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第18話 「月日」
ソファーで本を読んでいる男の隣に、女は腰かけて尋ねた。
「こんな時に何を読んでいるの、あなた?あら、紙の本じゃないの?」
「『おくのほそ道』という大昔の文学作品だよ。『月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也』」
「どういう意味なの?」
「月日とは永遠に旅を続ける旅人のようなもので、来ては去り、去っては来る年もまた旅人である――かな」
「ふーん。間もなく地球を離れる私たちも永遠の旅人ね」
「そうだね。僕らは一生涯この船で暮らし、子供を育て、旅の途中で死んでゆくんだ」
「あっ!カウントダウンが始まったわ」
「最後に地球の姿を目に焼き付けておこう」
男がリモコンのスイッチを入れると、天井一面にモニターが現れた。
若いカップルは寄り添いながら、全天モニターに映し出された地球の映像に見入った。
かつて宇宙船「地球号」と呼ばれた惑星も、環境汚染でもはや誰も住めない。
代わりに月の内部に居住空間が形成され、巨大な恒星間宇宙船に改造されたのだ。
やがて、宇宙船「月号」は永遠に地球に別れを告げ、深宇宙目指して旅立って行った。




