91 七月十二日は最後の聖曜日
第4大隊の倉庫の片隅でマリー少尉とクレマがダンスを練習をしている。
「ちょっと休憩しましょ」
「クレマ大尉は昨日から何も召し上がってらっしゃらないとか」
「もう慣れたわ、毎週水の曜日の夕餉から聖曜日の正午までは食事抜きだから」
「何かの苦行でしょうか?」
ニカット笑顔を作り
「美容と健康の為に決まってるじゃない」
「本当ですか!私もやってみたい‼」
「ウソよ、冗談よ。これも学院生の教育訓練の一環よ」
「食事を抜くのが訓練ですか?飢餓対応とか」
「結果として食事が邪魔になるから取らないだけよ」
「食事がじゃまですか?」
「そうね、自分を変えるために瞑想するの。それは全身全霊でなくてはならないの。消化に回している余力はないのよ」
「それで、何かが変わるのですか?」
「う~ん、機密事項かな?詳細は中佐に聞いて。そうね、一つだけ教えてあげるとすれば、晦の行をやってクリスの剣が強くなった・・?変わったか、な」
「クリスさんと言えばルイの師匠ですね。あのドルフィ曹長の木刀を切り飛ばした」
「そうね、木刀を木刀で切り落とすのは前にも見たことがあるけど、あの型はじめてだわ。う~ん直接この目でみたかったわね」
「あの~、私もその訓練をすれば強くなれるでしょうか?」
「それは分からないわね。機会があったらソシ中佐に聞いてみて」
「特務事項ですか。あのー、前にも聞いたかもしれませんが大尉のお仕事って本当は何なんでか。今は私にダンスを教えていますが。」
「ダンス教師だっり、作法教師だったり、家庭教師もやったわね。それが何だか特務工兵隊に入ったりして自分でも何が何だか分からなくなっているの」
「あんまり軍人らしくない経歴ですけど・・クレマ大尉の人生の目的は何でしょうか」
「大きく出たはね。人生のと言われるとはっきりとしないんだけど、ここ当分の目的ならはっきりしているわ」
「当面の目的は?」
「この恋を愛と呼べるものに育てることよ」
「はあ~('Д')」
「私は恋に苦しみ愛に生きるの、そしてあの人の元で輝くわ」
「そこに、教師であることや軍人であることが関係あるのですか」
「大ありよ、愛を育てるには忍耐と理知が必要よ、そして恋は戦いよ」
「クレマ大尉、大尉ですよね。大尉と言えば戦闘兵科なら中隊規模の野郎どもを気風と腕力で心酔させて最前線を駆け回るのが夢でしょう。大尉は准尉を5名の特務隊で何をなさっているか知りませんが、准尉ですよ、サング曹長並みの部下が5名ですよ。そんなすごい方が・・」
「恋の最前線で闘っているって言ってるでしょ。」
「なんですかそれは」
「好きと嫌いは自分では選べないの。そして恋は落ちてから気づくもの。現状に気づいたらそれがどれほどの理不尽な状況であろうと現実として対処するのが軍人でしょ。私の場合は恋を運命の愛と呼べるものにするのが解なの。それが私のこの世に生まれてきた理由でもあるわ」
「よく分かりません・・・」
「あなたも恋を知れば分かるわ。愛は献身だけれど、恋は駆け引きよ。メイクもドレスもダンスもその為の女の武器よ。マリー少尉は戦闘工兵として体は出来ているけど些か女性らしさ?淑やかさ?たおやかさかしら、そう言ったものに欠けるきらいがあるわ。さあ、ダンスの練習よ。今日の特別任務のためにサング曹長があなたの小隊の面倒をすべて引き受けてくれているんだから、曹長の献身に答えましょ」
「まさか、ゴールデンヴァーム少佐と恋をしろというわけでは・・」
「何を言ってるの。これは特別任務よ。まさか味方に剣を突き付ける訳にはいかないでしょ。少尉の駆け引きの技術で軍内派閥、パワーバランスのイニシアティブを取るのよ。佐官になれば必要な事だけど、新米少尉のあどけない微笑にそんな罠が仕掛けられているとは3名?サング曹長も含めると5名ぐらいしか知らないわ」
「私には分かりません」
「当然よ。小娘に悟られるようならこの作戦は失敗よ」
「え~」




