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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
 三年生編 帝国歴78年
192/204

 3 これを安んず

 貸し布団屋の馬車が日に当てられた寝具を回収していくと、迎えの馬車が来た。


「バンタル、ジョニー。後は任せたわ。」


「ああ、内装に入れそうになったら学院に連絡を入れる。」


「分かったわ。それまでに準備するようにいっておくから。さあ、帰りましょ。」


クレマ達15名は2台の馬車に分乗して学院に帰る。クレマとユニが横並びに座った。


「10名の女子が手助に残ってくれたわね。」とユニ。


「生徒会も入り代わり立ち替わりで頑張ってくれたわ。」とクレマ。


「1、2年生も春休みを返上して手伝ってくれて、彼等の良い刺激に為れたかしら。」


「そうね。2年生には自分たちの研究の参考モデルには為れたでしょ。」


「ちょっとレベルが高いというか特殊な事例じゃないかしら。」


「講演会のはね。でも、提出論文に当たればそれほど高度なものではないでしょ。」


「講演会のは、寄ってたかって仕上げたから、原文に近いのは『ダンゴムシ』ぐらいか。」


「ギルドのオプションはダンゴムシだと思ってたけど、はずれたわ。」


「あ~、最低価格で落札された論文に50万を援助するというやつね。」


「古代語研究は50万の最低価格よ。よく集めたと思うけど。テヒの土の研究も似たようなもので国際会議場の大ホールは抑えられなかったのよ。」


「それもよしとしましょ。ヒギンズ教授が招待状を出したその道の碩学や一流研究者らに声を掛けてもらったから、席は埋まったんでしょ。」


「まあ、9割方は、一般市民に興味がある内容じゃないけど学術系の雑誌や新聞の評価も高かったから良しとすべきね。」


「裏の研究会が濃密だったけど、公表できないのが残念ね。」


「学園もオーバル城も国家百年の計として、手厚い援助はもらえたのだけど、表の収支はギリ赤字ね。」


「それもよしとしましょ。如何に講演会を開くのが大変か1、2年生には良い教訓よ。」


「意外だったのはダンゴムシ。」


「そうダンゴムシ。最高落札価格。小銭が多かったけど募金活動でほとんど集めたのよね。」


「まあね。いろいろ仕掛けた事は確かだけど。」


「グレースに頼んで、奥様からご主人にダンゴムシ聞きに行ってねって、予定をねじ込んだのよね。」


「イーファンおじ様からも中務省の方へ働きかけて、劇場の貴賓席を押さえて、近衛師団と親衛隊が警護と警備でもめて、ダフ屋は出るは賭け屋は出るは香具師は出るはで大変だったわね。」


