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彼はかく語りき
喩えれば、月のような人を見つけたと思ったのだ。
月明かりを浴びた夜のような髪と、夜道を照らす月のような静かで強い瞳と。
見た目ほど儚げではなく、初めて聞いた彼女の言葉には吹き出してしまいそうになったけれど、すぐに彼女に会うためにここに来たのだと理解した。
彼女がただ自分の世界の全てならどれほどいいだろうと思い、そっと彼女の姿を追ううちに、彼女の周りの色々な影に気がついた。
影は濃いものから薄いものまで。斑模様は彼女に似合わない。少し整えてやるとやがて彼女の周りは漆黒に変わった。
その影が太陽の作るものだと気付いたのと、彼女が太陽を見始めたのは同じ頃だった。
彼女は気付いているのだろうか。自分を包む影を、惹かれる太陽が作っている闇を。
いつか月は太陽に隠されてしまうのではないかと、あるいは太陽の作る影に飲み込まれてしまうのではないかと、僕はひどく気がかりでいる。