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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
 三年生編 帝国歴78年
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 1 悉皆存梵

 帝国歴78年4月1日は春分。太陽は春に分かれを告げたが、大地は仲春である。

 第3学年の開講式に出席したカナリーはクレマ達に誘われ、始めて3年生生徒会室に足を踏み入れた。いくつかの部署に分かれて20人程の3年生が働いている。生徒会会長室にカナリーは通された。


「いらっしゃいカナリー、」とユニが迎えてくれる。


「あ、ユニ。生徒会長就任おめでとうございます。」とカナリー、


「望んでいたことは確かだけど、押し付けられた感じもないではないかな」


「えっ、そうなの?」


「だってクレマとアダンは、はなっから嫌がっていたし、イシュクは医術志望で学院を卒業したら医術専門大学に編入すると明確な目標を持っていたわ。」


「そうね。」


「ルネは法務行政と言うよりは裁判司法の方に興味があるみたいで、中務省司法局志望を宣言したわ。」


「グレースも中務省よね、」


「そう、王室王家貴族関係は中務省の管轄だから奥様の引きが強くて、今から王室に入り浸ってる。」


「聖曜日は一緒になる事が多くて事情は知っているわ。」


「そうだったわね。と、いう訳で消去法で私の処にお鉢が回ってきた訳。」


「それは、適任者の所へ最適の仕事が回されたという事ね。おめでとう。」


「ありがとう。ところで、準備は大丈夫?」


その時、ノックもなく生徒会長室の扉が開き、クレマがお茶を運んできた。


「あら、ユニったら立ちっぱなしで、先生に失礼でしょ。」


「いやだ、クレマったら。先生呼ばわりなんかしないでよ、同じ学院生でしょ。」


「でも、今週聖曜日の講演会のメイン演者だし、王室王家の語学の教師でしょ。先生と呼ばずにどう呼ぶのよ。」


「語学の教師と言っても真似事よ。新人メイドに手解きをしている程度で教師でも先生でもないわ。それより、講演会、ドキドキして心配なのよ、どうしよう、」


「原稿は完璧に頭に入ってるでしょ。」


「そうだけど、オルレアみたいにできないわ。」


「それはそうよ。当然よ。オルレアみたいに図々しいならともかく、淑やかで奥ゆかしいカナリーにあんな奇をてらった講演は無理りよ、あんなのを求めていないわ。やっぱりカナリーらしいのを聞きたいわね。」


「そんな、私はただぼんやりした世間知らずよ。」


「窓をぼんやり見ていることが多い深窓の令嬢なのは知っているけど、学院に入ってそれなりに変わったでしょ。」


「でも、あんな大きな舞台で多くの人を前にお話しできる自信はないわ。」


「何を言っているの、アンシュアーサ導師の教えを思い出して、きちんと自分の中にある不安の元を取り除けば出来るわよ。20人の生徒の前では堂々とお話が出来ているんでしょ。それなら20人も2000人も同じよ。」


「でも、やっぱり・・」


「クレマ、あんまり強引に説得しても固くなるだけよ。その為にオルレアの時間を取ったのでしょ、」


「オルレアの時間?」


「そうそう、カナリーが心配性で講演に不安を抱えているという事でオルレアの時間を押さえたわ。今日からテヒハウスに泊まり込みで朝夕にオルレアの善導を受けてね。」


「泊まり込み?」


「移動の時間がもったいない、というのは表の理由で、オルレアが教会の仕事をさぼりたいだけなのよ。」


「どういう事?」


「神司の研修に信徒の指導、善導というのがあってその時間をカナリーで済まそうという魂胆よ。しょうがないと思って付き合って、」


「オルレアがそれでいいなら・・私はいいけど。」


「それじゃ、着替えとか持ってきて、夕食一緒に食べましょ。食研が何か試作品を持ってきてくれると思うから、テヒハウスでね。テヒもクリスもいないのでオルレアが寂しがっているのよ。」


「そうですね。二人ともフィールドワークに出ているんでしたね。」


「そういう事で、18時までに帰るから、早く行けそうなら誰か必ずいるから先に入って待ってて。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


