64 雨の散策
傘を差しながら3人は歩き始めた。小降りの時は傘の散歩も楽しいが、傘が役に立たない程の強い雨が時よりやってきて3人を倉庫や宿舎の玄関などに追いやる。
「麦秋の雨と洒落込みたかったけど、無理ね。」
「大尉、ちょっと早いけど、連隊本部横の酒保に行きましょう」
「昼酒?」
「違いますよ。酒保の二階に将校たちがよく利用する喫茶部があるんです。そこでお茶しましょ」
「ローズマリー姉さんもそれでよろしくって?」
「もちろんです!」
・・・・・
「なかなか落ち着いたインテリアね。マリー少尉は良く来るの?」
「少尉の身分じゃ本部に用事なんかないので、中隊長に一度連れてきてもらったのと、本部の部局の女性将校に知り合いがいるので休日の待ち合わせに何度か使ったことがあるだけです」
「ローズマリー姉さんは?」
「初めてです」
「ふ~ん、お茶よりお酒なのかしら」
「あ~、夜はお酒も飲めますよ」
「じゃ今度姉さんときましょう」
「・・・!」
「ところで、下のお店は雑貨もたくさんあったわね」
「何か欲しいものがあるんですか?」
「いえ、短靴が濡れちゃって。替えの靴と靴下が欲しいかなと」
「後で見てみましょう。お茶とケーキが来ました。頂きましょう」
二人が紅茶を頂く様子を見て慌てて軍曹もカップを持ち上げる。
「大尉、あまりお好みではなかったですか?」
「う~ん、軍隊としてはいい方だと思うわ」
「そうですか、クレマ大尉は貴族様ですよね」
クレマはマリーの瞳を覗き込む。
「あっ、すいません。詮索するつもりじゃなくて。所作があまりにも美しいのでつい見とれてしまいました」
「私は礼儀作法の教師なの」
「あ~、特務ですね」
クレマはニッコリと微笑んで一口啜り、ケーキに手を伸ばした。
「でも、仕事でそんな素敵な髪留めを付けれるなんて羨ましいです」
「これ?見る?」
と言いつつつ、マジェスタをはずすと、止めていた髪が流れ落ちる。
「はい、拝見します。素敵な、銀製ですね。」
「そぉう、単なるもらいものよ。今はそれしか手持ちがなくて仕方なく使ってるだけだけど」
「大尉殿これ、ガッパーナの紋章ですよ。随分高価な贈り物ですね」
「いや、本人の手作りだからそれほどの物じゃないはずよ」
「本人の手作り!?、ガッパーナの手作りですか。保証書とかないんですか」
「ないわね、ガッパーナが記念にって作ってくれたものだから」
「ガッパーナって結構お年のはずですが、どんなご関係なんですか?」
「あ~、息子の方ね。跡取りだとか言ってたかな。単なる友達よ」
「単なる友達に、ガッパーナの紋章入りの新作の銀製の髪留めを手作りするなんて、彼氏ですか~!」
「(なんか面倒になってきたな~)!特務よ、特務、機密事項」
「え~、教えてください~」
「アッ馬車だ。姉さんあれ誰の馬車からしら」
「連隊長旗が上がってますから、連隊長がお戻りになられたのだと思います」
「そう、いよいよ始まるのかしら。マリー少尉、膨れてないで、姉さん。少尉と私はこの後連隊本部に寄るわ。その後多分ソシ中佐と連隊本部で会食だと思う。マリー少尉はどうなるか中佐次第ね。荷車が続々と到着しているわね」
「畏まりました。大尉はこの後昼食まで連隊本部という事ですね」
「そう、分かっているのはそこまでね、マージ―兵長とウリ兵長を見かけたらそう伝えて。それから、第4大隊の駐屯基地を練兵場上の旧教育大隊本部兵舎まで押し上げるはずだから中隊長に確認取って早め行動できるようにね、サング曹長に資材の運搬と新着物資の整理を進めるように伝えて。あっ御免。少尉の頭越しに言ってしまったわ。マリー少尉いつまでも拗ねてないで、軍曹に伝達命令して」
「・・だそうよ」




