69 防諜戦
クレマはカップ&ソーサーを手に取り立ち上がるとマージ―兵長に歩み寄り、すれ違いざまに蹴りを入れてしゃべりだす。
「するとマージ―兵長は酒保の素っ気ない肌着やド派手な下着を女性兵士や女性軍属に贈るのか」
「いきなりそんなことはしません。ものごとには順序というものがあります」
「つまり肌着を送ってから暫くして下着を送るという事か」
「いえ違います」
「どう違うのか」
「連隊内の酒保にある品は限られています。まず、手巾それから、下着、次にシャツなどの中着、そして肌着です」
「何故か」
「偶然を利用して雨の滴を拭いてあげるとか、こぼしたたお茶を拭くとかを何の変哲もない普通の手巾で行います」
「偶然を演出して相手に触れるのだな」
「その時こういいます。〝洗って帰すほどのものじゃないからあげるよ”と」
「上官なら〝よろしかったらこのままお使いください”ダナ」
「で、次に偶然に会った時、彼女がハンカチなり何か返礼なりをくれたならば脈ありです」
「偶然を装い、脈をみるのだな」
「その時、肝心なのは変に固辞することなく、あっけいほどに素直に受け取ります」
「相手に肩透かしを食らわすのか」
「そして手を引いてハンカチ売り場に向かいます」
「虚を突いてスキンシップと些か強引な行動で相手をドキドキさせるのか」
「そして、〝好きなの選んで”といいます」
「成る程、畳み掛けるのだな」
「それで、〝あれ以来、君にちゃんとしたハンカチを送りたいと思っていたんだ”と言います」
「告白風な言い回しで言質を取られないようにしながら相手の気持ちを混乱させるか」
「ついでに彼女の好みを知ることが出来るという事です」
「しかし、良家の子女なら〝謂れのないものを受け取る訳にはいきません”ぐらい言うだろう」
「そうです。ここで相手の反応を見ながら家風なり教養なり危険度を推察するのです」
「常に進退を見極めつつ次は?」
「行けると思ったら〝今度、食事か飲みに行こう”と誘います」
「相手に選択権を与えている様に見せつつデートに誘うのだな」
「後は流れに沿って無理なくデートを重ね、贈り物の機会を探ります」
「最短は?」
「そうですね。付き合って1週間記念日がギリギリでしょうか」
「そこで下着を送ります」
「成る程、他人には見せないが見られても良くて、誰かに話したくなる女の心理を突くのだな。しかし、いきなり下着に嫌悪感をいだく者もあろう」
「そういう時は、〝僕の趣味を押し付けて誰かに揶揄われたりすると君が困ると思って、見えないものにしたんだけど”と困惑して見せます」
「それで拒絶されたら?」
「それはそれで引き下がります。またはシャツやアクセサリーの身に付けるものを選んでもらいます。OKなら一気に畳み掛けます」
「指で触ったくらいでどんな肌着が良いか分かるものなのか」
「クレマ大尉、まだまだですね。調査するのは唇で、です」
「成る程。私もまだ甘いという訳か。唇で触覚を舌で味覚を鼻で嗅覚を使って一気に調査判断をするという事か」
マリー少尉の会話の理解に一瞬、遅れがあったが、一気に耳まで真っ赤にしてあたふたし始めた時、ドアがノックされた。
「誰か」
とソシ中佐が誰何すると
「ゴールデンヴァーム少佐です。ソシ中佐。出陣のご挨拶に伺いました」
と、いきなりドアを開けてきた。




