32 ものは相談
次の日の朝の三勤行のあと、クレマは中隊長室にアンシュアーサ導師を訪ねた。
「やっとおいでになりましたね。クレマさん」
「今日は面会をお許し下さりありがとうございます。」
「中隊長さん折角ですのて、お茶を淹れて頂けんませんか、そうですねお薄をお願いします。」
中隊長は無言でお茶の用意を始めた。クレマは昨日の話し合いを導師に説明し始めた。
・・・・・
「よくお気づきになったというか、やっと気づいたというか。そうです、クレマさんが仰るように何人かの人に変化が現れました」
「それはあの日の夕べの行によってですか」
「というよりは、夕方の行を終え、乾を通り抜けた人達がいたという事です。」
「イヌイを通り抜けるとは?」
「夕方から深夜の時間帯へ、ユジュ瞑想を連続して行ったという事です」
「良く判りませんが、」
「これは考えて分かるものではありません。体で理解する類のもです。今はそういうものだとしておいてください。」
「はい、とりあえずそういう事にします。が、でも・・」
「他の人の体験をお聞きになりましたね。」
「はい。オルレアは門の前にいたと。クリスは光の中にいたと。アダンは嫁を捜しているのに気付いたと、そして私は・・・」
「クレマさんは時の非連続性の間に落ちてしまいましたね」
「時の非連続性?」
「そうです。時は時間として今日から明日へ連続している様に感じますが。実はそうではない、という体験をなさったのです。頭だけで理解しようとしても分からない事です。そして、今のあなたの能力では、時の間に堕ちてしまうと抜け出すことが出来ないと、非常に危険な状態になるという事です」
「導師様に救って頂きました。本当にありがとうございました」
「それについては地道に練習するしかないという事です」
「わかりました。よろしくご指導ねがいます」
「ところで、今日のご来訪の理由はその事ではないはずですが」
「恐れ入ります。実は中隊長さんから学生達の学力の底上げを図るよう依頼をうけました。しかし、あのような体験をした後では単なる学力向上のようなことを画一的に行ってよいものかと思いまして、相談に上がりました。」
「何事も相談することが肝要です。賢明な判断です。」
「ありがとうございます。それで導師様、導師様はどうお考えですか」
「そうですね。何も心配はいらないと思います。クレマさん達が感じたこと思ったこと願う事を行うのがいちばんよいとおもいます。」
「思い通りにせよと」
「亨ります。」
「しかし」
「クレマさん達の構想力、実現力、徳性、76年組は極めて特異な存在となるでしょう」
「特異な存在とは?」
「それはこの帝国の建国の秘密にもかかわる事なので、何とも言えません。」
「良く判らないのですが」
「当事者、渦中の人には見えないものです。そう、毎年魔術師は何人か誕生していました。帝国大学院の中に魔法科があるのをご存じですか」
「いえ、初めて聞きました。」
「そうでしょう。名前はあるのですが魔法研究者が一人もおりません。」
「でも今、毎年何人かたんじょうしていると」
「魔術師がね」
「魔術と魔法は違うのですか」
「よく似ていますが、確実に違います」
「どのように違うのでしょうか」
「それが分からないのです。古代魔法の秘密がそこにあると思っています。五業の木火土金水に干渉するのが魔術です。これの使い手を魔術士と称しています。毎年何人かは魔術の才能を開かせています。例えばジョンソンさんやジョーさんのようにです。」
「私やオルレアは魔術士ではないと」
「そうです。魔術士ではないと思います。」




