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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
76年2学期
155/204

 32 クレマの春休み2

 ソシ大佐率いる調査隊は昼の大休憩に入っていた。調査隊のつまりは本部中隊の兵のほとんどが志願新兵であった。徴兵訓練修了や満期除隊後、改めて志願して職業兵士になった者たちでる。グリーンベレーの噂を聞いてあこがれだけで入って来たものがほとんどである。そんな彼らが中食休憩中に話す事と言ったら上官の噂か女の事と相場が決まっているは何処も同じである。


「見ろよ。マージー兵長と黄色いベレー帽を被った大尉殿がなんかしゃべっているぞ。」


「こうやって見ると美男と美女の一幅の絵のようだな。」


「マージー兵長はあれだろ。女癖が悪くて大佐の横以外は居場所が無くて、10年以上も軍にいるのに伍長にも上がれないという評判のイケメン兵長だろ。」


「確かに、大佐に手を出せる男はこの世にいないわな。」


「だったら大丈夫か、でもあの大尉殿は、」


「大丈夫らしいぞ、女子寮では専ら黄色い悪魔と恐れられているらしい。」


「黄色い悪魔か。あんなにきれいなのにか?」


「顔じゃ分かんないだろ、男も女も。」


「確かに‥て、マリー少尉が加わったぞ。」


「マリー少尉、かわいいなあああ~」


「どうしてすぐに軍大に行ってしまうんだ。」


「マリー少尉、ちっちゃくてかわいいな~。」


「バカ、遠目だからそう見えるけど、あれで60以上だぞ。」


「160ってことか、他がデカいから小さく見えるのか、」


「そうだ。」


「他のサイズは、」


「知っててもお前には教えないね。」


「ケチだな~、ちょっとだけ乳苦しい感じがたまんないな、」


「おい、見たか。」


「今、大尉が兵長に蹴りを入れたぞ。」


「えっ、ほんとだ。アッ蹴った、今ので二発目か!」


軍靴(ブーツ)の爪先で脛を蹴られたら、痛すぎて涙がこぼれるもんだぞ、何故兵長は直立不動姿勢でいられるんだ。」


「それ程、黄色い悪魔が恐ろしいってことか、」


「あっ、今度はマリー少尉がケリを入れた!」


「マリー少尉なら蹴られてみたい~、」


・・・・・・・・・・・・


「兵長。長靴下の中に脛当てを入れるなんて卑怯です。」


「いえ、少尉殿。生活の知恵とおっしゃて下さい。」


「いつから入れているの?」


「大尉殿がみえられてからです。」


「昨日の朝からという事ね。」


「ずいぶん用心深いのね。」


「大尉殿の教えを忠実に守りました。」


「大尉の教えって?」


「用意周到が勝利を呼ぶ。であります。」


「それで、プレート製の脛当てを準備していたのね。」


「そうであります。大尉殿。」


「その堅苦しいしゃべり方はやめてくれない、」


「そう言われましても、人目があります。」


「そう。じゃこの景色を頭に入れたら幕舎(テント)に入りましょ。大佐をお見送りしないと」


「大佐がどこかへ行かれるのですか?」


「2、3日休暇を取ってブラブラするそうよ。」


「現場を見捨てるのですか?」


「現場はマージー兵長がいれば大丈夫でしょ、何ならマリー少尉がお供する?。」


「それだけは・・どうか・・お許しください‼」


・・・・・・・・・・・・


「おい、今度はマリー少尉が土下座したぞ。」


「何をやらかしたんだ。」


「黄色い悪魔め、俺のマリーに何をした。」


「兵長を足蹴にして、少尉を足に(すが)りつかせるつかせるなんて・・・」


「足癖の悪い悪魔だ。」


・・・・・・・・・・・・


 クレマ達三人が向かった幕僚幕舎では、五人の新人幕僚を相手にソシ大佐が談笑していた。


「ずいぶん楽しいそうですね大佐。なんのお話しをなさっていたんですか?」


「いや~、新人たちにね、クレマ君が如何に有能かを話していたとこだよ。」


「どうせ、ロクな事じゃにでしょ。それに軍務中です大佐。君付けは如何かと、」


「あれは言っていないぞ、ほら、マリー少尉が血飛沫(ちしぶき)のマリーと異名をとる理由(わけ)


