97 ラストダンスは俺に
舞台の袖に立ってクレマとルイが登場の合図を待っている。オルレアが司会をするために登壇していた。
「夜も更け、私達学生の最後の時間となりました。教育第三中隊の出し物はいかがでしたでしょうか。
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クレアとルイが囁くように言葉を交わす
「オルレア、うまく盛り上げてくれるかしら」
「おじゃ姫になって笑いを取りにいかないか心配だよ」
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「最後は社交ダンス研究会の真の実力の披露です。三組が踊ります。最初のペアは社研の創立者クレアとその一番弟子ルイのペアです。
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「一番弟子って、そうだけど他に言い方無いのかしら」
「二人の関係性を誤解されなくていいかも」
ルイがクレマの左手をとる。
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「僅か三ヶ月でここまで踊れるようになれるという証でもあり、教師の力量の証明でもあるダンスを真のオナーダンスとして披露してもらいます
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「僕たちが栄誉を受けてもいいんだろうか」
「覚悟を決めて、みんなからの贈り物だと思って」
ルイの耳元にそっと囁く
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「オナーペアの後にわらわがアダンと踊るぞ。ダンスとはこんなことも出来ると見せて進ぜよう
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「何か企んでいるみたいね」
「アダンとこそこそ相談していたみたいだ」
頬とほほを寄せ合って心配そうに舞台をみつめる
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「3番手はクリスとスオウのダンスなのじゃ。神の恵みの悦びを感じるのじゃ
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「さあ、楽しいダンスの時間よ」
「気張らずに踊るよ」
二人は互いの瞳を見つめ合う
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「楽団よ、音楽じゃ」
ステップを踏みながら登場しそのままホールドを組み直すと踊り出す。若者らしいというよりは学生の本分を尽くした踊りだった。定石通りの運び、型通りのポーズ、素直さをダンスにしたような、個性とかオリジナルと言った子供心を消し去ったダンス。ダンスで気持ちをやり取りしている様子が見える。互いの信頼というものが一対のペアとなって体現されていた。
曲が変わり、場を譲る。アダンとオルレアの身長差のあるペアが軽快な散歩のようなステップで登場する。輝く豊かな金髪を多彩に編み込み白いドレスの裾を片手で摘まみ翻しながら歩いている。フロア中央でアダンは止まるがオルレアはアダンの前を歩き続ける。床のない空中を時計の針のようにアダンを中心に6時から7時、8時、9時、10時、11時と歩く。あわやスカートがという瞬間にくるりと着地させ何事もなかったように歩き出しステップを踏み出す。アダンのリフトの見事さに気づくものはいなかった。続いてこんなリフトがあったのか、あんなリフトがあるのかと思わせるほど多彩なアクロバティックなダンスを披露する。
また曲が変わり新しいペアが登場する。シックな雰囲気の中、ホライゾンブルーの髪を編み込みアップにした女性役のクリスはブルーのドレスを纏っていた。スオウのリードに見事に答えながら細かいパッセージを入れていく。ターンもスピンもスオウに頼らずに行っている様に見えるその姿は独立する女性を表現しているようにも見えた。深いオーバースウェイや優美な脚使いでの裾さばきは見る者に溜息をつかせる。
曲が変わりスタンダードな音楽の中、3組のペアが踊る。それでも三つのスタイルは変わらない。三つの女性の生き方と言うよりは三つのペアの在り方を象徴するかのような、それでいてどのスタイルも“幸福”であった。
音楽が終わり静寂が訪れる。観客は余韻に浸っている。誰かがやっと小さな拍手をおくる。それに気づいて拍手の波が沸き上がった。三人の深いカテーシーをパートナーが片手を取って支える。ブラーボ―の掛け声の後にアンコールの合唱。
「マエストロ、アンコールいいかしら・・・それじゃ、あれをお願い」
クレマのリクエストに“さよなら MY LOVE”が流れだす。
「ラストダンスは私に」 岩谷さんの訳詞は女歌になっているけど原曲は?。




