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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
 二年生編 帝国歴77年
160/204

 1 4月は君の・・・

 花弁(はなびら)ひとつ幽波紋(かすかなはもん

 

 変わった事と言えば、オルレアが制服の上に頸垂帯(ストラ)を付けるようになった事ぐらいだろうか。


 ルイは静に過ごしていた。午前中の授業は直に座って受けれようになった。古代語研究会では片隅で静かにしていた。お茶会部の活動も見取り稽古が主で、たまにお客役をする程度。裏方や力仕事は免除されていた。

 クリスやイシュク、ルシアと相談して4月は力を使うような事はしないということにしたが、生活は変えなかった。早朝の武研の練習は独り五禽獣の歩法のみをゆっくりと行っていた。石竜子、豹狼虎、鹿牛馬、鶴鷲雉、猱猴猿と週替わりに体に染み込ませた。

 4時からの瞑想は端座することにのみ心を砕いた。今までが如何に筋肉に頼っていたのかを思い知らされた。上半身の筋力を全て抜き、脊柱のみで姿勢を保つことの難しさに、ただ坐るいう事の難しさに向き合った。

 5時からの呼吸法は自然呼吸のみを行った。強い呼吸も速い呼吸も遅い呼吸も行わず、唯、自然な呼吸に身を任せるようにした。

 6時からの審アーサナも関節の一つ一つの動き、動かし辛さや癖と言ったモノを認識し、唯、素直に動くことの難しさに向き合った。

 7時に食堂に朝食を摂りに行き、ゆっくりと時間を掛けて咀嚼し内臓に負担をかけないように自分を律した。

 そしてそのまま8時の授業にゆっくりと歩いて向かった。クレマと校舎に向かう小径を一緒に歩いた。クレマは相変わらず忙しくしているがこの時間だけは雨の日も風の日もともに歩いた。

