78 一手指南を
観客席からオルレアがクリスの手を引いて決闘のため急ぎ整えられた広場に降りてきた。
「クリス、剣に命を捧げる武士の真摯な願いにはこちらも全力でお答えしないと武の神に対して無礼になります。ドルフィさんよろしくお願いしますね。クリス、ちょっとしゃがんで髪を結い直すは・・・ここで束ねるのでいい?。キュッとしかりと結んでと、毛先も私のリボンで結ぶわね、ドルフィさんその大太刀はご自分の愛用の赤樫ですね。クリスはマリー少尉が使ってた小太刀を借りるのね。黒檀かしら、これなら大丈夫そうよ。・・トーマス大尉場所を空けて、私が仕切るから」
オルレアは中央に進むと自分は太陽を背にして立ち、右手にドルフィを立たせ、左手にクリスを立たせた。
「間合いは6間から始めるは、お互いそれでいいでしょ。支度はいいかしら始めるわよ。それでは太陽に向かって礼。互いに礼。それでは・・始め。」
オルレアがそのまま後ずさりして場から退場するとそこには二人だけの世界が出現した。ドルフィは大太刀を中段に構えて様子を見た。クリスは左足を引き右半身で上段に構える。
呼吸を伺いながらクリスが小太刀を左脇車に移していく。ドルフィはそれに合させて右足を一歩踏み出しながら腰を鎮め結果として上段に木刀を翳す。更に左半身に入れ換え大上段になる。
それを見て一瞬クリスが微笑んだようにドルフィは感じた。殺伐とした空気から穏やかな明るさに包まれたように感じた。自分の目の前にはクリスの顔だけが、宙に浮かんでいた。
恐れも気負いもなくドルフィは無心で打ち込む。五間の間合いを縮地で一刀の間合いに入り物打ちをクリスの頭上に振り下ろした。
打ち下ろしてたはずであった。しかし何の手応えもなく柄は腹前に来る。長年の鍛錬が太刀を水平近くで留める。床を打ち付ける事もなく、振れもなくピタリという無音の音が聞こえるかのように止まる。
何事もなくクリスは小太刀を収め立ち上がるのをドルフィは何の感情もなく見ていた。
「それまで」
オルレアが宣言し、互いに礼、太陽に向かって礼。貴賓席に向かって礼。と号令に体が反応するのをドルフィは他人ごとの様に見ていた。
押し込められていた息が歓声となって響き渡る頃やっとドルフィは自分を取り戻していた。横にいるオルレアに
「何が起こったのでしょうか」
と尋ねると
「そんなことより、あちらにいって、テヒのお茶を頂きましょ」
とオルレアがドルフィの手を引いてソシ中佐のテーブルまで連れてきた。
「ドルフィ、その木刀を見せてくれ」
と中佐が手を伸ばしてきたので、右手に持っていた長年手に馴染んだ愛用の木刀を渡そうとして
「おや?」
と感じ、よくよく愛刀をみれば物打ちから先、一尺ほどがなくなっていた。先端を見るとそれは切り口であった。美しい切り口であった。呆然としながらその切り口を見詰めていたが、何が起きたのか分からなかった。いや、切り飛ばされたとは理解できたが実感がなかった。なんの手応えも感じなかった。ただ振り上げ打ち下ろした。何万何億回と行った素振りのひとつにすぎなかった。物思いに耽るドルフィの耳に聞こえてきたのはクリスの声であった。
「オルレア様、私のケーキをあげますから、そんなに貪らないでください。お姫様らしくしてください」
と、