「お役所から大目玉を食らったのは私だから。」


「各所に頭を下げるのが会長の仕事です。」


「もう、お祭り騒ぎの割にはこちらの実入りはなかったわね。」


「しょうがないじゃない。赤字じゃなかっただけましよ。」


「人死にも出なかった。」


「けが人は多少。」


「そりゃ一喝されるわ、」


「それでも地味な自然博物系の研究に光が当たった事は良しとしましょ。」


「後は後始末ね。始末書と領収書の山ね。表のモノだけでいいのが救いか。」


二人は溜息吐くと、帝丘の上に浮かぶ浮浪雲を見つめた。


・・・・・・・

 馬車の最後尾のボックス席に3年生生徒会の二人とカナリーが座った。


「カナリーさん。すごくよっかたです。語学の比較研究講演なのになんかこう頭が冷静に喜ぶだけでなく、胸まで熱くなってそれかから最後は下腹部が花咲くみたいにこう・・」


「無限に広がるというか、無限になる。」


「そう、ルイ―ス。無限の空間ってこんなって感じかなって。」


「ありがとう。えーっと・・」


「プーラン。会長の秘書をやってます。」


「ユニ会長の秘書役ですか。それは大変そうね。」


「もう慣れました。いつもプーって呼ばれています。ところで、カナリーさんはもしかして女神ですか?」


「カナリーでいいわよ。私もプーランと呼ばせて。プーランは晦行には参加したことがあるのかしら、」


「ええ、生徒会に入る前に誘われて、そう言えば3月の晦行は参加者が少なかったですね。」


「そうね。3年になってそれぞれの道を歩き始めたから、一同に会するのは難しくなったけど、たぶんそれぞれが一人でも行じているはずよ。」


「そうなんですね。」


「それで女神の事だけど、晦日行の時、外側に座って内側を向いている五人がいるのは分かるわね。」


「ええ、黎明の5人の女神と呼ばれているって聞いてます。でも、アダンは男ですよね。もう一人女神がいるのかなって、」


「生徒会で晦行の事とかをよく話すの?」


「いいえ、ほとんど・・。聞いたらそれなりにきちんと教えてはくれるけど、仕事が忙しくてあまり話題にのぼらないかな。」


「そう、そうね。行に参加して自得するものだから、他人に教えるという類のもでもないわね。」


「そうなんですか、」


「それで、私は女神ではないです。内陣に座る普通の女子学院生です。」


「普通というのはチョット無理かな・・」


「それじゃ、秘密を一つ教えるわ、」


「「!」」


「そう・・クレマ。クレマは毎日朝の4時には行に入ってるわ。」


「毎日ですか?」


「そうよルイーズ。一緒にいて気づかなかった?」


「そう言えば、いつも一番に起きてる感じだけど、4時起きか~、1年の中隊訓練以来やってないな~、」


「私も。第3中隊の人ってみんなやってるんですか?」


「それはどうかな?今はそれぞれだけど、女神たちは確実にやっているわね。」


「あの人はどうですか?、晦日行の時に鈴を鳴らす背の君。」


「背の君?」


「大柄だけどあまり威圧感の無い、パッとしない感じの・・」


「ルイの事?」


「シッ!その名前は!」


「何を声まで潜めて、」


「だってユニが触れちゃいけないって、」


「生徒会ではそうなっているの?まあ、ここからじゃ聞こえないだろうから大丈夫よ。」


「でも、背の君は今は部隊運営訓練で遠くへ行っていて、それも卒業式の翌日に早々と出発して夏休み一杯帰ってこないって、」


「3、4、5、6、7、8・・半年よ、」


「そうなるかしら、」


「学院の絶対触れてはいけない三大禁忌よ、カナリー。」


「後の二つは?」


「それはヒトによって違ってて、というよりそれはいいんです。背の君とはどうなんです?」


「三大禁忌じゃないの、」


「ここまで言って、話を振ったのはカナリーでしょ。」


「私?」


「そうですよ。責任取ってください!」


「う~んどうしようかな~、」


「じらさないで!」


「そうね。取って置きの話をするとルイとクレマは1年の時から周りが暗黙の公認の仲なんだけど、初めて遠く離れ離れになったのよ。」


「憧れの遠距離恋愛というやつですか、」


「そうなるわね。たのしい?くるしい?切ないかな、その遠距離の最中にルイはテヒと会っているのよ。」


「え~!テヒって、3週目の『土の研究』の発表した・・」


「ボリューミーでフェロモンが漂っていて落ち着いていて際どい微笑で上品な・・」


「テヒも随分な言われようね。当たっているけど。」


「二股ですか・・修羅場ですか!」


「いつ会ったんですか。現場を押さえたんですか、」


「発表が終わった後、すぐにルイの後を追いかけたから3月の終わりに2,3日は一緒に過ごした計算ね。」


「「え~!」」


「そこ煩い!静かに!」


「クレマ、ウソは言ってないから」


・・・・・・


「クレマ。いいのあんなこと言われて、」


「確かにウソは言ってないわ。テヒはヒギンズ教授とルイのお茶の宗匠の処に挨拶に行ったのよ。」


「そこで、ルイと三日間過ごしたのね。」


「もう、ユニまで。そうよ、ヒギンズ教授に付き合って。その後リボン砦で軍専の部隊運営訓練に入って、小隊長さんごっこをやっているわ。」


「小隊長さんごっこって、訓練でしょ。」


「あそこは剣術馬鹿、格闘馬鹿がウジャウジャいる部隊ヨ。毎日喜んで訓練しているわ。」


「学院の新入生新兵訓練に応募しなかったのはそういう訳ね。」


「そうよ。素人相手に指導するより、今頃は軍大から帰ったマリー中尉と組んずほぐれずやっているはず、」


