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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
 二年生編 帝国歴77年
187/204

 28 睦び月

 ・・・・・・・・・・・・・・・


ギギギッと、扉を肩で押し開けて鉢植えを抱えたアダンが、大きなトランク鞄を引き摺るように姿を現した。


「なん~だ。アダンか~」と、クレマ


「なんだとはなんだ。午後のお茶に間に合うように急いで帰って来たのに、」


とアダンは鉢植えをシマオに渡すと、大きなトランク鞄を引き入れ蓋を開けた。書類入れを一つ取り出しクレマに渡しながら


「取り敢えず、必要そうなものを詰め込んできた。これは見本として作成したうちが落札予定の「オディ川の水運」についての提案書だ。」


「ありがとう。アダンが帰って来てくれて、今日出来る仕事が増えたわね。調度お茶の時間だし、ひと息入れて夜まで頑張りましょ。」


お茶を飲みひと息ついたところで


「監査部のシマオ、エリオス、ルイーズ、アルバはクレマを中心にオーデション作戦を立案計画してもらうが、具体的に動き出したら2年生生徒会の総力を挙げて遂行する。それまでグレースや俺は随時協力するのでよろしく。」


そうアダンが挨拶すると女性軍士官志望のアルバが


「これは作戦、作戦計画の立案なのですか?」


「うむ。・・軍事行動ではないが・・どこまで話すクレマ?」


「もう、四人は私達の仲間よ。私が話すわ。・・これは王室の意向を受けた催し物・・というより計画ウウンやっぱり作戦の方がしっくりするわね。」


「学院ではなく王室とは、どういう事?」


「シマオ、エリオス、ルイーズ、アルバ。これはあなた達の同期の他の生徒会役員にも内緒にして欲しいのだけど、あなた達は監査部として生徒会のなかでも独立した存在なのよ。他の仲間たちには話せない守秘義務満載の案件を扱うことになるの・・覚悟はいいかしら。」


「・・・・拒否権は無さそうね。」


「ここまで来たら引き返せないわね。・・とはいってもオーデションを成功させるだけだけどね。」


「はあ~、何か命にかかわるような極秘任務かと思いました。」


「アルバ、あなたが軍で佐官になれば詳細を知る事が出来るかもしれないけど、それまでは裏の事情についてはアンタッチャブルでお願いね。」


「触らぬ神には祟りなしね。」


「祟りは無いと思うけど面倒な事にはなるのでよろしく。ついでに言っとくと、グレースは(るお方との連絡係り、私は監査部部長としてグレースから意向を受け取って作戦を実行する責任者、アダンは作戦参謀、ユニをはじめとして他の人は通常の生徒会業務をこなしながら作戦当日には実働部隊として動いてもらう予定。」


「作戦決行日までの準備は私達が行うという事ね。」


「そう、ほとんどが事務作業だけど作業の意味を知っておかないと頓珍漢な間違いを犯すかもしれないので監察部での意思疎通、共通認識の為の打ち合わせは怠りなく行っていくのでよろしくね。」


「秘密の話を知りながら素知らぬ顔で作業を進めるポーカーフェースの技能(スキル)が求められるという事ですか?」


「そういう事ですルイーズ。官僚には必須の能力(スキル)よ。」


「なんだか相当、鍛えられそうですね。そう言うことならそろそろ仕事に取りかかりましょうか!」


そうルイーズが立ち上がった時、またまた扉がギギギっと開いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「呼び鈴は何度か押したのですが、返事がないので勝手に入って来てしまいました。それで、ここは帝国学院生徒会事務所でよろしいですか。」


と、そのボーイは大きな花束を抱えながら扉を開けて立っていた。エリオスが迎える様に大きく扉を開きボーイを招き入れると、


「風が冷たいな、ご苦労さん。」


と言いながら受け取りにサインをして花束を受け取った。


「ところで、呼び鈴なんかがあったのかな?」とボーイに聞くと、


「はい、扉の横の壁にあります。」


「そうか、いろいろ手を入れなきゃなさそうだ。」


「それで、あの~」


「どうした?」


「花束の送り主が面会が出来るかどうかと聞いてこいと仰せつかって来たのですが・・、」


「花束の送り主?・・この名刺の御仁か、クレマ、」


とエリオスは花束の中から名刺を取り出し一瞥すると小さなカードをクレマに渡した。


「織機ギルド・会頭 アベユー・タジアン・・・?アダン、知っている?」


「ああ、滅多に人前には姿をあらわさないので有名な繊維織物界の大物だ。」


「その人見知りの会頭が、私達に会いたいと?ボーイさんお返事はあなたに手紙を渡せばいいのかしら、」


「はい、お嬢様。それでもいいのですが…、実は門の外の馬車でお待ちになっていらっしゃいます。」


「えッ!。・・・いいわ。さあ、みんな仕事に戻りましょう。」


「どうする、クレマ?」


「そうね、ボーイさん外の素敵な花束の送り主さんにそのままお待ちくださいって伝えてもらえるかな。はい、これは御駄賃(チップ)ね。分かっていると思うけど、余計な事は言わなくてもいいのよ。もし、時間が掛かったなと言われたら呼び鈴の所為にしてね。」


