41 マダムの部屋
クレマの部屋は中隊長室並みの作りになっている。一面の壁の扉付きの本棚、飾り棚、来客用のお茶のワゴン、接待用の低いソファとテーブル、ストールがいくつか、そして広い執務用のデスク、唯一、女主人の部屋であることをささやかに主張するかのようなカフェカーテンが夕日を遮っている。クレマは肘掛椅子から立ち上がると部屋に集まった五人に挨拶を始めた。
「皆さん、貴重な夕食後の時間に集まって頂き感謝します。3-5-16クレマです。よろしくお願いします。皆さんどうぞお座りください。」
そう言いながらクレマは応接セットの主人席に座る。他の者は男女2名づつ迎え合わせの長椅子に着席した。一人、長身の男が壁一面に作り付けとなっている半分ほど埋まった本棚の本の一冊を手に取っている。
「今日、皆さんに集まって頂いた理由とそれぞれの紹介、顔合わせですね。を、目的に集まってもらいました。」
と、クレマは立ち上がりワゴンに近づきながら話す。
「まず、私は中隊長の命により小テストで赤点を取った学生の学力向上を図るために教師役を仰せつかった者です。皆さんもご存じのようにこの3週間学生会議を通じて認定試験を実施してきました。皆さんのご協力に感謝申し上げます。」
クレマは炭を掻き立て湯が沸くのを待ちながら皆を見渡す。どのような反応をして良いのか判断がつかぬ様子でほとんどの者がテーブルの一点をぼんやりと見ている。
「この度、一応の目的を達成しました。そこで学生会議を解散して通常に復帰すべきと中隊長に具申したところ、待てとの返答でした。」
大ぶりのティーポットに人数分の茶葉を入れる。
「中隊長が仰るには、貴族学院卒業レベルに中隊全員の学力が揃った。そこで次は中隊全員の更なる底上げを図って欲しいいとの言でした。」
お湯を注ぐ音だけが聞こえてきた。
「あのー、クレマさん。おっしゃる意味が分かりかねますが」
ひとりの女学生がつぶやく様に質問した。
「その通り。わけが分かりません。私もそう中隊長にお聞きしました。」
抽出の時間を測りながらクレマが続ける、
「兵士としての能力向上が教育大隊の目的ではと」
一旦言葉を切り、香りを確かめカップに注ぎ始める。
「まあそれはそうなんだけど、それだけじゃなんだからなんかしてよ。と中隊長は仰いました。」
均等に注ぎ終わり、カップ&ソーサ―を手ずからテーブルの上にサーブしはじめた。
「私は、了解しました。と答えました。」
トレイを胸に抱きながら言い放つ。
「何を了解したのですか」
と銀髪の男子学生がつぶやく。
「それは、それよ。あれをあれしてあれならばアレという大人の会話?以心伝心?ツーといえば的な了解といいう事で。」
シュガーポットを音を立てるような勢いでテーブルの真ん中に置くとクレマは自席に座る。
「で、後は交渉ね。取り敢えずスタッフが欲しいと要求して各小隊から1名づつ、つまり皆さんを私のスタッフという事で中隊長に承認を頂きました。明日にも辞令が出ます。皆さんは教師助手として準男爵格で教育大隊訓練を修了する予定です。」
「準男爵をもらっても、僕らはそもそも帝国学院を卒業したら、法服男爵か少尉になるのですから意味があるとは思えませんが」
ともう一人の茶色の髪の男子学生が疑問を呈する。
「あら、ご存じないようね。準男爵を持っていれば法服男爵で官僚になっても最初から主任として部下を持って仕事ができるわ、無いなら半年から1年は見習いね。軍なら武功を上げれば3つじゃだめだけど5つなら、内容によっては4つで一級準尉のバッジが貰える。現場で単なる大尉と一級准尉の徽章を付けた大尉じゃ威光というものがどれだけ違うか。教授になっても同じよ。上にはあまり関係なくても下の者そうね、ドアマンからからメイドに至るまでの協力態度が違うの。どう、俄然やる気が出て来たでしょ。」




