27 月の終わり、月の始まり
春の朧な夕日が沈み、残光も星明りに取って代わる頃
「切りのいいところで吐き切って終了してください」
と導師の聲が響いた。
「暫く、休憩にします。意外と寒いかもしれません。ひざ掛けやストールを忘れた方は取りに行っても構いません」
見所の高座から声を掛けた導師はそのまま座り続けた。
場が落ち着いたの見計らって再び暗闇の中に声が響く。
「今日まで数息の法、燭火凝視の法、聖文字瞑想法、記憶整理法などを行ってきました。これらはあくまでヤ・ハーラ=制御法であり真の瞑想サン・ヤーマへの準備でしかありません。サン・ヤーマを言葉で教えることはできません。ただ実践するのみです。しかし、ヤ・ハーラの後半、瞑想の入り口には皆さんをお連れすることが出来るかもしれません。ここに大蝋燭を灯します。約一時間ほど持ちます。蝋燭が燃え尽きるまでは頑張って座ってください。灯が消えた後はご自分の判断で座を解いて自室にお戻りください。では、ゆったりと座り直してください。聖音を三回唱えてから始めます」
・・・・・
とっくに灯は燃え尽きていた。19時から始まった瞑想も21時を回ったあたりから自室へ引き上げる者が出始めた。22時を回る頃には大半の者が引き上げた。
クレマは酔っていた。今日が明日になる感覚と昨日から今日に変わるクロスオーバーな一瞬に漂っていた。漂流しそうになる意識を導師が引き戻して下さるのを感じて取り戻した。立ち上がり自室に引き上げることにした。肉体はまだ余力があったが酷い脳疲労を感じていた。「眠れるだろうか」と思いながら歩いていた。
オルレアは一番深い夜、丑三つ時を覗いていた。「今はここを通り抜けることはできないわ」そう悟ると自室に引き上げることにした。纏わり着くものを導師様が振り払ってくださるのに感謝しながらなんとか立ち上がり自室へと引き上げることが出来た。
アダンが忽然と刮目する。前方にクリスの後ろ姿を認める。クリスのハーフロングの髪がおぼろに光るのを見詰めた。洗って乾かしただけの髪は束ねられることもなく背中に流れかかかっていた。曙光をとらえた髪が一瞬光る。その輝きが収まるのを確認したかのように頷くと音もなく立ち上がり自室へと引き上げた。
クリスはもどかしさを感じていた。日が昇り瞑想からは戻ってきているのだが座を解くことなく今の体験を反芻していた。イメージとしては鮮明に記憶している。しかし、言葉には出来ない、そこにもどかしさを感じながら余韻に浸っていた。
「どうしました」
導師が声を掛けてきた。ゆっくりと瞼を開く。導師の笑顔に思わず自分も微笑む。
「導師さまの笑顔は剣の師匠を思い出させます」
「そうですか」
「いつも優しい光で包んでくださいました」
「この瞑想も師匠の光に包まれましたか」
「う~ン少し、いいえ、大分違います。包まれるというより、何かと何かがぶつかるというか衝突したので光が発したという感じでした」
「あなたの師匠は何か仰っていませんでしたか」
「私には何も。でも、ヴィリーにはマナとマソがマヌを生む。それが人の命の輝きだと仰っていたのが、何故か思い出されます」
「ヴィリーというの?」
「ヴィリーは私の妹弟子です。あっという間に追い抜かれましたけど」
「ヴィリーさんはなんと言われてましたか」
「ヴィリーは只、頷いていただけでした」
「それはそれは、機会があったらヴィリーさんにお会いしたいものです」
「はい。機会がありましたら是非紹介させてください」
「それは楽しみです。ところでクリスさん、そろそろ引き上げましょうか」
今日も暖かくなりそうな4月30日の朝だった。




