77 決闘
何度目かの連続攻撃をようやく躱して間合いを取った。息の乱れを悟られないように調息の法を行いながら息を整えるが、次は躱しきれない予感を払拭しようとルイは半眼になっていた。
マリーは自分の得意の形に持ち込みつつあるのを感じていた。相手は中太刀の間合いの有利さだけだと思った。間合いを詰めるにはもういくつのフェイントを入れるかイメージの中で探していた。
(出た~、乙女の祈り)とマリーの同僚達はざわついた。ルイは自分もバックラーだった経験から左肩から背中の隙が誘いであることは十分に承知していたが、どうしようもなくそこに五業剣を飛び込むように打ち込んだ。すかさず小盾の反撃に対応する。何度か繰り返された手順に体が慣れて対応してしまった。無意識の予測を裏切られて小盾で作られた死角からブロードソードの代わりの小太刀の切り上げを刀で受け止めてしまった。切り結んだ点を力んだ瞬間外されて重心がやや前のめりになったところを左下からの小盾のフックが襲ってきた。思わず飛びさがったのを咎められ小太刀が右の脾腹に寸止めされた。
「勝負あり。勝者マリー少尉」
そう審判役のトーマス大尉が片手をあげる。
「参りました」
とルイが一礼する。多くの者はマリーの華麗なバックラー戦法を褒め称えた。ルイの事情を知る上段者は目を細目あるいは微笑みを浮かべてルイの上達を喜んだ。特殊戦闘工兵の一人が何かいぶかしく感じる所があったのかトーマス大尉に近づき耳打ちした。
「中佐、ドルフィ曹長が伺いたいことがあると申していますが許可頂けますか」
「今の勝負に疑義があるというのか」
「いえ、ルイ殿の剣の修行について些か尋ねたきことがあると」
「ドルフィ曹長は剣術師範だったな。剣技についてか。良いでしょう。質問を」
・・・・・
「ルイ殿、・・・」
「殿はご勘弁を、ルイで結構です」
「では、ルイさんも私をドルフィとお呼びください。」
「年長の方にそのように申されては困ります。それで、ドルフィさん、どのような質問でしょうか」
「お見受けしたところ、バックラーの戦法については大変お詳しいように見受けましたが元のスタイルはバックラーですか」
「ご慧眼恐れ入ります。もとはオーソドックスなブロードソードとバックラーを使っていました」
「何故に太刀に持ち替えられました」
「師匠が、我流が強いので無理に矯正するよりは新たな基本を学べと」
「太刀に替えられて如何ほどでしょうか。」
「スタイルを変えて2か月。太刀を持っても良いと許されたのは今日が初めてです」
「なんと、今日許しが出たという事はここに師匠がいらっしゃるという事ですか」
「そうですよ。同じ第3中隊の隊員ですから」
「中佐、ぜひルイ殿の師匠に一手ご教授願いたいのですが」
「うーん、時間もあるしいいよ。ところでルイの師匠って・・・」
と如何にも強者然としている者、飄々としている者を見渡した。しかし、学生中隊の皆が一人の者に視線を向けているのに気が付いた。
「まさか、オルレア嬢ちゃんなのか」
「いえ、中佐その横です」
と一人の学生が答えた。そこには
「オルレア様じっとして、そんなに動くと拭き取れません。クリームが口の周りについていますよ。誰も取りませんから齧り付いたりせず、上品にフォークをお使い下い。お姫様役なんですから」
其処にはオルレアの世話を焼く緑とも青ともつかないセミロングの髪を低い位置で束ねた美少女がいた。