 テヒハウスのダイニングにはカナリーとクレマとオルレアがお茶を啜っていた。


「みんな帰っちゃうと・・取り残された感じがするわね。」と、カナリーがつぶやく。


「慣れれば大丈夫よ。寝起きはオルレアの部屋にベットを入れたから、」とクレマが答える。


「なに、ほんの五日の辛抱じゃ。いびきとか歯ぎしりとかはないじゃろな。」


「そ・・それは無いと思うわ。一度も指摘されたことないし・・」


「うむ。歯ぎしりは特に心労(ストレス)の表れじゃからな、誰か噛み殺したい奴がいるか歯噛みするほど悔しい思いを隠しとると夜中に・・フフフ、でるのじゃ~」


「もうやめなさい!オルレア。脅かしてどうするの、余計不安になるじゃない。大丈夫?カナリー、」


「大丈夫よ。この2年でオルレアには慣れたから、」


「そう、あッ清拭用のお湯は取ってあるけど、湯舟を使いたいならヒュパハウスに一緒に行くけど、」


「今日は大丈夫。手足を洗うお湯をもらえれば、」


「そう、それじゃ私が竈の火を落としておくから、二人はもう休んでいいわよ。」


「そうか、ならばあとは任せたぞ。明日は四時から行に入る。カナリーは早く休めよ。わらわはもう寝る。」


「オルレア、後片付けはいいけど、ちゃんと歯磨きしてから寝なさい。パジャマに着替えるのよ。」


「いつまでたってもクレマは煩いの~、まるで小姑じゃ。」


「オルレア~」


・・・・・・


夕食の片づけをしながら、カナリーがクレマに聞く、


「いつもこんなに楽しいの?」


「たのしい?。あ~、クリスが居ればクリスがいろいろ世話を焼くのよ。甘やかされ過ぎなの。」


「でも、とても立派な威厳というか神々しいというか素敵な講演だったから。あの姿との落差が大きくて、笑っちゃうわ。」


「あれね。確かに大一番では強いタイプだし肝が座っていると言っていいけど、そんなこと本人に言おうものなら鼻高々、増長慢の見本みたいになるから気を付けてね。」


「でも、すごかった。特にあのいろいろなドレスを着た人達がカッコよく登場して歩いて見せてくれる発表には目を奪われたわ。」


「そりゃ、一流の高級服飾店(オートクチュール)が仕立てたドレスを着て、マヌカンの特訓を受けた学院生が色とりどりの衣装で花道や仮花道(ランウェイ)を歩けば目を奪われない者はいないわ、特に女子はね。」


「お伽噺に出てくる王女様ってこんな感じなのかって、それに舞台の締めくりくりに登場した戦乙女の甲冑姿。紅の流れ旗をなびかせて夕日の中に立つ姿に知らず知らずのうちに涙が流れたわ。」


「良かったでしょう。あれはクリスよ。」


「やっぱりね。雄々しくも麗しい戦乙女はクリスしかいないわね。」


「王家に伝わる王女が付けた甲冑を特別にお借りしての演出よ。」


「あんな舞台演劇の様な講演を見たら、私の発表なんてみすぼらしいきがして、」


「そんなことは無いわ。確かにオルレアは堂々としていたけれど一流の演出家に作家、舞台美術、高級服飾店のお針子さんや特訓に耐えた学院生のウオーキングのデモンストレーションに支えられた芸術舞台なの。オルレア以外の人達の努力と才覚の結晶なの。でも、あなたのは研究講演。知の高みへ帝国民を誘う講演よ。智慧への本能的欲求を刺激する全く別のものよ。比べてもしょうがないでしょ。」


