20 ナンジャモンジャの木の下で
雑木林の外縁が草原の海の岬の様に突き出た先端にその大木があった。何尋もある太い幹と高さで空を突き立てながら一本のナンジャモンジャが立っている。
風を緑の囁きに変えながら佇む大木の根元には人影が二つあった。
「オルレア、なんか二人いる見たいだど」
とクレマが足を止める。
「あの実は・・・」
「なに、クリス。あなたも訳アリ?」
「ハイ、そのお二人に相談したいことがありましてルイという者を呼び出しました。」
「そう、それで二人の男が所在なげに大木を挟んで突っ立っているのね。とても女を待っているようには見えないけど」
・・・・・・・
「それでオルレア、紹介して」
「クレマ、クリス。この人が美丈夫で有名ないけ好かないアダンさんです。」
「アダン、クレマとクリスね。」
「アダンと申します。才女と名高いクレマさんと最強の戦乙女クリスさんですね。どうぞお手柔らかに。」
「で、クリス。こちらの方は?」
「はい、第1小隊第1班長のルイさんです。」
「まだ、何も聞いていないんだけど」
「すいません。話しそびれてしまいまして」
「オルレアからアダンさんの用件は聞いているから、ルイさんの事情説明から始めましょうか。皆さんそれでいいでしょうか」
・・・・・・
「つまり、ルイは正式な騎士爵の訓練を受けたいと。武術はクリスが面倒を見るとして、礼儀作法・立ち居振る舞いはこのクレマ様の指導を仰ぎたいという事でよろしいのかしらクリス」
「はい」
「クリスがすべて教えればいいじゃないの?」
「私はその、がさつでして、マナーといったようなものは、ほとんど教えられておりませんので全く自信がありません」
「まあ、クリスは山の中で育ったようなものだからがさつよね」
「オルレア様もクレマ様も多くの貴族、騎士をご存じですし、何より私の礼法の師範はクレマ様ですから」
「クリスの剣はまあまあだけど、お茶もダンスも作法も仕込むのが大変だったわ」
「クレマ、それはあんまりな言い方です。しかも、殿方の前で」
「オルレア、あなたも似たようなものです」
「('Д')」
「クリス、ルイをどこまで仕込めばいいの」
「騎士爵として引けを取らないところまでは」
「つまり、キャーキャー言われて、二つ名を欲しいままにするような不埒なナイトにしろと」
「そうではなく、・・ルイあなたの思い描く騎士とはどのようなものですか」
「・・それは、その・・兎に角、王に認められる騎士になりたい。」
「ルイ、あなたの剣を見せてもらえるかしら」
「どうぞ」
とルイはベルトをはずすと剣帯ごとクレマに渡す。
「拝見します。これは武太刀ね。肉厚の片手剣。我流の手入れ、研ぎが粗いわ。クリス、どう見る?」
「掌の肉刺に偏りがあり剣の術も系統だっているというより得意技だけでやってきたようです」
「つまり、一本気または強情」
「その傾向が見受けられます」
「師匠か先達騎士は居ないのかしら」
「・・・・」
「騎士爵授与の時の形式上の烏帽子親はいますがほとんど見様見真似という事です」
「ルイ、本当?」
「はい、ただ、幼い時にフルプレートの旅の騎士に剣の握り方を教わった記憶があるだけです」
「(憧れの深甚?)判ったわ。剣や馬などの武術はクリスから教わって、あとは時間がある時、お茶とダンスを私が教えるという事でいいかしら」
「はい、かまいません」
「最も、ロマンスナイトになるには教養がいるからちょっと無理そうね。武はクリスから後は私が、酒と女はアダンからという事にしましょう。」
「俺がなんで?」
「しょうがないでしょ。私たちが教えるわけにはいかないですもの」