「はい。」


「いい返事です。それでは行って頂だい。」


ボーイが丁寧にお辞儀をして扉を閉めるとクレマは、


「もったいぶらずにどんどん問題を解決していきましょう。四人は事務仕事に戻って、アダンは二階で私に「オディ川の水運」の売り込み?を行ってもらうは、待合で待つ会頭の耳に入るような大きいな声でね。」


「また悪だくみを考え付いたのか。みんな、黄色い悪魔の、ストロベリー・クレマの悪だくみについてこいヨ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


 建付けの悪い階段の軋む音に導かれるように、老爺は二階に上がる。慌ててカンテラに火を入れた案内の若い男が「こちらでお待ちください。」と掌で椅子を指し示して下がって行った。壁際に置かれた古いがしっかりとした作りの椅子の座面の硬さが気に障ったが手袋を外して小卓サイドテーブルに置く。執務室の前室替わりの階段上がりから続く広い廊下部屋(オープンスペース)から階段の向こうの吹き抜けの応接部屋(サロン)を眺めるが殺風景な壁しか見えない。下から囁く様に聞こえてくる音に耳を傾ける。軋む音と共に二人の若い娘が上がって来て、一人は小卓にお茶を置く。一人は布を掛けた箱に手炙りを乗せて床に置く。「これが今の学院の制服か。」と思いながら一礼して去って行く若い娘の所作挙動を見送る。一口啜ると顔を顰め息を吐く。まだ、衰えぬ聴力に感謝しながら締まり切らない扉の隙間から漏れ出る会話を拾う為に身を屈める。


・・・・・・・・・・・・・


「この計画書からあなたの雇い主の本気度を察しろというのね。」


「代理人としては、今確実にいえる事だけを文章にした。」


「そうよね。まだ、始まったばかりでどれも確約が取れない事の方が多いけど、搔い摘んで講演会のイメージを話してくれない。」


「そうだな。俺の雇い主はこの『オディ川の水運』という学院生の論文発表だけの講演会を開くつもりではないという事を最初に言っておく。」


「どういう事?」


「講演は少なくとも三本。学院生のオディ川の水運、そして誰か未定だがオディ川流域各国の特産品について、そしてオディ川の西つまり帝都と東の貴族領についての消費材の動向についてこれは内務省の統計局当りに頼むのが妥当だと思っている。」


