71 防諜か調略か
暫くクレマに介抱されていたマリー少尉が自分で起きあがり、ブランデー入りの紅茶を両掌で包み込みながら床の一点を見詰めていた。
「クレマ大尉、もしかしたらマリー少尉には特務の才があるのかもしれんな」
「もちろんです。自在に気絶できるのは淑女の嗜みですが、これでおきゃんな町娘からどこぞのご令嬢までそつなくこなせるという事です」
「そんなんじゃありません。中佐ならやりかねないと容易に想像できるから気絶してしまったのです」
「なんだ、マリー少尉は謙遜も出来るのか」
「・・・・」
「しかし、少佐は食いついてきますかね」
「これだけ餌を蒔いたんだ、どれかに喰いついて欲しものだ」
「シャベルの返礼だけなら、実直だけの男という事になりますが、あの成金男がそれで終わりますか?」
「幾つもエサをと言われますが、シャベル以外に何があるのですか。今回の洪水対策の功労者というのは分かりますが」
「なに、君だよ。マリー少尉はなかなか美味しそうなエサだろ」
「マリー少尉を口説ければ、連隊長に出世は確実でしょう」
「内助の功もイイが、マリー少尉を表に自分が裏手に回っていろいろやるかもしれんな」
「それなら将軍の座を狙う野心家という事になります」
「クレマ大尉もそう見るか」
「はい、私が男なら、マリー少尉の美貌と経歴と才能を最大限に活用し将軍職を取りにいきますね」
「なんですか二人して、私をエサに何を楽しんでいるんですか」
「いや、ゴールデンヴァーム少佐が単なる凡庸な軍人か野心家か、我々の罠に嵌るだけのわき役かそれとも罠を逆利用して成り上がる主役なのかを占っているのだよ」
「それがなぜ私を口説くことになるんですか」
「あれだけ印象付けておいて、それはないだろ」
「そうです。耳まで染めたカマトトぶりに心動かされなければ朴念仁でしょう」
「そうそれに、あの気絶の仕方は保護欲をそそるね」
「中佐もそそられましたか」
「大尉がうらやましかった」
「役得ですね」
「もう何を言っているんですか。二人して。私が餌ならクレマ大尉だってエサです。」
「言いたいことは分かるわ。そうね、もし私を口説けるものなら、この国の宰相か辺境伯ぐらいには押し上げて見せるわね」
「凄い自信だが、納得だな」
「なにが納得なのですか」
「それはだな、マリー少尉は良くて表と裏手しかないが、クレマ大尉は横手がる」
「そうしかも横手には右手と左手がありますからね」
「そうだなクレマ大尉が私の後を継げば特殊戦闘兵を右手に・・」
「中佐そこまでです」
「そうだな。まだ後を継ぐと決まったわけでわないか」
「右手に特戦なら左手は何ですか教えてください」
「右手がSなら左手はMだろう」
「流石中佐お上手です」
「分かりません。SとNならぬSとMなんて、これも特務ですか!」
「それに私を口説くことはできないわ」
「何故です」
「何故なら私は口説かれるのでなく、口説いているから」
「自分の道を行くか。それも致し方なしか」
「もう訳の分からない事ばかり。いいです、クレマ大尉でなければソシ中佐だったらどうします」
「いきなり飛躍するね」
「あらゆる可能性を検討することは基本ですね」
「マリー少尉には特務の才能があるからな」
「もう揶揄わないでください」
「そうだな。100歩譲っていや10000歩以上譲って私が口説かれたならそれは・・・」
「それは?」
「ゴールデンヴァーム王朝の樹立だな」
「流石中佐、宇宙は広大です」




