37 続 執務室にて
アダンが去った後、クレマは窓越しに夕日を見ていた。
「いい加減出てきなさいよ。」
背中の向こうに声を掛ける。
「いや、一服するのかと思って」
と、言いながら執務室の奥のキャビネットの陰からウリが夕日の光の中に姿を現した。クレマは肩越しに振り返りながら
「一服って、なんで知ってるのよ」
「匂いには敏感で」
「虚仮脅しに吸って見せただけよ。それに、本当にシガーをやるならヒュミドールから揃えるわよ」
「趣味がよろしいようで」
「それより、アダンの話は聞いていたでしょ」
「まあーな、」
「なんか言いなさいよ」
「イエス、マム」
「もぉ、ウリまで」
「俺が見た範囲では、クレマが心配するような事はおきていないな」
「いい雰囲気だと」
「楽走の時、試験の話からいろいろなことについて話が膨らんでいるようだ。それにつれていくつかのグループが出来ているのは確かだが」
「まあ、それは仕方がないというか当然の成り行きね。」
「孤立している子はいない?」
「全く一人っきりというのはないな」
「友達なんて一人いれば十分か。」
「・・・」
「ウリは大丈夫?」
「俺はあんたに見つかったから」
「そう。ところで、他の中隊の様子は?」
「第2と第4は遠目に見てきた。第1と第5はちょっと距離があり過ぎる」
「ご苦労さん。感想は?」
「今のところ、うちとそう変わらない感じだな」
「特に何か情報が欲しい訳じゃないから」
「来月いっぱいはそれぞれの内向きの事で手一杯だろう。その後の合同演習からだな」
「今後のスケジュールを知る必要があるわね」
「それはむしろあんたの役目だろ」
「そうね、中隊長室を探る訳には行かないか。何かネタがいるわネ。」
「あんたが何を心配しているのか、何をやろうとしているのかは知らないが」
「まあ、説明のしようがないことよ」
「それについちゃ気にしていないが、とりあえず何が欲しんだ」
「決まってるわ。スタッフよ。人材よ。」
「アダンはスタッフじゃないのか」
「アダンは暇つぶしに手伝ってくれている友達よ」
「あんたを嫁にと口説いてるんじゃないのか」
「それわないの。クリスでもオルレアでもないわ」
「わかるのか」
「分かるわ。彼の嫁は普通の嫁ではないから。」
「なんだか俺には分からんがそれならだれをスタッフにしたい」
「それを捜すために学生会議をつくったのよ」
「それは迂遠な」
「一石二鳥といって」
「それで見つけたのか」
「まだよ、リーダーシップが取れるというよりは分析力や洞察力があるタイプが欲しいの」
「見つけたり、見抜ける人間か」
「先頭に立つタイプはそれなりにいるからそれらを支援するのが目的ね」
「成る程、気にかけておく」
「ところでウリ、この間、4月の最後の夕方からの行の後で何か自分が変わった感じがする?」
「う~ん良く判らないな」
「そう、あの行の後、変化があった人が何人かいたの」
「あー、あんたらみたいに髪の色が変わったのが5,6人いたな」
「そう、見た目は変わらなくても言動に変化のあった人が私たちを含め11人いるの」
「確かに思い当たる」
「その他に、それほどでもないけど少し変わったな、という人がいないか調べているのよ」
「分かった。気にかけておく。そう、変わったと言えば大隊本部が変わったな」
「どういう風に?」
「入り込めなくなった」
「あんた大隊本部なんかに忍び込んでいたの!」
「あそこは警備がしっかりしているから、安心して寝れるんだ。それが建物に近づけなくなった」
「なにそれ」
「1週間ぐらい前からだ。そういえば大隊長の執務室から漏れる煙草の匂いが変わったな」
「それは大隊長が換わったということ?」
「そうだな、前はよくある紙巻だったが、あれは高級葉巻だな」
「シガー野郎か~」