 花散る小径を、花蕊路(はなしべじ)の踏み音だけを聞きながら、


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


 クレマは相変わらずに騒がしい。結局クレマスタッフを生徒会に引きずり込んだ形になった。


「ごめんね、遅くなって。それじゃ生徒会2年生会議を開きましょ。」


「結局このメンバーであと2年やるのかよ。」


「そう言わないでよ、アダン。古研の裏仕事をやりながら研究活動をして、法服貴族を目指すより、生徒会でやりたいことして法服になる方がいいでしょ。」


「俺は別に法服も官僚も目指していないが、」


「そう言わないでよ、ルネはどう?」


「僕は、一応法務を目指すことにしたので、異存はないね。」


「ありがとう、イシュクは?」


「医術師志望だからあまり関係ないけど、」


「う~ん、そうね。でも学院生の健康管理なんかの現場に大ぴらに立ち会えるわよ、」


「なるほど。それは面白いかもしれない。」


「グレースはどう?」


「私は学園祭の時、生徒会を手伝った経験があって、自分で選んできたから異存はないわ。それよりメンバーの代わり映えがしないのがチョとがっかりかも。」


「ありがと、辛辣なご意見歓迎です。それでは、ユニ?」


「私は内務省入りを目標にしたのでその為の手段として生徒会を頑張りたいと思っています。」


「目的意識がはっきりしていてすごいわね。それじゃ、取り敢えず所属を決めておきましょ。」


「所属とかあるのか?」


「一応、総務、風紀、会計、書記、監査があるけど、会計はユニに譲ってあげて、」


「そういう事なら私は総務に馴染みがあるので総務部所属でいいわ。」


「グレースは文化祭の時、手伝っていたものね。」


「では、僕は風紀かな。風紀の向こうに治安や法治があるので、いいかな。」


「異論はなさそうね。イシュクはどう?」


「今まで記録係だったからその延長線上で、書記部かな。」


「そうね、やり慣れた仕事の方がいいわね。それじゃ私は監査部に入るわ。」


「おいおい、そしたら俺は何処に入ればいい、」


「う~ん。アダンは取り敢えず無所属で、2年代表という事で副会長でどうでしょうか。」


「3年に成ったらそのままま生徒会長とかは嫌だぜ。」


「生徒会長は法服貴族を目指している3人から押したいのだけど、」


「はあ~、クレマお前が一番やりたい仕事じゃないのか。」


「私は仕事はするけど役職には拘らないわ。法服志望じゃないし。」


「だったら何志望なんだ。」


「決まってるでしょ。寿退社で良妻賢母よ。」


・・・・・・・・・・・


 第4週の終わりにルシアが体を見てくれた。イシュクがルシアに問う。


「炎症の様子はどうだい?」


「もうありません。」


「血流の滞りは?」


「それもありません。」


「プラーナの流れにおかしなところはあるかな?」


「順調に流れています。上中下の丹炉も静かに燃えています。」


「三焦のバランスもいいのだね。」


「ええ、静かな色合いです。」


「どうだろうか、ルイ。そろそろ動いてもいいと思うけど。」


「ありがとう。ルシア、イシュク。自分でも滞りや障りの様なものは無いと感じるけど、このまま今月は静に過ごしたいと思う。」


「そうかい。君の意見をもちろん尊重するよ。」


「私もルイの気持ちに賛成です。静かな自分を確かなものにして下さい。」


「ありがとう。そして今月の晦行をこのまま迎えたいと思う。」


「わかった。クリスも賛成してくれると思う。」


・・・・・・・・・・・・

 

 庭付の一戸建てが黎明の女神たちの寄宿舎となったが、その寄宿舎はいつの間にかテヒハウスと呼ばれるようになった。食研(仮)のメンバーがよく立ち寄り、試食や相談などをするからである。


