年は驚かなかった。わたしが死んでいるモノと思ってくれたようだ。


 すぐに目線が外れると、今度は、天井から吊り下がるモノへと目を向けたようだ。

 さっきよりも目が大きく開かれると、すごい勢いで少年が消えた。


 映像から、少年が2階のトイレに駆け込んだことがわかった。


 きっと、昨夜食べた睡眠薬入りのカップラーメンを吐き出したのだろう。

 出てくると、残った一番奥の部屋へは向かわずに、1階へと下りていった。

 きっと、もう2階には来ないだろう。



 少年の動向を確認しながらベッドから下りると、ドアへと向かう。

 小窓にもう1枚、ガラスをスライドさせた。

 そのガラスはさらに白く濁ったもので、先ほどのガラスと合わせると、ただの真っ白いガラスへと化し、部屋と外界は、完全に遮断されたのであった。




 天井から吊り下がる目障りな人形を取り除くと、夫をお手製の大型保冷バッグで包んだ。

 息子が入った冷凍庫から保冷剤をいくつか取り出すと、保冷バッグの中に入れる。

 この密室で、死ぬまで一緒に暮らすのだ。少しでも腐敗を遅らせたい。



 二度と出ることのないこの部屋には、わたし1人なら優に3か月は暮らせるほどの、食料と水分を備蓄していた。

 

 ひとつ悩んだこと、それはトイレだった。

 少年の睡眠サイクルを把握し、気づかれないように2階のトイレを使うことも考えた。

 だが、万が一にでも気づかれてはいけない。


 そこで、以前飼っていた猫、『ケト』のために準備していた猫用のシステムトイレを使うことにした。

 3~4日に一度、汚物を袋に回収して冷凍庫に入れておけば、臭いもさほど気にならないと思われる。



 初めて猫用トイレで用を足すと、ふと、『ケト』のことを思い出した。

 小さくてふさふさで、顔が少し夫に似ている、可愛い猫だった。

 

 急に涙が溢れだした。

 猫と夫を思い出したからだろうか。

 いや、猫用トイレで用を足す自分を客観視した結果か...




 11月8日、日曜日。

 午後6時、中津江家のリビング映像に動きがあった。

 携帯をいじっていた中津江大悟は、息子の将太から何の連絡も無いことを心配し始めたらしく、友達の家に電話をかけ始めたようだ。

 音声から、まず、アーとベーの家に電話をしたと思われる。

 次に電話した相手とは、すぐに怒鳴り声で喧嘩を始め、罵声とともに電話を切った。

 きっと、相手は元嫁だろう。

 瞬間湯沸し器と魔法瓶という例えがぴったりのこの夫婦。離婚させてあげて正解だった。


 電話をかけるのを止めると、上着を身に付けてリビング映像から姿を消した。

 警察署に向かったのであろう。

 これで警察による捜索が始まる、はずだ。




 11月9日、月曜日。

 昼のニュース番組で、中津江将太の行方不明が報道された。

 リビング映像を観ると、少年も同じニュースを観ているようだった。


 やったね、テレビに映ったよ!わたし達のおかげね。




 11月11日、水曜日。

 ニュース番組で、『氷山警察署が捜査本部を設置した』ことが報道された。

 本格的な捜索がされることだろう。


 空き家、あるいはこの家に辿り着くよう、あえて手がかりを残してきたつもりだ。

 特に、この家の防犯工事に999万円もかけたことを知れば、怪しいと思ってくれるだろう。


 あと、先日、夫が自分の実家の郵便受けに入れてきた絵ハガキ。

 よく見れば消印など全てが偽物だとわかるつくりなので、『富田家が旅行に行っていない』ことにも気づくことだろう。

 でも...ちょっと懲りすぎたから、もしかしたら気づかないかもしれないが。



 午後9時半。

 わたし達の全ての行為を自白するために残してきた『手記』の編集を終えた。

 編集と言っても、本名がバレた4人を除く全ての人名、そして地名を実在しないものに書き換えたのと、わたしと夫のイチャイチャシーンをバッサリとカットしたくらいで、記された全てが紛れのない事実である。 


 ただし、当然だが、最後の最後は、事実を書くことができない。

 ならば、いつ書いても変わらないので、『最後の日』は、自分の行動以外はリアルな想像で書き終えている。

 あとは『最後の日』の日付、そして時間を書き込めばいいだけだ。 

 