「ちょっとその表現は、はしたない以前の問題よ。」


「まあ、楽しくやっているのが分かっているから良いんだけど。」


「そうね、みんなそれぞれの道を歩み始めたわね。」


「イシュトも部隊運営訓練よね。」


「衛生兵訓練部隊の指導実績を持って、軍医奨学金をもらうんだって。」


「最初から軍医大学に入った訳じゃ無いから苦労するわね。」


「本人はそうは思っていないみたい。軍医大の教育は金創系が大半でイシュトの思いとはちょっとずれるみたい。」


「それで一般の医術専門大学に行くのね。」


「何年か軍で働いて義務を果たしたら、自分のやりたいことをやると言ってた。」


「遠回りしてるみたいに見えるけど、」


「本人は内と外、それなりに見れるように成れると前向きに喜んでいたわ。」


「それは良かった。グレースはあれだけど、ルネは?」


「猛勉強中ね。司法は膨大な研究が必要で、天下の秀才がうじゃうじゃいるからそれはそれで大変そう。」


「ルネほどの秀才でも大変なのね。学院が静なこの半年は自分の勉強に頑張ってもらいましょ。」


「良く手伝ってくれたわ感謝ね。」


「アダンは相変わらず、悠々自適だけど、ユニあなたはどうなの?」


「私はこの一ヶ月内務省の各局に頭を下げどうしで、内務省内に顔が売れて良かったと思っている。」


「頭下げっぱなしで顔は覚えられたの、」


「ハハハ、確かに。でも、頭の下げ方が様になっていて、学生とは思えないって言ってもらえたわ。」


「入省して一年間分くらいの経験は積めたから、来年はすぐさま仕事をさせられそうね。」


「准尉徽章もあるから新人でも上の職務に行かされる可能性が出て来た?。」


「主任を飛び越えてすぐさま係長はないはね。主任兼係長補佐はあるか~、」


「今のうちに下積みを経験した方がいいわよ。」


「十分に積んだわよ。クレマの下でね。でも、学園運営部に手伝いに行って実務経験ていう手もあるわね。」


「そうね。生徒会運営を口実に運営実務を研修させてもらうなんて・・・策士ね。」


「クレマに比べたら可愛いものよ。それよりあなたはどうするのよ、」


「私?、う~ん、ちょっと忙しすぎて考えられないわね。取り敢えずは帝都事務所の経営を軌道に乗せる事に専念するわ。」


「週末宿が出来るのは有難いけど、喫茶部?サロン?はどうするの、早めに言ってくれないと手伝えなくなるかも、」


「まあ、生徒会役員と言うより学院に残っている3年生全員に声を掛けるから開店までちょっと迷惑をかけるかもしれないけど、何とかなると思う。」


・・・・・・・


 彼女達が学院の3年生生徒会室に到着したのは、遅めの中食を取った後のお茶にはちょっと早いかなと言う時間で、


「久しぶりの我が家って感じがしないな、というより、2年生生徒会室から引っ越したまんまで片付けも済んでない。」


「このひと月毎週末の三日間は帝都に下りていたせいだから、」


「残っている者で片付けから始めましょ。」


「取り敢えず、お茶が飲めるぐらいにはね。」


・・・・・・


 何とか片付けた生徒会会長室の執務机を挟んでユニとクレマがお茶を啜る。


「今日中には目処が付きそうね。」とユニ。


「あなたはもう片付けは手伝わなくていいから、」とクレマ。


「どうして、会長が率先して動かなきゃ士気がさがるわ。」


「大丈夫よ。仕事はいっぱいあるから。」


「そりゃ、処理しなきゃいけない書類、案件は山積みだけど、それは追々でいいでしょ。」


「至急片付けなきゃいけないことがあるでしょ。」


「そんな緊急性のある事案なんてあったかしら、」


「プーラン、ちょっと来て。」


「なんですか、大声で、」


「ほら頼んでおいたアレ、」


「アレ?、あ~アレね。ちょっと待って、一応出来ています。今持ってきます。」


「なに、二人してアレ、アレって、」


「おまたせ。クレマ、リストアップ漏れがないか見てもらえますか、」


「分かったけど、どれから、」


「先ず、こちらが王室関係。それから、中務省と内務省の課長級以上の名簿。」


「こんなに!」


「いろいろ拝み倒しましたからね。それから、学院・学園の教授、助教授、事務関係の方々。」


「漏れがあると、後が大変ね。少しでも関係ありそうな人には追加で出して、」


「もらって悪い気はしませんものね。分かりました範囲を拡げます。それから、帝都の各お役所、こちらは担当局長級でいいですよね。」


「まあ、大丈夫だろうけど、帝都の他の方は?」


「町内会長と町の有力者のリストです。商会・ギルド関係はこちらです。夜の接待関係のお店はどうします?」


「学院生がお店のママに礼状を出すのは・・・出しましょ。減るもんじゃ無し。」


「そうですね。今後お世話になる事もあるかもしれませんし。後、いろいろ差し入れを頂いた方々と盛りの良かった食事処もあります。」


「きっちり仕事してるわね。それじゃプーラン秘書さんユニ会長にお礼状を書かせてね。なる早で、」


「会長寝たふりしてないでお仕事ですよ~。」


「ぷ―――!、」


・・・・・・・・


 生徒会長室を抜け出しクレマはルイとよく歩いた小径を一人散歩する。菜の花の黄色と青い空を一望しながら、


「ルイと同室のイシュトも部隊訓練で帰って来るのは秋学期ね。6ヶ月も窓を閉めっきりじゃよくないわ。私が風を入れなきゃ。」


少しうれしそうに微笑んで一つ雲を見上げた。

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