75 お返し?
積み荷の点検や馬の世話に一区切りをつけた兵士たちが三々五々、臨時の食堂にやってきて舌鼓を打つ。
「本当にうまいぜ」
「野戦のしかも雨の中の食事とはとても思えない」
誰かが屋根のテントに溜まった雨を剣の鞘で突いて落としてみせる。
「リーパの町にはこれほどの店はないな」
「帝都に行けばあるだろうが、俺たちの入れるような所じゃない」
そんな囁きを躱しながら、一つの分隊が
「あー酒が飲めればなー」
という声を合図に次の一団と入れ替わっていった。
鳶色ベレーの指揮で学生が様々な作業を行ったため、ハンモックの休憩所から、お湯の使える洗い場や乾燥室、野鍛冶の炉まで簡易ながら稼働していた。入念な準備をして出発してきたが、少しの緩みもガタも見過ごされることなく荷車の車軸や金具、馬具の手入れから馬のマッサージまで手早く済まされてきたのでそろそろ暇になる者たちも出てきた。目くばせを躱した二人が
「ここの中隊長は随分若そうじゃないか」
「きっとすごい使い手なんだろう」
「いや、小耳にはさんだんだがなんでも道場の名札は下段にあるそうで猛者や上手が上にうじゃうじゃとか」
「だったら、俺が一つご指南してもいいんだぜ」
と伏線を張ろうとしたところ
「おーい、第五小隊が入るぞ~。覗きたい奴は順番にならべ~」
との声が掛かる。
「まずい、触らぬ神にたたりなしだ」
「とっととずらかろう」
蜘蛛の子を散らすように洗い場近辺から男たちがきえると横断幕で仕切られた洗い場に女性兵士達が入り始めた。
「サング曹長、とりあえず追っ払っといたからな。お湯は鍛冶の炉の熱を利用しているから結構熱くなるのが早い。適当に水を入れて薄めてくれ。終わったら乾燥室に切り替えるから最後は鍛冶場にひと言くれ」
「了解。ありがとうログ。軍曹皆を静かにさせろ」
という声が横断幕の向こうから帰ってくる。
「ログさん今日はありがとうございました。盾の板金を数打ちの食器に打ち直すのはみんなのいい稽古になりました。それでですね今日の記念にこんなプレート彫ってみたんですがここんところうまくいかなくてみんな苦労しているんですが、どうでしょう」
「ジョー君これは君ほどの腕があっても材質的に無理だな、なかなかのデザインだが多少変更しよう」
「デザインの変更ですか。おーい誰か、ガッパーナを呼んできてくれ」
とジョーが怒鳴った瞬間、横断幕を引き裂いて素っ裸の女が飛び出てきた。
とっさにジョーが横断幕の切れ端を切り裂いて女をす巻きにし、横断幕の向こうに放り込んだ。
「サング曹長、いくら何でもサービスが良すぎるぞ」
「すいませんログ軍曹。ローズマリー軍曹、少尉を取り押さえろ」
・・・・・・
ソシ大隊長はアシリオ少佐格、クレマスタッフと共に大テーブルを囲んでいた。オルレア、クリス、テヒも同じ席に呼ばれ食後のお茶を相伴している。そこへ、濡れ髪にタオルを巻かれたマリー少尉がトーマス中隊長とローズマリー軍曹に連行されてきた。
「トーマス大尉、何事か」
トーマス中隊長がソシ大隊長の耳元に顔を寄せ小声で報告をする。
「マリー少尉、アシリオ少佐麾下の第三中隊に返礼というには些か大胆な事の様に思うが、少尉の弁明を聞こう」
引きずられるように連れて来れれた少尉が増々しおれていく、
「ローズマリー軍曹、状況報告を」
「ハイ中佐。マリー少尉はクレマ大尉の恋人がここいると聞いてぜひお会いしてお話したいことがあったのです。そこに突然クレマ大尉の恋人の名前が聞こえて興奮して飛び出してしまった模様です」
「特殊戦闘将校にしては勇ましいというか考え物のような気がするが、クレマ大尉のお相手のお名前は」
マリー少尉が忽然と顔をあげ目を見開いて
「ガッパーナよ、あのガッパーナよ」
「少尉落ち着いてください」
と、軍曹に無理やり椅子に座らされるマリー少尉であった。