 書き終えた作品は、『自白してみた』全11話。

 また、刑事モノも書きたい!とせがむ恵子(壊)のため、最後の動画から富田家全滅までを刑事目線で書いた『捜査されてみた』、こちらも全11話。当然だが、警察関係者は全て架空の人物である。


 作者名を『ケト』としたこれらの作品を、死ぬ直前まで間隔を空けて投稿していくことにした。




 11月12日、木曜日。

 午後3時。家の外を映す映像に動きがあった。

 ファイナルジャッジメンタルケイコズアイを光らせる。


 正面の道路を映す映像に、1台の車が停まった。

 パトカーではない、が、車から出てきた2人の男は、何となく警察官に見える。

 家の敷地に入ろうとはせず、外から様子を窺っているようだ。



 いよいよ最終局面だと判断すると、2つの作品、『最後の日』に日時を書き込み、全ての投稿を終える。

 なお、『自白してみた』だけは、他の作品に埋もれてしまう可能性を避けるため、小細工をしておく。

 まずは小説ページのアドレスをコピーすると、動画配信サイトに『八手』アカウントでログインし、ケッチャンネルの最後の動画に、『これって本人じゃない?』というコメントとともにアドレスを貼り付けた。



 外の映像に、もう1台の車が現れた。

 軽貨物車で、何やら会社名のようなものが書かれている。

 車から出てきたのは男性1人。格好からみても、おそらく鍵屋であろう、と予想した。


 

 冷凍庫を傾けると、部屋の中心に向けて倒した。

 蓋を空け、中の恵介を取り出すと、部屋の真ん中へと滑らせる。


 次にベッドの上の夫を転がすと、恵介の横に並ぶように落とした。



 午後3時15分。外では新たな動きが見られない。

 おそらく、指揮をとる人間でも待っているのだろう。



 どうせ待つのなら、最後の妄想を楽しむことにする。

 妄想するのはいつも、夕食での何気無い会話だった。 


『やっぱり、お母さんのハンバーグが一番美味しいよね!』

『当たり前でしょ。不味いなんて言ったら2人並べて首吊りの刑だよ』

『こわっ!僕は絶対言わないから、吊るすならお父さんだけにしてよね』

『おいっ!』

『ふふっ、大丈夫。ちゃんとあたしも並んで首吊って、後を追うから』

『いや、そこは否定しとけよ』

『ところで、今日の9時からの映画、何だっけ?』

『紅蓮の豚じゃなかった?』

『あぁ、俺が一番好きなやつだ』

『僕はねぇ、やっぱり...魔女が宅配とか便するやつが一番好きだな』

『あたしは、やっぱり、安田...』

『もう、お母さんのは言わなくてもわかるからいいよ』

『そうだな、俺なんてもう1000回くらいはその答え聞いた』

『ちょっと、2人とも、吊るすよ?』


 妄想しながら、ある重大な事実に気づいた。

 妄想の夫の顔がイケメン風、つまり整形後の顔なのだ。


 えっ、嘘...整形前の顔ってどんなんだっけ?


 近くにいる動かない夫はイケメン風、というか既に見る影もない。

 そして、写真などという不要なものは、この部屋には置いていなかった。



 閃いた。


 そうだ、恵介の自殺映像。

 たしか、あの人が恵介とか汚物とかを片付けた後、パソコンのカメラで撮影されていることに気づいた、って言ってた。


 つまり、夫の顔が映ってるはずだ!



 あと寿命が何分残っているかはわからないが、他にやることは無いのだ。

 最後にその映像を観ることにする。


 

 何度も観た映像だが、見るのはいつも、恵介が自殺して数分後までだった。

 そのあとの部分を観るのは初めてだ。



 恵介の最後の言葉が流れ始める。

 恵介の言葉を最後まで聞きたいが、地獄で再現してもらうことにして、早送りする。

 夫の登場するであろう時間まで飛ばせばいいのだが、なんとなく、時間のかかる早送りを選んだ。   



 恵介が動かなくなって、数分、そして数十分が経過する。


 おそらく、わたしがドアをノックしたのはこのあたりか。

 その後はキッチンに戻って、ハンバーグをつくって、あの人が帰ってきて...

 


 え?



 ふいに人影が現れたのだ。


 一時停止して、少し巻き戻す。



『今夜は恵介の大好きなハンバーグだから、あと1時間くらいしたら下りてきてね』


 自分の声が聞こえた。

 たしか、このあとすぐ1階に下りて...


『もう、返事くらいしなさい。入るよ?