「そんなすごい事をいわれても、」


「大丈夫。内容は教授たちが太鼓判を押したし、後は淡々と言葉としてこの世に生み出すのよ。」


「言葉にするだけだというの?」


「そうよ。その為に言霊の力をオルレアから教えてもらって、」


「出来るかしら、」


「大丈夫。あなたには力があるわ。後は自信を持って言の葉を紡いで、さあ、おやすみなさい。」


・・・・・・・・・・・・・・・・


 四月四日の夜。カナリーはオルレアと二人きりで夕食を取る。カナリーが炊いた粥と菜の質素な食事に、


「ごめんなさい。肉とか油料理が欲しくなくて、」


「この三日の行で体が清浄を求めているの、素直な反応よ、」


「なんだかオルレアって導師様に似て来たわね、」


「なんじゃと儂をあんな爺と一緒にするな。」


「そんなことって言って、鼻がひくひくよろこんでいるわよ。」


「変なこと言わないで・・・それより明日は自分の部屋に帰って休んでね。」


「あら、どうして?クレマ達生徒会はフィールドワークと称して今夜から帝都に下りて明日の準備をしているから、一人になるわよ。怖くないの。」


「こう見えて独りはなれているの。気にせず休んで、」


「あら、強がっちゃって。いつも、クリスかクレマが付いているじゃない。」


「それは仕方ない事でいなければいないでいいのよ。明日は自分の布団に包まって十分に癒して頂だい。行の疲れを取って。」


「そうなの?そしたら明日のあさは最後の行なのね、」


「それは違うわ。一応、明後日の講演がわたくしとの最後の行ですが、それも一区切りと言う意味です。行自体はずっと続いて行きます。」


「アンシュアーサ導師様の教えね。」


「有難く頂きましょ。」


・・・・・・


 食後のお茶を淹れなが、カナリーはオルレアに語り掛ける。


「オルレアの講演とても素敵でうっとりしちゃったけど、他の人の講演もとても良かったと思うの。オルレアの目から見て他の人の講演はどうだったの。」


「他の人達の講演を評価したり批評しるのはちょっと苦手なの、」


「そうね。でも感想とか裏話とか解説とかが欲しいわ。例えばアダン。学術的な講演だったけどオルレアと同じオーディトリアム劇場だったわ。」


「そうね。・・アダンの講演自体はオディ川の水運の現状報告と流域各国との貿易拡大の可能性についてだったけど、物流能力ロジスティックス)は各生産ギルドはもちろん各国の国力の要だし軍事としては継戦能力問題に直結することなの、」


「それで、制服はもちろん私服の軍人も多かったのね。」


「そう、各国の大使館員や商会の関係者が学生の研究発表に集まりながら、稽古場などで偶然立ち話したり、バルコニーの個室を尋ね合ったり、オケピには警備が舞台下(トラップ)には警護が人目を避けて詰めていたわ。」


「随分張り詰めた感じはその為でしたのね。」


「わたくしの講演は保守派や旧王国派、突き詰めればタジアン会頭の為の国内向けの舞台(ショー)だったけど、アダンのは貿易つまり国内外に向けて影響(プレゼン)を高める目的があったといえるわね。」


「表向きにはバルーム商会が音頭を取っての商会カルテルの示威行動に見えましたけど。」


「それも表向きは正解。看板(ルール)を掲げて商売を積極的に行いましょうという事ね。」


「光ある所に影があるのは世の理(ことわり)という事ね。」


「そうすると、テヒの講演もいろいろあるという事かしら、」


「食は人の天なりと言うのはテヒの食研活動の礎だけど、テヒ個人としては食は人の(メイ)なりという思いがあるの。」


「・・で、土の研究・・」


「土は農の基。と、土壌の研究という表の理由ね。」


「これにも裏があるの?それは勿論土壌改良技術や土の性質はつまり地質・・地理は軍事機密ということ?、」


「それもどれも分かりやすい表の理由だわね。」


「裏ではないの?」


「一般の目をそこに向けさせておいて・・・実はヒギンズ教授が裏を取り仕切っていたの。」


「ヒギンズ教授って?」


「ひと言で云えば、jjjの指導教授。」


「jjj!!!分かったわ!。アンタッチャブルね。でも、テヒ自身はjjjじゃないわ。」


「実はテヒは黎明の女神なの。」


「もちろん知っているわ、」


「それもテヒは土の女神なの・・・これ以上は言えないけど。」


「でも、魔術は使えないって・・」


「魔術は魔術士の業。テヒは土の女神。土は粗雑の素、万物の本なの」


「万物の本?・・・農は万業の大本に戻るのね。」


「表のテーマは、人の命なる土で万業をおこし、国の基を盤石にするといった所ね。」


「裏はアンタッチャブルなjjjの研究…それを教授が取りまとめる。女神の庇護の下、」


「そういう事だから、ヒュパは大学院に残って研究を続けるし、アダンが外国の様子を調査する。」


「なんだか複雑な裏事情ね。・・・それでオルレアや他の女神は?」


「アンタッチャブルって言ったわ。」


「でも、オルレアは教会の神司に進んだわ。そのまま神になるの?」


「うふっふ、よしてよ。生き神様になるつもりも即身成仏するつもりもないわ。」


「でも、黎明の女神として光芒首座を務めているのは宗教者だからでしょ。」


「ウソは言えないから、ちゃんと答えるけどそれ以上の質問は止めてよ。いい?」


「う~ん、しょうがないか。いいわ約束しましょ。それで?」


「私は代理で座っているだけ。」


「え~!ちょっとズルい気がする。誰の代理か聞いちゃいけないわよね。」


「そうよ。聞かないで、さあ、そろそろ準備をして夜の行をおこないましょう。お腹もおちついたでしょ。」


・・・・・・・・


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