62 女性士官宿舎
自室で針仕事をしていた。灯火を付けて過ごすのは何か月振りだろうと、ウリを待ちながら針を動かす。
「シャツは取り敢えず肩章に階級章を巻き付けて糸で留めてと、洗濯する時にはすぐ外せる工夫なんだけど、だったら肩章に階級章なんか付けなきゃいいのにめんどくさい。と、良し、スカートはこれで椅子に座った時に膝が見えないわね。ふくらはぎが見えるスカートなんてお父様が見たら卒倒ものね。うーんスリットを入れたいけどローズマリーさんに叱られるかしら」
試着をしながらいろいろポーズをとるが姿見がないのを残念に思う。玄関わきの廊下にはあるのだが確かめに行けない。そうこうするうちに微かな気配を感じ窓から外を確かめる。ウリを確認するとそっと窓を開ける。ウリが器用に音もなく潜り込んでくる。囁くように、
「ハイ、これウリのベレー帽、これが兵長の階級章でこれが特務兵章これについて何か聞かれたら機密ですと言えば言いそうよ。一応ソシ大隊の制帽扱いだから。クシャッとして鞄やズボンの後ろに隠せるしいろいろ便利よ。ベレーの縁取りにしっかり縫い付けたから。これを被っていれば多少の事は特務ですってごまかせそうよ」
「余計めだつんじゃないか。そんなことよりルイに伝言だろ。どうすんだ」
「これをアダンに渡して、中にアシリオ中隊長宛の手紙も入っているから。ルイにはアシリオ中隊長から伝達されるようにアダンにお願いしてあるから。それからこれは途中で食べて、アンパンとキャラメル、水筒は持ったわよね。兎に角明日の点呼までには戻ってきて」
言うだけ言うとウリを窓の外に押しやった。とその時いきなりドアが開いた。夜番士官がいきなり入り込んで来た。
「何か話声がしたので点検のためドアを開けた。見ない顔だが何をしている」
「すいません。明日着る制服を直していたんですが裁縫が苦手でつい悪態をついてしまいました」
「貴様が第四大隊に急遽配属されたという軍属か。軍隊は21時消灯、6時起床点呼だ。明日朝6時に玄関前に集合点呼だ。」
「あのー、点呼の時は制服着用ですか。」
「いや、夏は作業ズボンに体操シャツだ。点呼の後、30分ほど軍隊体操を行う。遅れるな」
「はい、おやすみなさい」
危機一髪と胸をなでおろすと窓の外を確かめたが既に何の気配もしなかった。
灯を消しベッドに潜り込み考える。
「ベレー帽はいいわね。ケピやクレッツエン帽みたいだったら髪を垂らした方が良いかもと思っていたけどベレーならいろいろ試しがいがあるわ。軽くて折りたたんで鞄にしまえるし、そのまま鉄兜を上にかぶれそうだし・・・」
3分も経たずに眠りに落ちるが、4時前には目を覚まし、ベットの上で瞑想を行う。一人で行う瞑想は新鮮であったが少し努力を要した。仲間と共に行うときのような高揚感や場のエネルギーのようなものが足りないように感じた。
呼吸法の途中で起床ラッパが鳴った。慌てずに着実に座を解くと、急いで短靴を履き玄関へと向かった。
点呼番号を叫ぶように怒鳴るのを見よう見まねでこなし、ほっとする。
(そういえばこんな兵隊らしいことやってないなあ)
とそこへローズマリー軍曹がやってきて
「おい新入り、このまま朝飯を食いに行くぞ、食堂がどこにあるかしってるのか」
「いえ、知りません連れて行ってください」
「あー兵隊たちが来る前に食い終わって、8時からの始業前には兵たちを待ち受けなければいけないからな。クレマも初日から遅れないようにしないとな」
「はい、軍曹よろしくお願いします」
「まあ任せて置けって、なんならローズマリー姉さんと呼んでもいいぜ」
「ありがとうございます。姉さん」




