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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
 三年生編 帝国歴78年
196/204

 7 唐宋宋祖

  8月6日の聖曜日。ソシ大佐とクレマは礼装軍服(メスドレス)で夜の披露宴席に座っている。


「大佐、ブレませんね。」


「何がだ、」


「メスドレスです。女性用をお持ちでないんですか?」


「大尉がイブニングドレスで来ると思ってな。」


「もしかしてエスコートしてくださるんですか。私、総丈のドレスは久しぶりです。」


「薹の立った女が二人並んで座るのもなんだと思ったが、夜会用軍服(メスドレスなら、そう不自然ではないだろう。」


「そうですね。しかし、夜の結婚披露宴(レセプションで良かったです。」


「流石に熱いな。」


「ところで、随分急な結婚式でしたね。」


「急がなきゃならない理由があったんだろ。」


「もしかして、できちゃ・・」


「お前のせいだろ。」


「わたしですか?」


「大尉の所為(せい)で12区の建設ブームが起こった。」


「私の所為ですか。」


「唯一、空位の大侯爵家をどうするかで、いろいろあった所にこの建設ラッシュだ。行政担当領主が不在ではいろいろ不都合だろう。」


「私の所為って、法服貴族がいるじゃありませんか。」


「あいつらは官僚だ。優秀であっても立場が違う。」


「それで、クラール伯爵を持ってきたんですか。しかし、伯爵がいきなり大侯爵になって他の11侯爵家と肩を並べると言うのはちょっと無理でないですか?」


「ふん、貴様も少しは頭が回るようだが、物事には事情が有るものだ。」


「裏事情ですね。」


「本来なら、親の侯爵位を次いで、それからというのが順序だが、些か、まだお元気だ。」


「そうですね。王室の家宰として暫く経験と実力をつけてもう少し領地経営とか経済力とかを上げてからですね。」


「ふん、貴様お得意の王室台所情報か。」


「そこは内緒話はお茶の供。で、お願いします。」


「まあそれで、あれがこうしてそれがどうしたというので、一度消滅した小王国の元王家を復活再興させて入り婿にして当分は、新というか旧小王家の勢力と生家の侯爵家の後ろ盾で大侯爵家として帝国に影響力を持つというのが狙いだな。」


「それで、ロット・クラール・デ=ノムガン大侯爵ですか。随分、綱渡りの様な気がしますが、」


「まあな、火種があちこちに、だ。」


「それで833部隊ですね。」


「渡りに船でたすかった。」


「それについては後で・・(人が来ました)」


「それよりもイブニングを何故着てこんかった。二の腕を見せれないとか、まさか持っていないのか。」


「持っている訳ないじゃないですか。尉官の給料では自弁の制服装備を揃えるのが精一杯。酒保にメスドレスが残っていてよかった~。」


「ふん、・・・・」


「大佐、どうしたんですか?・・もぞもぞして、」


「カマーバンドを巻きなおしたい。」


・・・・・・・・・・


 翌日、早朝紅茶(アーリーモーニングティー)をバルコニー席でクレマは大佐に供する。


「早朝紅茶。本来はベッドで頂きたいものですが、縁がないのでバルコニーで朝日を見ながらどうぞ。」


「たがいにな。」


「うん‥美味しい。それで・・昨晩はありがとうございました。」


「私は何もしていないぞ。」


「そうですね。手を取っても下さいませんでした。」


「嫌味を言う為にここに呼び出したのか?」


「いえ、ソシ大佐の新部隊の創設計画の説明の為です。」


「833部隊か、また貴様のネーミングだろ。」


「まあ、そうですが、これは洒落も捻りも落ちもない必然的にそうなってしまったという曰くつきの名前です。」


「名前などどうでもいい。どういう計画だ。」


「ソシ大佐のリボン独立大隊が駐屯するリボン砦は帝都のはるか南。順調に飛ばして3日の距離。」


「早馬なら1日だ。」


「つぶれるのを覚悟でですが、些かと言うよりかなり遠いです。」


「オディ川の向こうの貴族領に比べればかなり近いぞ。」


「大河オディ川の向こうに領地を持つ貴族は、領地には城館、帝都にはお屋敷をお持ちです。しかも公式に上中下屋敷をお持ちの大貴族もいらっしゃいます。」


「嫌味を言われているような気がするが、」


「気のせいではありません。事実の確認です。」


「高級軍人にとって軍務省や軍令部の動きはもちろん王室や尚書会議の行方も気になるはず、」


「儂は気にしとらんぞ。」


「大佐、一人称が儂になってます。動揺ですか。」


「いや、単なる癖だ。それでどうした。」


「領地貴族なら公式にも非公式にも活動拠点になる屋敷を持てるのに、例え貴族といわれても、将校はあくまでも、しがない宮仕えの軍官僚。法服貴族官僚と同じ貴族並みでしかない悲しい運命。」


