92 前夜祭
午後四時ラッパの合図で前夜祭が始まった。夕方と呼ぶにはまだ日が高い7月の暑さの中で人々の出足は遅かった。
「そろそろ、クレマを起こしてきて」
ダンス教室の看板の下で社研(社交ダンス研究会)のメンバーが参加者を待ちながら暇を持て余していた。そこへ髪をかき上げながら大きなあくびをして、
「あ~よく寝た。」
「クレマいくら何でも、それは、はしたなくてよ」
「ユニ、ごめんね。まかせっきりで」
「それはいいけど、体大丈夫?」
「流石にちょっと疲れたかな」
「私達は昨日0時で子の刻参りを切り上げたけど、あなたたち五人はその後もあったのでしょ」
「学生とはいえ500人を中に入れての五芒陣はなかなかの体験だったわ」
「初めてでよくできたわね」
「アンシュアーサ導師さまの教え通りにやっただけよ。それよりその後、特務の要望で40人を内陣にそのまま五芒陣を組んだけど流石に特務ね。500人の学生に負けず劣らずのパワーと素晴らしいバリエーションだったわ。」
そこへテヒが飲み物とピザを運んできてくれた。
「テヒ、これ今までにないピザの美味しさよ」
「特務の方が新しいピザ焼き窯を作ってくれて、いろいろ新作を試しているのどうかしら?」
「いいわ、それにこのシュワ―とする冷たいジュースいいわ」
「それは、特務の方に炭酸水と氷を作るエレメント法を教えてもらった内の学生の試作品。」
「そんなことが出来るの?」
「エレメントの属性を知れば色んなことが出来そうよ。これは研究会を発足させるべきね」
「それは、秋学期が始まってからかしら、それまで魔術士は各自、自主研究ね」
そこへルイがやってきて、
「第三中隊は一番出足が遅いなあ。日が暮れてからのダンス大会がメインになるから、みんな今のうちに交代で、他の中隊を見てきて」
と触れ回っていく。
「テヒはどうするの」
「そうね、やっぱり他が何を出しているか気になるから、見てきていい?」
「ならユニも一緒にいってきたら、私はここで開店休業中の店番をしているわ」
「じゃ、よろしく。適当なところで誰かと交代してね」
クレマは一人、水分が多そうな夏空を見上げながら昨日の夜のことを思い出す。
ダンスフロアに急遽学生全員が坐ることになり、ルイが最前列右に立って全員を指揮していた。坐りきれない分は特務が補助席を作ってくれた。その500人を内陣にしてオルレア達五人は五芒星の頂点に内側を向いて座った。
入り日の行から始まって、乾参りをやり抜き、子の刻点で、明日があるからと終了した。大半が疲労困憊であったがまだ余裕がある者も、ちらほらと確認できた。第3の20人はもちろん各中隊に10人程はいただろう。
学生達が宿舎に帰ったころ、特務の顔見知りの一人が南面するオルレアに耳打ちしていた。
「クレマ、クリス、アダン、テヒよ。特務の方が一緒に坐りたいと。わたくしは受けたいと思う」
全員が応諾の合図をおくるとそのまま坐り続けた。内陣に40名の特殊任務工兵が参陣する。40名で500名の学生を圧倒する圧力と、カラフルなプ・ラーナが昔語りに聞くオーロラとはこのことかと言わんばかりに燦燦煌煌と踊った。
一番深い艮参りから日の出の行で卯の刻に終えた。特務の誰もから喜びの波動が漏れ出ていた。
(幾生にわたる修行の成果だわ。私には過去生は見えないけれど、現生の縁の織りなしが…嗚呼)
青空を見つめながら流れる涙はとどまることがなかった。




