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第22話 「日常」
俺はマンションのベランダで寝起きの一服を吸いながら、眼下を見下ろした。
通勤通学の人が行き交ういつもと変わらぬ日常風景が広がっている。
ゾンビになった人たちの間を縫って、防護服姿の人びとが駅に向かって歩いている。
ソンビがいくら食らいついても分厚い防護服には歯が立たない。
噛まれさえしなければソンビ菌に感染はしないのだ。
去年の今頃、ゾンビが世界的に広がり始めた時は自分がホラー映画の登場人物になったような気がした。
次第に世界中で感染者が増え、テレビで発表される感染者数にみんなが一喜一憂していた。
そして感染者が人口の半数を超えた頃、ゾンビが溢れかえった世界が非日常から日常になってしまった。
どんな非現実的な状況もそれが続いてゆくのなら、人は慣れ、生きてゆかねばならないのだ。
ベランダのガラス戸の向こう側には、昨日感染し、ソンビとなった妻と子供たちが俺に噛みつこうと狙っている。
最後の煙草がなくなる前に、俺はどちらの日常を選ぶのか決断しなければならない。
大人しく家族に噛まれて一緒にソンビとして生きるか、それとも家族の頭を吹き飛ばして一人で人間として生きるか。
俺は煙草をガラス戸に押し付けて火を消した。