「要点を言え。要点を、」


「しかし、欲しいものは欲しい。それで御用意しました。見て下さいこの地図。こちらは帝都全体と周辺の地図です。そしてこちらは12区と1区の詳細地図です。」


「ふん、言われんでもわかる。私は元地理院だぞ。」


「そうでした。では北街道に面した24番街の事はよくご存じでしょう。」


「貴様は知っているのか?」


「いえ、しかし1区1番街及び24番街建築基準特別規則を見れば何らかの意図がある事は容易に想像されます。」


「余計な事は言うなよ。それで、」


「それでです。ここ、12区23番街が意味を持ってきます。」


「ふん。」


「お気に召しませんか?」


「続けろ、」


「特別な規制の掛かった24番街の建築物の自由度の無さを、通り一つ挟んだ23番街が、補填代替することになるという事です。」


「それで、23番通りに面した23番街9番地は勢い24番街の下請け中小店や従業員用の飲食店、外事務所になります。」


「これからの事だな。」


「開発が始まり、人口が増え、経済活動が活発になればの話です。」


「せいぜい10年後だな。」


「そうですね。そこで8番地の価値が上がります。」


「どう上がる、」


「24番街のすぐ裏手の9番地ほど専門的でなく、ちょっと一息つけるような、でも住宅街の様な空気を感じないそんな町、」


「8番地。」


「そう、しかも五条筋と言えば街区の中央。そんな五条8番地に『喫茶白い椿亭』がございます。」


「まあ、ちょっと一息入れるにはいい場所だが、」


「白い椿亭は8番地3の1です。」


「それがどうした?」


「3の1があるという事は3の2があり、3の3があります。」


「貴様に無理やり買わされた土地だろ。」


「お買い上げ有難うございます。」


「それで8の3の3で商売でも始めろと言うのか。」


「流石、大佐お目が高い。」


「おだててもなにも出んぞ。それに軍人に商売が出来るのか、」


「して頂きます。」


「何にを、何のために、どうやって。」


「運送業の倉庫と馬車屋と簡易旅館です。」


「何故だ。」


「白い椿亭は8の3の1つまり、831です。832は帝国学院が運営します。」


「つまり表は貴様の831部隊が、中はオーバル城がそして裏手をリボン砦の出先機関が抑えろと言うのか。」


「私ではなく、陛下の831です。そして大佐は陛下派ですよね。」


「解った。833部隊を創設して運送業をしながら特務をこなすのだな。」


「はい。いずれは、人を運ぶ辻馬車もお願いします。」


「人の出入りが適当にあって、町の中を走り回るからどこにいてもおかしくない。辻馬車と人も乗せる駅馬車を兼ねた運送業。人が動けば物も金も動く。」


「そして人と金と物と一緒に情報も動きます。」


「兵の退役後を考えて開拓兵団をやらせ、退役したら農民になり村を作るように計画を立てているが、町に住みたい奴もいるかもしれんし、一度は帝国の真ん中に出たい奴もいるかもしれんな。」


「今なら地方から人が街にやってきていますから、古い街区に割り込んで拠点を作るよりは自然ですし、しかもイチから建設するのでいろいろできます。」


「ほう、この茶店も仕掛けがあるのか、」


「古い貴族の館でしたので大幅に改修出来ました。学院生の最新の建築技術をつぎ込んでみました。なんでしたらご相談に応じますが、」


「何を企んでいる?」


「833部隊には是非、鳶色からも何名か採用してください。」


「理由は、」


「白い椿亭の特別メニューにアイスクリンをと考えております。」


「ふん。大尉、お主もわるよの~、」


「大佐殿にはおよびません。」


・・・・・・・・・


 ニャリと白い歯を光らせて、二人はティーカップを置く。


「ここまでは、ある程度大佐の想定内のこと・・」


「儂も歳をとっての~、」


「ボケた頭も吹っ飛ぶ様なお話を致します。」


「貴様も軍に入る決心をしたというなら・・」


「そんなどうでもいい話ではありません。大佐は皇太子のお顔はご存じですか?」


「遠目にお姿を拝見する機会はあったし、肖像画(プロマイドは見たことあるぞ。」


「では動向はご存じで?」


「もちろんだ。皇太子は軍に入隊して既定の路線プログラムを順調に進んでおられる。今は近衛第1師団第1大隊第1中隊第1小隊で少尉研修中だ。来年には軍大学に進む予定だが、何か変更があるのか。」


