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いじめられてみた(旧)  作者: ケト
捜査されてみた
16/33

捜査本部(その5)

「以上が、動画確認から得られた情報です。明らかに捜査対象とならないものは既にリストから除外しています。我々2人だけでは判断できないもの、特に最後の2本の動画から得られた情報はほとんど挙げている、そんな状況です」 


 御手洗が報告を終えると、最も優先すべき事項を決め、今度は捜査班と情報整理班の2班に分けることとした。

 最優先事項は『Kが賃貸契約した空き家』の捜査に決まり、捜査班は警察本部の大槻警部補と相棒、安積あさか巡査の2人、そして情報整理班は警察署の片平警部補と御手洗が担当することになった。



 本部に残った2人は、まずは現在のリストからKの素性特定につながるものを整理することにした。

 第一に、Kの『外見』を特定する情報である。


「外見を特定できる、というかK本人が映っている映像があるな」

「そうですね、『動画の一番最後に映し出された、Kの自殺映像』『いじめ現場を撮影した監視カメラ映像』。この2つの映像に映っている人物がK本人であると考えられます」

 

 御手洗はすぐさま最後の映像から切り取った画像をディスプレイに映し出す。既にプリントされ、本部に設置されているホワイトボードに大きく貼られているのだが、画面で観た方が解像度が高く、格段に見やすい。ただし、画像が鮮明であるのにも関わらず、何度見ても人物像が掴めない、そんな悩ましい画像である。

 死を覚悟したその顔は真っ白く、その表情は喜怒哀楽のどれにも当てはまらないように思える。


「いじめ被害者に扮した、とK自らが言っていたんだから、この顔は『富田恵介』に近いものだろう。って普通は思うよな」

 

 片山の呟きを聞くと、御手洗はディスプレイへの投影をしたままパソコンを操作し、空白のページに、動画の画像と富田恵介の画像を並べた。この富田恵介の画像は、片平が富田一家の情報を報告したときに使っていたもので、富田大介の両親に提供してもらった写真のスキャン画像である。


「先入観があるせいか、なんとなく似ているような、全く似ていないような。見る人によっても意見が分かれそうですよね。顔認証ソフトを使えばどれだけ一致しているのかわかるかもしれませんが、果たして数値化したところで意味があるのかわからないですけど」

「この動画の画像だけどな、実は富田大介、そして恵子の両親への聞き取りのときに見てもらったんだ。先入観無しに見てもらうために、『この顔に見覚えは?』とだけ言って。結果、4人の最初の反応は全て同じだったんだが、どうだったと思う?」


 勿体ぶるということは、期待に添えるような結果では無いのだろう。


「4人とも『孫に似ている』だった」


 似てるんかいっ!と心の中で突っ込んだ。話の流れからすると、『全然似ていない→これはさらにわからなくなってきたぞ』となるんじゃなかったのか。


「じゃあ、やっぱりKは富田恵介の顔をつくりあげたのでしょうか」

「まぁ、似せてきたのは間違いないだろう。動画だと、マスクをつけること前提で、見える範囲をいじったと言っていたから、少なくとも目だけはいじったんじゃないか」

「...目だけでそんなにいけるもんですかね」

 そう言いつつ御手洗は、マスクをつけメイクをするだけで、とある芸能人に似せる、という、一時期テレビによく出ていた人物を思い出した。今回の場合は高校1年生の男子なので、メイクなんてしたら普通はバレそうだが、プロ級のメイクなら、もしかしたらメイクだけでもいけるのでは、と思った。

  

 次に御手洗は、いじめ現場の監視カメラ映像を再生した。映像データは、捜索班が氷山高校への聞き取りをした際に、担任から提供を受けたものだ。

 映像は3種類あり、富田恵介の部屋、富田大介と恵子の寝室、そして玄関を映すものであった。御手洗が再生したのは、最も顔を捉えている玄関の映像であり、家へと入った4人を真っ正面から映し出している。他2つの映像は、いじめ現場の証拠としては十分だが、いじめ被害者に扮するKの顔は全く映っていなかったのである。カメラを設置した本人が、意図的に映らないようにしたとも考えられるが。