「あれはマリー少尉の所為でしょう。」


「大尉!」


「舞台を用意したのはクレマ君じゃないか。」


「そうですが、」


「それに、通信兵志願者が増えて軍の通信改革が始まったのもクレマ君の所為だろ。」


「あれは、若気の至りというものです。」


「それに取って置きのアレ!」


「なんですか?」


「サング曹長にクレマ君の彼を取られた話!」


全員が息を呑む。一瞬してマージー兵長が、


「大佐そのお話は聞いたことがありません‼」


「ほらね。私はこう見えても口は堅いんだ。兵長これは女だけの秘密のコイバナ。男が首を突っ込んじゃいけない話だ。」


「大佐いい加減な事をことを言わないでください。人が聞いて本気にしたらどうするんですか。」


「何を言っている。彼が書いた愛の言葉をサングに読んでやったのはこの私だ。」


「与太話はそれぐらいにして、ブラブラするための必要な手続きをしてください。」


「書類は出来てるよ。フギィ中尉には直接伝達した。」


「それじゃ、エヴァンス少尉、大佐のお供をお願いします。」


「え˝っ。何も聞いていませんが」


「今伝えました。」


「しかし・・」


「臨機応変、突貫敢闘がグリーンベレーのモットーだと先ほどお伝えしました。」


「私はトビイロです。」


「だったらこれぐらいは日常です。2、3日大佐のお供をお願いします。」


「2、3日とはあいまいです。」


「大佐が2、3日と言われたら2、3日です。」


「しかし、私の小隊の・・」


「あなたの小隊はそうね。マリー少尉にお願いするわ。」


「ゑっ!私ですかー!私はグリーンベレーです。」


「何を仰るの。あなたもソシ大隊の士官なら二日や三日ぐらいトビイロ小隊の一つや二つ指揮できるでしょ。あなたの必殺技“乙女の祈り”に手を出せるものはそうは、いないわよ。」


「大尉。何か含む所がおありですか!」


「いえ、何も。そうね、何ならあなたの隠し技“闘牛”を使っても良くてよ。」


「・・・」


「だけど“秋波”は禁じ手よ。何人血を吹き出すか考えただけでも恐ろしいから。」


「・・・分かりました。誠心誠意務めさせて頂きます。」


「ア、それから私もブラブラするので、私の代理にマージー兵長を立てておきます。彼の言ったことは私の命令と同じです。という事で周知徹底よろしく。」


新人幕僚たちの頭の中は爆発寸前であった。


・・・・・・・・・・・・


 大佐が休暇の旅にでた後、調査隊の本部幕舎の主の椅子は名目上フギィ中尉が座るべきだが、大きなテーブルが欲しくてクレマが使っていた。目の前に特大の白地図を広げながら、


「大佐がお戻りになる前に出来る事はしておきたいのだけど、何をすべきかしら?」


新人幕僚とエヴァンス少尉の代わりのマリー少尉とマージー兵長の6人に問うてみた。


「何か意見はないのかしら、」


「・・・・、」


「あの、」


「何でしょうか、ミッシェル少尉。」


「そもそも我々は何を調査しに来たのでしょうか。」


「そうよね、誰か聞いている?兵長はどう?」


「特には何も聞いておりません。」


「そう、ざんねんね。」


「あの、大尉はご存じないのですか?」


「私も何も聞いていないわ。ノープランを丸投げされただけだから、」


「あの~、」


「はい。イートン少尉どうぞ。」


「ブローケン少佐が輜重隊に持たせた積み荷の送り状(リストを見てたんですが・・、」


「・・・なになに?」


「なんだか測量道具が多い様な気がしたのですが、」


「どれどれちょっと見せて…て、私専門じゃないから良く判らないけど、兵長どう?」


「・・・そうですね。新兵訓練の塹壕掘りにしては堀道具が少ないですね。この測量道具は1班五人単位で使うタイプです。測地測量と地形測量が出来ます。1小隊分あると言ったところですか。」


「どういう事?」


「端的に言えば地図を作れという事です。」


「なんで?」


「なんでと言われましても、第1に軍ですから、例えば目の前の平野が会戦予定地である。2番目としてリボン砦の為に輸送路の建設をする。それから国土の把握つまり地理院の要請に答えると言った所でしょうか。」


「3番はとも角、2が現実的な感じだけど、1の可能性はどれぐらい?」


「直近は有り得ないでしょう。」


「中期、長期的にはあり得るの?」


「敵が何処かがハッキリすれば在り得ないでもないですが、純粋仮想軍事研究ならばいくらでも在り得ます。」


「例えば?」


「敵が砂漠を超えて来るとすればここで迎え撃つ。海から上陸したとして、ここに誘い込んで迎え撃つ。同様に東からまたは北からやって来た敵に帝都を落とされたがリボン砦を拠点にここらあたりで巻き返しの決戦を挑む。といった具合に、作戦計画の基礎資料としての地図が欲しいと言うなら在り得ます。」