「婚約者が決まります。」


「意外に早いというか、早くもないか。で、どこの誰だ。」


「秘密です。」


「おい!」


「今、最終調整中です。今年中には発表があります。」


「いけ好かん野郎だ。儂が漏らすとでも言うのか、」


「第二皇子についてはご存じですか?」


「無視か・・まぁいい。第二王子は確か士官学校の3年生のはずだ。卒業と同時に前線を持つ部隊に配属だ。取り敢えず親戚筋の安全な部隊で少尉研修だな。いずれは前線帰りの二つ名が付く。これも規定路線だ。」


「流石、大佐よくご存じで、」


「では、第四王子については、」


「第三王子は幼少時に逝去されたはず、第四王子の話は聞かないが、」


「第四王子は内王子です。」


「姫様か、道理で噂一つ聞かない。」


「私達はルナ様とお呼びしております。」


「貴様は名前まで知っているのか。」


「もちろん真名ではございません。以後ルナ様とお呼びください。」


「・・・分った。ルナ様だな。・・・でそのルナ様が貴様とどう係る。」


「ルナ様は御年13歳、今までオーバル城をお出になったことがございません。」


「そうだろう。深窓の令嬢というやつだ。貴族にはよくある。」


「はい。しかし、ルナ様は大変利発で外の世界に強い興味をお持ちです。」


「じゃじゃ馬か、貴様の影響ではあるまいな。」


「まさか、私はこう見えて大変忙しいのです。あれとかこれとか何とかで、」


「そんな忙しい貴様がどうして姫様に係る。」


「物事には事情というものがございます。」


「裏事情だろ。貴様お得意の。」


「裏事情には裏取引が付き物。」


「厄介事か。」


「そうなんです大佐。実は、ルナ様が白い椿亭から12区の貴族学院にご入学する、一大計画を(プロジェクト申し付かってしまいました。・・・どうかお力をお貸しください。」


「はあ?そんなものは王宮内の中務省と内所の執事達の仕事だろう。何故に一学院生が担当する。ましてや儂は軍人だぞ。軍人だとしても近衛か、そう親衛隊の仕事だろう。」


「これは皇后様直々の密命なのです。」


「帝王陛下は?」


「事後承諾で何とでもなります。」


「おいおい、・・で決定事項か?」


「はい。すでに計画(プロジェクトは動きだしております。」


「話を聞かされた以上抜けれんのだな。」


「お悔やみ申し上げます。」


「しかし、何故12区の貴族学院なのだ。有力貴族の例えば1区や東宮から皇太子達が通う4区の貴族学院でいいだろうに、」


「それは、ルナ様のたっての希望と言うこともありますが、親として子を思う母親としての、そして帝国の皇后陛下としての深謀遠慮の結果とお考え下さい。」


「王家の血筋の秘密か、」


「大佐もご存じで・・」


「皆まで言うな、分った。・・深い事情は聞くまい。それで、当面はどうする。」


「はい。白い椿亭での生活面は選び抜かれた王室メイドが面倒を見ます。そして831部隊が周辺を固めます。時々、学院生が週末宿を利用するという態でオーバル城とは連絡を密にします。それで、大佐の833部隊には12区貴族学院と白い椿亭の通学路をはじめとする外回りの警護・警備をお願いしたいと思います。」


「親衛隊や貴族学院の方はどうなる。」


「親衛隊には陛下から釘を刺してもらいます。学院の方にはクラーク様からうちの親戚だから、ぐらいの耳打ちをしてもらう予定です。」


「貴様はノムガン卿をクラーク呼ばわりすのか。」


「失礼しました。以後、気を付けます。幸い半年以上時間があります。準備を推し進めましょう。」


「半年しか時間が無いのだ。手持の駒で対処するしかないだろう。」


「そうですね。ところでプロジェクトの名前はどうしましょう。私としては『深窓の令嬢は庶民の娘の恋を夢見る』で、」


「長い、軽薄、悪趣味、・・・ルナ計画でいいだろう。」


「それではあからさますぎます。せめて、白い椿の・・」


「お前の趣味は分からん。ルナがだめなら、セレネ計画だ。お前の意見は受け付けん。」


・・・・・・・・・・


 「急ぎ帰って、833部隊の人選と特務訓練をはじめる。」


そう言い残したソシ大佐を見送った後、クレマは独りオーナー代理室にこもり長い手紙を書き始める。


「これで、オルレアには経緯と事情が伝わるはず。クリスはとも角ルイには直接的な表現で無いと伝わらないわね。」


「・・・なので、私は帝都を離れる事は出来ないのでオルレアの事よろしくお願します。」と、人に見られてもこれなら大丈夫かな。でも、結びの言葉はどうしよ、


『雨がやまないので、独り雨宿りをしています。』 かな~、

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