「連続講演会を開きたいと?」


「いや、この後が目玉だ。」


「目玉?」


公開討論会(パネルディスカッション)を行う。」


「公開討論会?何について、」


「帝国の更なる発展・・・にオディ川の水運が果たす役割、可能性について、だな。」


「それでオディ川の水運の現状と積み荷売れ筋商品の動向の検討を行う訳ね。」


「そう言ってしまえば身もふたもないが、」


「しかし、それだけでは少し・・国際情勢や陸路、馬車に積み替えてからの流通についても意見が欲しいわね。」


「しかし討論者(パネラー)が多いと話が多岐にわたり纏まりが付かない。」


「そうね。座長の能力と討論者の人選が重要ね。」


「それと、聴衆もだ。」


「お客様の事?」


「そうだ。やはり関心のある人に積極的に聞きに来てほしいし質問もしてほしい。」


「単なる発表会でなく・・」


「水運や流通業界において一つのエポックメーキングとなるような討論会にしたい。」


「画期的な新次元を開く講演会にしたいと。」


「そうだ。」


「でも、単なる学院の2年生にパネラーが務まるかしら」


「そこは、これからの検討課題だ。例えば同じ研究室の3年生が2、3人補佐に着くとか」


「外務省、馬車ギルド、他の関連研究者を招くとか、かしら。」


「まあ、登壇者が多いと混乱する。貴賓席に招待して討論を見守ってもらうというのはどうだ、」


「そうね。あなたの雇い主の意向を帝国全土に広げるには影響力ある人をお招きするというのもいい案ね。」


「時間が無いのでどこまでできるか疑問だが具体案を提示して、内諾を得る。」


「分かったわ。具体案が纏まったら経費見積もりも付けて再提出をお願いします。早い段階で相談して頂いてこちらも助かりました。」


「いえ、こちらこそ貴重なご意見をありがとうございます。それと、この案件は機密扱いでお願いします。」


「勿論です。特に競業相手には秘密を厳守することをお約束します。」


「では、これにて失礼。」


「ごきげんよう。」


・・・・・・・・・・・・・・・・


 クレマの執務室を出たアダンは前室の小卓の紅茶に手を付けることなく項垂れて居眠りをする老人を視止め、一瞬動きを止めたが規則正しい寝息を聞いて、


「ご老人こんな所でお休みなっては、風邪をひかれますよ。」


と声を掛けた。


「おお、ついウトウトとしてしまった。声を掛けて下さり忝い。」


「こちらこそ、差し出た事を致しまして、失礼いたしました。」


「なんの何の、お若いのに礼儀を弁えたなかなかの御仁じゃ。・・うちに可愛い孫娘がおるんじゃが拙宅にお茶でも飲みに来られんか。」


「大変光栄なお申し出ですが、今は所用がありますのでこれで失礼致します。」


「これは失敬した。許されよ。」


「では」


とアダンは一礼すると階段を下りて行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・


「どうぞお座りになってください。」


部屋に招き入れられた老爺は、少しはましな長椅子(ソファを勧められ、ゆっくりと腰を下ろした。


「織機ギルドのアベユー・タジアン会頭。初めまして、わたくしは帝国学院2年生生徒会のクレマ・エンスポールと申します。」


「これはご丁寧に、わしはアベユー・タジアンというもので、ギルドの会頭と言っても棺桶に片足を突っ込んだしがない年寄りです。」


「いえいえ、ご謙遜を。ご高名はわたくしの様な若輩者の耳にも届いております。それで、今日はどのようなご用件でこのようにしがない処に態々お運びになられましたのですか。ご自身でなく、どなたかお使いの方を御寄越し下されればよろしいのに、」


「まあ、そう急かんでおくれ。ところで先ほどの偉丈夫は何処の御仁かな?」


「何か気に係る事でも、もしかして何か失礼がありましたか?!」


「それじゃが、うちにな、二十歳になる孫娘がおってな、なかなかに可愛い好い子なのじゃが、儂の側に下りたいと駄々を捏ねて嫁に行かんともうして何度見合いを勧めても、うんとは言わんのじゃ」


「それは大変ご心配でですね。」


「儂も心配でのう、このまま行き遅れになっては死ぬに死ねん。」


「まあ、そんなことを仰らずにまだまだ長生きをして、お孫さんの晴れ姿をご覧にならないと、気をしっかりお持ちください。」


「それでじゃ、先ほどの青年をご紹介いただけんじゃろうか、」


「まあ、わたくしに氷の上に立てと仰りますので、」


「そこまではお願い出来んじゃろ。それに月明かりに人の縁を読み解くのは老人の楽しみじゃからの。」


「左様ですね。未婚の身で些か勇み足でした。」


「ところで、あの御仁もこちらへは競売の件で来られたのかな。」


「左様です。」


「そうか。」


「どうかなさいましたか?」


「いや、・・些か戸惑ってもいるのでな。」


「どのような事でしょうか?」


「うむ。実は儂が一番乗りと思ってきたのだが、」


「はあ、そう言うことでしたら、一番と思って頂いても良いと思いますが、」


「思っても良いとは含みのある言い方じゃな。少し差しさわりの無いところで説明頂けないかな。」


「そうですね。・・・お花のお届け物なら会頭は4番目です。」


「ほう、」


「お客様としては1番目です。」


「では、先ほどの若者は?」


「彼は有体に言いますと、ここの大家の代理と言ったところでしょうか。」


「大家とは、この建物の持ち主か、」


「左様です。私どもが帝丘を出て帝都に事務所を持ちたいと漏らしたのを聞いて、大家に掛け合ってくれました。」


「ほう、それは奇特な、」


「その縁でか競売の代理人となっております。今日は引っ越しの様子を確認に来たとういう訳です。」


「なるほど、しかしここは些か古すぎる気がするが、」


「私共は返って気が楽でございます。」


「それはどうして?」


「わたくし共は些か・・その、手元不如意でございまして、家賃は要らない、建物も古いので自分達で都合のいい様に手を入れても構わないというご申し出を受けまして、とてもありがたく思っております。」


「全く見返りを求めぬというのは、少しよろしくないのではないかな。」


「はい。その点はわたくし共も然るお方の御助言を受けましてそれなりの調査をし相手方と十分協議を致しました。」


「それで、無償でこの館を借り受けたのか。」


「まあ、家賃の代わりにこの度の競売についての助言を・・」


「いやいや、便宜ではなく助言とな、」


「はい、あくまでも助言でございます。」


「その、助言とやらを儂ももらえないだろうか、勿論それ相応の援助をするが、」


「他意の無い、私共の活動に賛同いただき援助をして下さるというのであれば喜んでお受けしますが、助言は尋ねられれば何方にも致します。尋ねられたことについてきちんと説明を致します。守秘義務や法に抵触しない限りですが、」


「勿論じゃ。筋の通った姿勢に感服いたした。それでは早速助言を頂きたいのじゃが」


「先ずは、どの論文に興味をお持ちでしょうか。その辺からお聞かせください。」


・・・・・・・・・・・・・・・・

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