「そうね。どれくらいの規模の戦闘になるかしら」


「決戦ですから、二軍は欲しいですね。」


「人数でいえば?」


「10万から12万。相手も同程度として30万人が激突する。ですかね。」


「地図はあった方がいい?」


「当然です。誘い込んで水攻めで相手の足を止める。風向きで火攻めを掛ける。塹壕や構築物の適切な配置。局地的にはその場で何とかなっても、この丘に隧道を掘って水を引き込むなんて言うのは準備に相当の時間と計画性が要りますから。」


「なるほど、国の存亡をかけた決戦計画の基礎になる資料を作成するという事ね。」


「又は、国を富ませる農地開発か、地下資源の採掘とそれらの流通計画の基礎資料ですね。」


「そんな大切な仕事をまかせられたのかな?」


「無理ですね。」


「どうして?」


「今の兵の練度ではこれらの道具を使いこなすには力量不足です。」


「力が抜けるわね。」


「現実は現実です。」


「では、どうすればいいのかしら?」


「それを考えるのが、幕僚の仕事であると小官は愚考します。」


「逃げたわね。まあいいわ、それじゃ今の話を踏まえて、明日からの行動計画を立案して。」


「私は野営地の視察にでるわ。マリー少尉、兵長ついてきて。」


・・・・・・・・・・・・


 幕舎を出た三人が視察を終えて、兵たちから離れた場所で荒野を見ながら雑談をする。


「マリー少尉、ザッと見てきた感想は?」


「はい。取り敢えず操典教書(マニュアル)どおりは設営されています。が、思ったより練度が低いと感じます。」


「マージー兵長、どういう事?」


「実は、部隊編成が2月に終わったばかりでまだ訓練期間と言う状況です。」


「はあ~、じゃ砦に残してきた守備隊の方がましっていう事?」


「あちらはもっと悲惨です。」


「ちゃんと説明して、」


「推測ですが、大佐は秋の叙勲祝賀会あたりから実際の兵士採用に動かれ、秋季入隊の全国の招集兵の中から志願者を集めて作ったのが、守備任務に就いている第1と第2小隊の100人です。」


「つまり、本当の新兵教育が終わったばかりのヒヨッコをブローケン少佐が鍛えているという事?」


「そうであります。」


「それはどちらにとってもご愁傷様ね。で、」


「で、第3、第4、第5は全国の軍人事局を通じて兵役終了者の中から一般応募者を選別して採用された者達です。」


「つまり、訳アリ、癖アリ、問題アリの寄せ集めという事ね?」


「アリアリのアリ集団です。」


「小隊長はどういった経歴?」


「それは一応機密個人情報ですが・・」


「公開されているところだけでいいわ。」


「第3のフギィ中尉は、第13・・、何処かの工兵大隊からの引き抜きです。」


「士官学校出?」


「一般4年制大学卒です?」


「?、カデットと言ったかしら、」


「はい。予備士官養成コース出身で義務兵役中に中尉昇進を餌に大佐に引き抜かれました。」


「他の二人も同じ?」


「はい。一般大学出身ですのです。予備士官採用で第4のピンチン少尉、第5のアンシュ―少尉はどこかの歩兵連隊からの引き抜きです。」


「よっぽど優秀なのか使えないのか、どの連隊も持て余していたくちね。」


「小官には計り知れぬことです。」


「すぐとぼけるから、・・・いいわ。今日の午後にすることが見えたから。」


「私はトビイロの指揮など、どうしたら分からないのですが、」


「大丈夫よ、マリー少尉の得意分野だから。」


「ハイ?」


「今日の処は、第3と第4小隊の力自慢、腕自慢の真偽を確かめて、戦闘アリと働きアリに振り分けて。それから、マージー兵長はフギィ中尉と測量法の授業を開いて測量隊の編成に向けて人材の発掘。第5小隊は輜重隊の仕事ね。アンシュ―少尉にイートン少尉を付けて。段取りは任せるわ。」


「分かりました。ところで大尉は何をなさるのですか?」


「私?、私は・・・昼寝をするから、大佐が突然帰ってこない限りは起こさないで!」


「了解しました。」


「ええええ~、それでいいんですか~」

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