44 夜の帷を
クレマはスタッフに解散を告げたあとアダンを引き留め、二人の話し合いが続く。アダンはカーテンを閉め応接テーブルに足を投げ出し考え込む。クレマはデスクの上の書類をかたずけ、髪をかき揚げ、銀の髪留めを止め直す。
「さっきから気にはなってたんだが、みんながいたので聞かなかったことがある。聞いてもいいか」
「なにヨ、持って回って」
「いや、その髪留めのデザイン、ガッパーナ家の意匠だよな。ガッパーナといい仲なのか」
「冗談・・、ガッパーナを押し付けたのあなたでしょ」
「そうだが、女にアクセサリー送るような趣味があるとは思ってもいなかったのさ」
「邪推よ。これは彼が私をいい女?すくなくともいい女友達と認めた証拠よ。私に恋人が出来たら自分がどれだけ・・、つまりガッパーナが認めるほどいい女だと自慢できるようにとくれたものよ」
「確か錬金学だったか、の指導をお願いしたはずが、いい女の証に髪留めをくれるとは、そんなものを持ち歩いているのか奴は」
「それも違う。これは彼の私物のカトラリーからここで作ったものよ。ほら、大ぶりのスプーンのツボを叩いて伸ばして髪留めの本体に、柄を切ってこの穴に通して止め具に、細工は2ミリのジョーに頼んだと言ってたわ。柄の意匠は特に家紋のGはなるべく残して古風だけど今時なハイセンスってやつね」
「そのハイセンスなお嬢様の眼鏡にかなったのがレディ・クレマのスタッフという事か。こいつらを使って何をするつもりだ」
「何かが起こるかもしれないし何も起こらないかもしれない。周到な準備が勝利を呼ぶよ。世間知らずのお嬢様より世情に通じた大人の意見を聞きたいの。」
「ルネ、15歳。飛び級で帝国学院に入れるほどの秀才。親は貴族。多分3男か4男あたりで爵位を継げないので法服貴族となって帝国官僚を目指す」
「頭脳明晰、品行方正、末は大臣ね。」
「グレース、16歳。単なるお嬢様じゃない。本人の目的を聞きたいものだ」
「女の武器も使える貴族のお嬢さんにして上昇志向グングンね。」
「3小のアダン君は謎のいい男役だな」
「本当は中身なんか無い、フリだけ男だったりして」
「よくご存じで、そして、4小のユニ、社会経験ありだが期待されたのか疎まれたのか」
「社会人の視点に期待ね」
「イシュク17歳、辺境伯推薦でも平民だから上等兵あがりだな。でも03番はなんでだ?普通は01か02だろ」
「私と同じ小隊だから知っているけど、彼は医術系志望よ」
「深緑出身か」
「深緑?て何」
「衛生兵上がりってことだ」
「なんでそうなるの?」
「お前は本当に帝国軍人か?」
「私は軍人じゃないわ、良妻賢母を目指すレディよ」
「そうだったな。レディ・クレマ。お前の志望は良妻賢母だった。」
「なにヨ、嫌みったらしい。早く教えなさいよ」
「軍では兵科を色で表すことがあるんだ。歩兵の定色は血の緋色だ。騎兵は草原の萌黄色だな。そして衛生兵の属する衛生部は兵科ではないが、深緑で表す。」
「なんで深緑なのかしら?」
「血の赤を見続けると酔うそうだ。それを避けるため緑の布をよく使うというもっともらしい話があるが、それより、俺はワインボトルの色から来てるという話の方を信じる」
「なんで、」
「遠征に行くと幕舎がたてられる。歩兵本部の前には緋色の本部旗が、騎兵本部の前には萌黄色の本部旗が点てられる。当然、衛生部の幕舎の前には深緑の旗が立つがそれよりも高い緑色の空き瓶の山で一目で分かるいう訳さ。」
「医者はみんな、サド先生なのかしら」
「何を言っているんだか。酒も飲まずに酔っぱらっているのか」