 変なことしてても、ちゃんと見ない振りしてあげるから』


 ドアを開ける音。

 小さい悲鳴のようなものと、どすん、という何かが床に落ちたような音が聞こえた。

 

 しかしすぐに、人影が映る。

 わたしだ。



『えっ、何で天井からぶら下がってるの?よくわからないけど、そんな体勢じゃ疲れちゃうよ。

 あれ?しかも寝てる?器用だねー。


 ...あっ、そうか!今日金曜日だった。

 9時からのロードショー、恵介の好きなコナム君だったね。

 今のうちに寝ておこうってわけか。

 ふーん、考えたわね。


 今日はハンバーグだから。あの人帰ってきたら、一緒に下りてきてよ』



 映像から人影が消えた。



 なんということだ...


 そうか、夫の最後の最後の言葉。

 『俺の『あの表情』ってやつ?恵子に見せるのは、3回目じゃないんだけど。あぁ、これはどうでもいい、か』


 そうか、これを夫が観たときが1回目だったわけか...

 

 あぁ、そうですか。

 まぁ、確かにどうでもいい、ね。



 早送りを続けると、今度こそ夫が部屋に入ってきた。

 吊り下がる恵介を、椅子を使って下ろす。

 一度姿を消し、ゴミ袋を持って現れると、恵介の服を脱がせたもの、そして、床を拭いた布を袋に詰める。


 裸の恵介をお姫様抱っこすると、ベッドに置いた。

 また姿を消すと、今度はアルミのシートを持ってやって来た。

 リビングのこたつの下に敷いていたものだろう。

 確か、ソファにはわたしが寝ていたはずだが、おそらく面倒臭いからそっとしておいたに違いない。


 恵介にシートをかけると、初めて部屋を見回す。

 目線がカメラの方を捉えると、一直線に近づいてきた。


 

 いやーん、近づいてくる!

 やっぱり前の顔の方が好きだわ。ほんと、大好き!


 少しパソコンを見る素振りを見せると、夫の手が大きくなり、画面が暗転した。


 

 もう、思い残すことは何もない。

 

 床に眠る2人の傍に寄ると、爆弾に背を向け、2人を守るように、覆い被さった。 




 午後3時半。

 外にもう2台の車が現れ、1台はそのまま停車し、1台は画面から消えた。

 敷地内に入ってきたのは5人。

 警察官と思われる男性4人と、鍵屋と思われる1人。

 

 鍵屋と思われる男が、玄関のドアに何か、工具を近づける。

 と、何やら金属が擦れる音が小さくだが、部屋の中まで聴こえた。


 リビングでゲームをしていた少年が玄関へと走る。


 音が止むと、鍵屋は別の工具を取り出し、再びドアに向かい合う。

 

 その作業はあっという間だった。


 鍵が開いたのだろうか、鍵屋はその場を離れる。


 残った男性2人のうち、1人がドアノブに手をかけた。



 『カチッ』



 背中に爆風を感じ、意識を失う直前、考えていたことがあった。



 恵子(壊)は、夫が死んでから一度も現れなかった。


 たぶん、恵子(壊)は、恵介の死を受け入れなかった、もともとのわたしの人格。


 そして、わたしは、恵介の死を受け入れた、新しい人格なのであろう。


 ふたりの死を受け入れた今のわたしは、どっちなんだろう。

 

 え、ちょっと待って。てことは、わたしって、もともとぶっ壊れてたの? 

 

 まぁ、地獄で待っているあの人にでも聞いてみよう。




 「イッツ、しょうタイム!なんちゃって」




 最後まで読んでくださった方がいるのか。

 ましてこの、後で書いた後書きなどを読む方がいるのかはわかりません。


 でも、まずは、

『最後までお付き合いいただき、ありがとうございました』。


 初めて書いた小説でしたが、思ったより長くなってしまいました。

 本当は、『自白してみた』は、ただ淡々と事実を告白してあっさり終える(1~2話)予定のはずが…

 (壊)などというキャラを出してしまったせいで、いろいろと壊れたようです。



 いつもの妄想、もしこんな嫌なことを言われたら、されたら、どう対処すればスッキリするか、あるいは面白いか。

 今回は、もし自分がいじめられたら、の妄想の成果です。


 いじめ、という社会問題であるテーマをとりあげて、何かを伝えたい。

 そんなつもりはこれっぽっちもありませんでした。

 でも、結果として、メッセージ性の強い作品になった(なってしまった)と思います。


 そもそも読んでくれる方がいるかわからないですが、少しでも何かを感じてくれたら、幸いです。


     ーケトー




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