「真っ正面からの映像ですけど、顔にはマスク、髪の毛は目にかかるくらい長い、そして眼鏡をかけているせいでほとんどわからないですね」

 御手洗は、『名探偵のコナム君みたいに、眼鏡も光ってるし』という言葉が前歯まで出ていたが、ぐっと抑えた。


 結局、わかったのは最後の動画で晒したKの顔が、富田恵介に似ている、ということ、そして、顔以外の情報として、いじめ加害者と称される3人と比べるとやや身長が低い、ということだった。

 本物の富田恵介の身長は、中学3年生のときの身体測定の結果が163cm。前回の測定からおよそ1年が経過しているが、おそらく大きく変わっていたとしても2~3cmくらいの伸びであろう。

 よって、現在は165cmくらいの身長であると推測され、当然、富田恵介に扮したKの身長も近いものであると考えられた。もしもKが成人男性であれば、接触した人からすると、少し身長が低い、という印象を受けるのではないだろうか。

 

 御手洗は、ふと疑問を覚えた。


「登校したのが10月2日、そして自殺したのが10月23日。この間、Kは富田恵介に扮した姿のままだったのでしょうか」

「この後には、今度は弁護士に扮していじめ加害者の家に行ってるからな。ちょっと前に、テレビ番組で特殊メイクだかマスクだかで別の人物に成りすますっていうドッキリ番組があったろ?マスクと眼鏡かけてれば、それで案外いけるかもしれないな」

 

 加えて、御手洗は、動画から浮かび上がる人物像について、昨夜相棒と話し合った内容を話してみる。


「Kの話に登場するアニメとかキャラクターって、古いと思うんですよね。僕と相棒は2人とも平成生まれなんですけど、ピンと来ないものがほとんどで、ネットで検索してようやくわかりましたけど。なので、Kは昭和生まれではないか、というのが僕らの考えです」

「でも、昔のアニメを観る手段は今の方が格段に多いだろう。昭和アニメのオタクって線もありえるんじゃないか」

「それにしても、表現だって、いちいち古いような気がするんですよね」

「まぁ確かに俺ら世代がドンピシャな感じもするし、仮に昭和のアニメをリアルタイムで観ていたと考えると、40歳前後くらいか?とりあえず、今後Kと直接接触した人への聞き取りで、ある程度の人物像が浮かび上がることを期待しよう。

 ただ、もしもこの動画の画像とは全く違う人物像が浮かび上がったら、動画に関わっているのがKだけではない、という線も考える必要があるな」

 

 確かに、特殊メイクの線を考えるよりも、富田恵介に扮する人物と弁護士に扮する人物が別であると考える方が現実的であろう。それは理解しているつもりだが、御手洗は『動画で、Kがそうは言っていない』ところに疑問を持ってしまう。ケッチャンネルのファンだから、というのもあるかもしれないが、なんとなくであるが、Kは、『嘘はついていない』と思うのだ。ただ、何の確証も無く、完全に御手洗の勘であるため、当然であるが誰にも言えないことなのだが。


  

 次に、Kが直接接触したと考えられる人物について整理する。

「まずは、富田恵介に扮した際の濃厚接触者ですね。いじめ加害者と称される3人。『中津江将太』『阿部陽斗あべはると』『山部陽翔やまべはると』が挙げられます」

「聞き取り対象は、行方不明になっている中津江将太の両親、そして残る2人、本人とその両親か。ただ、既に捜索班が聞き取りをしているから、改めて聞き取りする必要は無いだろうな」

「しかし、どうでもいいんですけど、『はると』って名前、人気ありますよね。ここでも3分の2ですよ?スーパーとかで、親が『はる』とか『はると』って呼び掛けるのをよく耳にしますしね」

「・・・本当にどうでもいいな。まぁ、でも、乗っかってやるとすれば、お前の相棒の名前『安積翔太』の『翔』って漢字の方が今も昔も人気じゃないか」

「ですよね。自分の名前、別に嫌いではないんですけど、『翔』に憧れを抱いたときもありますよ」

「まぁ、どうでもいい話は置いといて...」

「その『置いといて』って、Kもよく言ってましたけど、昭和のギャグか何かですか?」

「ん?...えっ!?」


 異世代転生した片平を放置し、次の接触者へと移る。


「あとは、最優先事項の『空き家の賃貸契約』の際に、不動産会社の社員と接触しているでしょう。他にKと接触したと考えられるのは、当然、富田一家ですね。ただ、富田一家は世界旅行へと旅立ってしまったので、聞き取りするには、まず足取りを追うことになりますが」


