93 ダンス大会
鳥の子色の太陽が明日の快晴を約束して沈んでいったが、未だ残光は明るかった。クレマはセレストブルーとホアライズンブルーの境界を西の空に見ながら固まっていた。そろそろダンス大会の開始だろうとクレマを捜しに来たルイは、滂沱の涙で立ち尽くすクレマの姿に呆然としてしまった。
「クリス、クレマをたたき起こして」
「オルレア様、それは些か乱暴すぎます。」
「往っちゃっているお姫様を起こすのは、昔から王子様のキスか、水をぶっ掛けることに決まっているのよ。ルイにはどちらも出来そうにないからクリス、とっとと引き戻して」
・・・・
みんなと作った今日の為のドレスに着替えたクレマがフロアに上り、会場に集う観衆に挨拶を始める。篝火と提灯がフロアを照らす。
「お待たせしました、皆さま。ダンスの夕べの始まりです。最初の曲はユニヴァ連隊長の希望により将校の皆さんがリーパの町の方々に感謝を込めて踊ります。では、将校の皆さん令夫人を又はご令嬢とはたまた今日の日の特別なパートナーとフロアに御登りください。そして、名誉のセンターを努めますのはリーパの街を洪水から守った我らが守護神ゴールデンヴァーム少佐とマリー少尉のペアです。曲はこの地方に古くから伝わる古謡をリーパオルケスタがダンスナンバーに仕立てました。印旛沼の娘です。」
「ソシ中佐は踊らなくて良いのですか?」
「それを言うならクレマ大尉、貴様もだろう」
「私は司会ですので」
「踊れと言われれば踊らんでもないが、炎の踊りしか踊れんのでな」
「あ~ぁ、有名な火炎放射器を振り回す奴ですね。結構です」
「ところで、少し硬くないか」
「マリー少尉ですか。しょうがないでしょう。生まれて初めてのダンスですよ。よくやっている方です」
「しかし、どう見ても直線的と言うか、蹴りや突きにしか見えんが」
「まぁそのうち、ダンスにのようなものに見えてきますって」
「それに、男の将校が礼服軍装であるのは分かるが、マリー少尉までスカートとはいえ礼服軍装と言うのはどうにか為らなかったのか」
「次にご期待ください。何とかドレスを縫い上げましたので。他のご婦人方の様に豪奢とはいきませんがそれなりに素敵な仕上がりです(たぶん)」
「曲によって着替えるのも一興か」
「ハイ、それに今の礼服もそれなりに手が入っております。」
「そうか?」
「膨らませる所を膨らませ、絞るところを絞って、ローズマリー軍曹が悲鳴を上げるほどスリットも入れてあります。」
「言われてみればそれなりに艶めかしい様な、光の具合か?」
「揺れる翳が魅惑的です」
「何となくパソドブレを見ている様に感じるのはゴールデンヴァーム少佐の所為か?」
「この曲でそれは穿ちすぎでは・・?」
「マリー少尉がケープのようにしなやかと言う意味ではないぞ」
「いいようにあしらわれているというなら、それはそれでペアダンスが成立するのでは?」
「この後は?」
「2曲目と3曲目はクリスと踊りたい女子10名とオルレアと踊りたい男子10名を中心にします」
「二曲で10名とは?」
「ワンコーラスで交代です」
「些か計算が合わんが」
「パートナーチェンジを促します。曲はダカーポさせます」
「水増し感が半端ないが」
「他の方にはお得感いっぱいです」