「ねぇテヒ。お隣のお家はJ*J*Jの寄宿舎だけど、どう?」


「どう?って、」


「夜中とか危なくないかってことよ。」


「それは、だいじょうぶよ・・いまのところは、」


「だってアダンがいるんでしょ?」


「そっち⁈、大丈夫よアダンは。それにクリスがいるから心配なんかないわ。」


「それもそうだけど。ほら、クレマとかいろいろあるからちょっと気になって。」


「ウヅキは気になる人がいるの?」


「そういう事じゃないけど、ほら私は他の組の人と4人部屋のアパルトマンだからいろいろ聞かれるのよね。」


「それは大変ね。やっぱり恋バナとかするの?」


「まあ~ひとしきり終わった感じだけど、それより私達は慣れちゃったけど、でもルイとクレマはどうなったの?」


「う~ん。そっとしておきましょ。ルイが急にあんなになって、一番戸惑っているのはクレマだし、」


「ところで戸惑っていると言えば、テヒ、あなたてっきり食関係の人文系に進むと思っていたのになぜ自然系に進んだの?」


「そうよね。・・まあ、食は土だからかな。」


「食は土なの?〈食は人の天なり〉じゃないの、」


「一人の人間としてはそれでいいけど、私達は学院生でしょ。どちらかと言えば〈民は食をもって天となす〉の方じゃないかな、」


「言いたいことは分かるけど、それを超えて〈食は土〉なの?」


「そうね、実際に食べる土もあるけど、そうじゃなくて〈国の基は農なり〉を突き詰めると土に行きつくのかなと思って」


「そう、それで研究は土にするの?」


「たぶんそうなるわね。」


「じゃなんで体育会は水泳なの?農の基本は土と水だからとかいう訳?」


「今のところはそうしておいて、」


「そうしておいてって、まさか他に目的がある訳じゃないでしょうね、まさかベイシラがらみ?」


「どうしてもそっちに話が行くのね。でもごめんなさい、ご期待に沿えなくて。温かくなってプールが使えるようになる迄、自主練だからよ。」


「あ~なんかごまかしてる~。」


・・・・・・・・・・・・


 喫茶金合歓(アカシア)稲穂鈴(ドアベル)を勢いよく鳴らして5人の男子学院生が入ってくる。いつものといった感じで窓際の金合歓がよく見えるテーブルに席を取る。


「ルイ、今日はどうするんだ?晦日行に参加できるのか、」

とファイが遠慮なく聞いてくる。


「ああ、大丈夫だ。お前たちも参加するんだろ。」


「まあな、お前がそうなった秘密も知りたいし、うちの中隊からニ三人参加するんで付き添いもかねてだが、」


「他の中隊もそんな感じなのか?ウエイズ、」


「第2も3人興味を持っている。」


「第4は2人かな。」


「コ―キンはもちろん来るんだろ、」


「ああ、もちろんだ。」


「コ―キンはグレースが目当てだろ。」


「そう言うベイシラはテヒだろ。」


「おいおい、お前らは色恋が本命か、01のくせに軍専に入ったのは俺とルイだけなのはどうしてだ。」


「そう言うが、ファイは何故軍専に入った。」


「逆切れか?・・帝国に貢献するなら帝国軍に志願して帝国の為に闘うのが自然だろ。お前たちにはそれだけの能力も腕力もあるだろうに、」


「帝国に貢献する道は軍だけではないと思う。俺は法服貴族としてもっと違う視点で帝国を繁栄させたい。」


「コ―キンは官僚を目指すのか、お前の性格なら事務屋も分からんでないが、ウエイズはおとなしく椅子に座っているタイプじゃないだろう。」


「俺はどうしていいかまだわかないが、帝国の繁栄は国民一人ひとりの幸せの総和の様な気がしている。それを如何すれば良いのか軍人でも法服貴族でもない形を捜している。」


「なるほど、俺は単純っていう事か。」


「一本気はファイの特質だと思う、そういう訳で軍人がお前にはしっくりくるよ。それよりベイシラはどうするんだ。何だかふらふらしている様にみえるけど、」


「俺か。俺もまだ何になりたいかとか、どうしたいとかははっきりしていない。むしろ何かを探しているいという感じだな。」


「探しているというなら、俺たちも同じだろ。俺だって軍人としての何かを探している。まあ、なんとか見つかることを願っている。それで、ルイ。お前はどうだ。軍専だから帝国軍に入るのだろうが、お前は騎士になりたかったのじゃなかったか。」

「ああ、騎士になりという夢は確かにあるが、ちゃんとした騎士と言うのはどういったものなのか分からなくて、しかも、今はこう・・なんだか生まれ変わったみたいな感じで、新しい自分の何をどうしたら良いのか探っているところだ。」


「悪いと思って聞かなかったんだが、いったいぜんたいどうしたんだ。始業式に見かけない奴がいると思ったらルイ、お前だった。」


「それは俺の方が聞きたい。ある日起きたら背が15㎝も伸びていたんだ。俺もびっくりさ。」


「一晩で15㎝もか。」


「ああ、だいたいだが、そんな感じだ。いきなり引き伸ばされて身体中、内臓の中まで痛かった。」


「今も痛むのか。」


「否、もう落ち着いた。」


「それでどうするんだ。いや、どうなるんだ。」


「それだな。ルイがベイシラより突然デカくなった。という事はファイが一番のちび確定だな。」


「これでも175はある。小さくはないぞ。前はルイと変わらなかったのに今じゃルイは190ってことか、」


「世間的にはそれで行こうと思っている。本当は少し足りないが、」


「サバ読んでいるのか!」


「否、もう少し伸びそうなんだ。それでね。」


「まだ伸びるのか、そんなにでかくなってどうする。」


「どうするもこうするもないさ。お陰で鎧が作れないでいる。」


「鎧を作っているのか?」


「ああ、一応馬上槍同好会なんでね。」


「諦めてなかったのか、」


「もちろんだ。」


「人は集まったのか。」


「クリスとクレマが入ってくれた。三人になったので同好会に登録したよ。」


「クリスがいるのか。練習はどうしている。」


「こんな体なので明日、ゆっくり常歩から始めることになった。取り敢えず聖曜日の午後を練習日にするつもりだ。」


「乗った。俺も明日から参加する。」


「ファイどうしたんだ。」


「クリスがいるのならチャンスだ。」


「お前、クリスに気があるのか。」


「もちろんだ。大ありだね。何処の武術研究会も体育会系にもクリスは入っていないのでどうしたのかと思ってたんだ。」


「クリスは機織研究で工芸学研究会だ。部会は文化系で美術関係だ。武術系には入っていないからな。」


「どうりで何処を捜しても会えなかったのか。でも、明日から会える。」


「それはおめでとうございます、だな。ところでルイ、その体で馬上槍が使えるのか?」


「それは追々、体を作ってからだ。まだ、重い物を持ったりできないが、乗馬程度なら何とかこなせそうだ。」


「病み上がりみたいなもんだからな。ブラブラ暇つぶしみたいのがちょうどだろう、」


「いや、それがそうも言ってられないんだ。何だか忙しくなりそうな気配だ。」


「その体で何をする?」


「喫茶店だ。」


「「「「きっさてん~????」」」」

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