 富田一家の足取りで、今わかっている情報としては、10月1日に新幹線で東京に向かい、夢の国に行ったこと。その後はフェリー等で沖縄に行ったこと。そして、絵ハガキの消印から、11月1日にはフランスにいたこと、だ。

 10月1日の、夢の国周辺のホテル宿泊者を調査することや、10月2日の沖縄行きのフェリーの乗客を調べること自体は可能であろう。ただし、正直、その後の足取りを追うのは難しいと思われる。


「足取りを追う労力に比べて、聞き取りの成果がそこまで大きいという保証もないですよね」

「そうだな。富田一家の足取りを追うのは、一旦置いておこう。また絵ハガキが届いたり、動きがあればそれぞれの両親から連絡をもらえるようにしておけばいいだろう」


 何か、物を置くような仕草と共に、またも異世代言語を使ったが、気づいていないようだ。また転生したら面倒臭いため、そっとしておこう、と御手洗は次の話題を振る。 



「あと、Kが直接関わったと考えられることですが、『防犯会社のキャンペーン』『防犯工事』『空き家の賃貸契約』があります。まずキャンペーンですが、富田大介の両親から借りたチラシから、某大手防犯会社の名前が挙がりましたね」

「おそらくだが、その防犯会社が実施したキャンペーンとは考えにくいだろう。Kが動画のためにつくりあげたものである可能性の方が高そうだ。一応はあたってみるがな」

「次に工事についてですが、隣人からの情報により、防犯工事をした会社が明らかとなりました。おそらく、発注をかけたのも、工事費も支払ったのも、K本人であると思われます。だけど、本当の名前や住所を使っているとは考えにくいですね。でも、何か手がかりがあるかもしれません、聞き取る価値はあるでしょう」


「そして最後、現時点で期待が持たれるのが、Kが借りたとされる『空き家の賃貸手続き』か」

「はい。賃貸契約をするには、住民票や身分証明書などの書類を提出する必要がありますから、Kの情報が得られる可能性が高いと思われます。さらに、もし現在まで契約中であれば、その物件にKに繋がる何かが残されているか、もしかしたらKの遺体があるなんて可能性もあり得ます」


 これらのことから、『Kが賃貸契約した空き家』の捜査が最優先事項となったのだった。捜査班は、富田家の1~2km圏内の住宅を管理する全ての不動産会社をピックアップし、4月以降に賃貸契約がされた空き家について聞き取りを開始している。


 

「あと、Kが購入したと考えられるもの。メモしたもの自体は多かったんですが、ある特定の場所あるいは時期にしか買えない、というものはほとんどありませんでした」

「そのようだな。ただ、あったとしても、Kの所在が氷山市であるとは限らない、というのが大きな問題だがな。いじめの舞台が氷山市の氷山高校というだけで、Kが動画配信の拠点としていた部屋がどこにあるのかは、動画からの情報だけでは全くわからない。それこそ海外なんて可能性もあるしな」

「バリバリ日本語喋ってましたけどね。しかも異世代、じゃなくて昭和言語だし。ところで、ふと気になったんですが、海外に元号ってあるんですか?」

「何で今、ふと、気になるんだよ。昔は中国とかにあっただろ?たしか、『いんしゅうしんかんぼくのふね』って覚え方だっけ?今は日本だけらしいけどな」

「へぇー」

 ぼくのふね、は元素記号のやつですよ、とツッコミかけた御手洗。だが、元素記号も略せば元号だな、などとも思い、とりあえず後半に披露された知識に、ボタンを押す仕草をして応えた。もしかしたらこの仕草も『平成初期の反応』と言われる日も近そうだ。片平と異世界にランデブーする日も近いかもしれない。


 ランデブーこそ古い気もするが、そんなことは気にも止めていない様子の御手洗は、次は『Kが発言した情報』の話題を振るのだった。

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