59 ソシ大隊長と
窓の外には日が西の方角を通り過ぎていたが夕暮れにはまだ一刻ほどの余裕があった。大隊長の執務室にはソシ大隊長とクレマの女性将校二人が窓の外を見ていた。
「クレマ学生、今一番の課題は何かな」
「立場に寄りますが」
「そうだな。我がユニヴァ連隊は帝都の外郭から北及び北東の領域の守備が主な任務だ。」
「仮想敵はありますか」
「敵対国はない。ここは帝国の中心だ。あるとすればもっと東か南、でなけらば北の連峰の峰を超えた向こうだ。」
「盗賊の類は」
「軍が出動するような規模の者はいない。巡回警備隊が対応するくらいのものだ」
「だとすると、今ある脅威は雨、または洪水かと思われます」
「連隊長の許可は得ている。この地図を見てくれ帝都の北、オディ川の右岸がユニヴァ連隊の守備範囲だ。この扇状地のうえの中山間部がわが第4大隊の持ち場になる。大雑把に言うとこの連隊本部から北、つまり里山と山奥で東のオディ川までだな。旧侯爵領の半分、山林部なので人は少ないが範囲が広い」
「成る程、教育大隊の各中隊が山林に入る主要な山道の要所に配置されているわけですね。」
「さて君が大隊長ならこの洪水の危機に対してどうする」
「そうですね。オディ川この曲がりにあるこの印はなんですか?」
「今は単なる見張り所で分隊が守備しているが、その昔は川船の関所で税関があった。その前はその辺の小領主の館だったな。川船の税があるので小さいながら子爵領になったこともある。」
「子爵の館跡なら中隊が駐屯しても大丈夫ですね。それと第5教育中隊の兵舎の近くにあるこの湖?大池ですか?この氾濫の可能性はありますか」
「その小さな湖は大魔法時代に一夜にして魔法で作られたとも、星が落ちた後だとも言われていいる代物で決壊はしないだろうが水があふれ流れることはあるかもしれない」
「そうですか、ではこの地図からみて、オディ川の氾濫、洪水に備えて、この関所跡に手持ちの1中隊、湖の氾濫に備えて第5教育隊兵舎に1中隊を今夜中に派遣して様子を見守ります。そうしながら対処計画を立てることですね。この大隊本体を練兵場の北、前の教育大隊本部兵舎まで押し上げて置きましょう。練兵場を迂回しなくていい分だけ連絡網が短縮できます。」
「成る程、オディ川の中流と帝都外郭は連隊の他の大隊に任せてしまって、我々は上流の山林部の異変に即応できるように配置するという事か」
「しかし、この地図は随分古い感じがしますね。高低差が全然分からない。もしかしたら連隊長に関税砦に出張ってもらわないといけないかもしれませんね。」
「どうしてだ」
「洪水が大きくて氾濫がさけられないなら、帝都を守るために例えばこの支流の上でわざと決壊させる必要があるかもしれません」
「ここか?」
「でもそうするよ、このあたり一面の麦畑が全滅します」
「成る程」
「いち中隊長にその決断を迫るのは酷かと」
「連隊長なら領主判断並みですから、その後の保証や復興を条件に領民の了解も取りやすいでしょうし、帝国との交渉も帝都を守るためという大義名分を通しやすくなります」
「中隊大尉ではそれは苦しいか。せめて佐官できれば限定命令か訓令を持った大隊長判断という事か」
「後は、その為の装備を。軽装歩兵の盾と槍ではなくシャベルや鶴嘴などの工具がないと手で掘ることになります」
「第4大隊と教育大隊が穴掘り大隊になる訳だな」
「そういう事なら、樵中隊の装備もお願いしたいですね」
「成る程面白い。ところで、貴様は従者を連れて来ていたな」
「はい、馬の口取りを頼んだら従者という名目で学生を付けてもらいました」
「マージ―兵長、クレマの従者をここへ、それから中隊長小隊長を士官室へ集合させてくれ。よし、クレマこのメモ用紙に身長体重にスリーサイズ、靴のサイズに帽子のサイズを書いてくれ」
「はあ~?」




