84 六月三十日は聖曜日
六月三十日の朝は穏やかな日の出であった。卯の刻に入り導師の掛け声で坐を解いたのはオルレア、クレマ、クリス、アダン、テヒの五人であった。アンシュアーサ導師が高座を下り五人を自分の膝下に呼んだ。それぞれに白湯を手ずから渡し、五人を労った。
「よくぞ、白黒の晦をやり遂げられました。月はもとより日輪さえも変化するものであるという不変なるものの行を終えられたことを言祝ぎたいと思います」
導師はそう語り始めた
「行はあくまで己の薫習を知り、業の因果を見極めるもの。ここまでは皆さんとご一緒できますが、この先は独行となります。槃寂の世界へは遍在の神のご加護か、真の神の力に依ると言い伝えられています。神のご加護があらんことを」
「導師様、もうお別れなのでしょうか」
「いいえオルレアさん、師と弟子の関係はここまでですが、これからは真の神を求める同朋としていつでもお会いできますよ」
「導師様はこの後、山に籠られるのですか」
「そうですね。今年は12年に一度の宗教会議が帝都の王宮で開かれます。クレマさん天の加護があれば帰りにダンスパーティーに参加できそうですよ。」
「それは是非お寄り下さい。切にお待ち申し上げます。」
「これからは皆さんの縁のある神と共にお進みください。」
「ご縁のある神様と言われましても分からないのですが」
「大丈夫ですよ。アダンさん。向こうの方ではもう分かっていますから。テヒさんの様にプリティヴィー神の加護を持つ方やクリスさんの様にマリーチ神と共にある方が・・髪は緑青ですけど朝の空色だからそれはそれでいいのでしょう・・こんな風に分かりやすくなくてもご縁のある神様はいらっしゃいますからいずれ分かります」
「ご指導、誠にありがとうございました」
「いえ、私の方こそ僥倖と言っていい経験でした。毎年10人程は子の刻に入る方はいらっしゃるのですが、今年は全員が亥の刻を超え子の刻を超えた方も20人はいらっしゃいました。あなた方5人を含めるとこれは凄い事です。しかしこれは何かが始まるという事でもあります。あなた方の世代の始まりと言う事でしょう」
「それは、身が引き締まるお言葉です」
「さあ、少しお部屋でお休みなさい。身体を労って昼には白の太陽の最後の光を浴びてください。有志を募って酉刻に入り日の行を行ってください。私は帝都に向かいますので暫しのお別れです。」
・・・・・・
まったりとした昼下がりの散策を終えたオルレア、クレマ、クリスはテラス風のデッキでテヒが作ったレモン水を飲むためにやってきた。アダンがテヒを相手に談笑している。
「ずいぶん楽しそうね。」
「三人娘の登場か」
「サンバカ娘と言わないところが成長の証かしら」
「三美女と言えばお世辞になるからな」
「世辞はいいのよ」
「なんで」
「嘘じゃないから、ただ心が籠っていないだけよ」
「心が籠ってない言葉でもいいのか」
「すべてが誠心誠意の言葉ばかりじゃ重すぎて・・疲れるでしょ」
「言われてみればそうかな、世辞に思惑を込めるから反感や嫌悪を感じるのか」
「そうよ。ただ事実を淡々とよ」
「そういう事なら・・三美姫のと言えば子豚だし・・三美女神じゃゴロが悪い・・三柱の女神じゃ恐ろしいか・・語彙不足を痛感するな~」
「三人の美女で十分よ」
「ひねりも落ちも素っ気もない」
「何を求めているのよ、十分に写実的でナチュラルでリアリズムを感じるわ」
「心が籠ってないけどな」
「クレア様、私達こんな中身のない話をしていいものでしょうか」
「いいのよ、今だけだから。明日からは突っ走るから。怒涛の2週間よ」




