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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
76年2学期
146/204

 23 お茶会

 その部屋の暖炉の前のメインテーブルは八人席。小テーブルが二つ程。ルイ達四人が呼ばれて部屋に入った時にはクレマはお城のメイド達と待っていた。


 女主人役(ホステス)の皇后が差配を振るっている。


「ごきげんよう。ルイ・シモンさんにオルレア・エンスポールさんね。今日はようこそ、招待を受けて頂いてうれしく思います。エステルはもう皆さんとお友達になったの、」


「はい。母上、ルイと剣の練習をしてまいりました。」


「そう、それでそんなに上気しているのね。オルレアさんは?」


「オルレアは私達の応援を。」


「稽古場は火の気がないでしょ。寒く無かったかしら。」


「皇后さま、お気遣いありがとうございます。でも、ご心配には及びません。とても白熱した試合で見ている方も熱くなってしまいました。」


「そう、それは楽しそうですね。さあ、お二人ともそちらにお座りになって。お付きの方も後ろのテーブルにお座りくださいね。」


・・・・・・・・・


 女主人の左は空席で右にはルナと紹介された11、2歳ぐらいの少女が座っている。女主人の正面にオルレアが座り、オルレアの左にルイが座りルイの横にエトワールが座った。暖炉の近くの席には老婦人が席に着いた。改めて女主人がルイ達に家族を紹介し手ずから淹れたお茶とお菓子がメイドによって給仕(サーブ)される。


「ごめんなさい。主人は所用があり、遅れるという事です。お茶が冷めないうちに始めましょう。お好きなお菓子がありましたらお取りしますから遠慮なくおっしゃて。」


「ありがとうございます。とても色も香りも、味も素晴らしい紅茶です。」


「お気に召したのならうれしいです。ルイさんが昨日の大雪をかたずけて下さってとっても助かったのですよ。」


「いえ、私ではなく学院の1年生が全員で行ったことです。」


「そうですね。今日は1年生の代表の方をお招きしてお礼を申したくてお茶にお招きしたのでした。改めてありがとうと礼を申し上げます。ご苦労様でした。」


「恐縮です。ただ、帝丘に住まうものとして当然の事をした迄です。」


「そう、それはそうでもたいへんでしたでしょう。」


そう話を振られ、ルイはみなから仕入れた苦労話、失敗談を語り、皆を楽しませた。


・・・・・・・・・

 

 部屋の扉が開き、帝王陛下が入ってくる。


「遅れてすまない。母上ご機嫌麗しゅう、お前、茶会は盛況かい。」


「あなた、お客様にしつれいです。ちゃんとご挨拶とお礼を」


「そうであった。ちょっと厄介事があって頭を悩ませていたので失礼した。ルイ・シモンだったな一別以来だが息災か。昨日は大雪を片付けてくれて大変助かった、改めて礼をいう。」


「滅相もございません陛下。私が行ったのではなく帝国学院の1年生全員が行ったことでございます。」


「そうであった。皆に感謝していると伝えてくれぬか。」


「畏まりました。」


「ところで、ルイ・シモンは学院の夏休みに北の山奥に旅をしたそうだな。」


「はい。大変有意義な夏休みでございました。」


「何をしに国境近くの山奥に行ったのだ。」


「はい。武者修行でございます。」


「武者修行?武人になりたいのか。」


「父上、ルイは騎士爵持ちなのです。それで、往年の騎士に憧れて修行しているのです。」


「エステルはルイ・シモンと親しいのか。」


「剣の稽古を致しました。」


「騎士の剣と言えばロングソードでか?」


「いえ、流石にそれは。私はショートソードの木剣、ルイはシナイというもので撃ち合いました。」


「シナイ?おお、あの革筒の棒か、エステル、ルイ・シモンは強かろう、」


「父上、私も負けてはおりません。」


「そうか、互角か。それは上々。それでルイ・シモンよ。山の中で剣豪に会えたのか、」


「いえ、陛下。私は騎士とは名ばかりの未熟者です。まず、馬に乗っての旅の仕方の稽古でした。」


「自分で考えたのか。」


「師匠の教えです。」


「ルイ・シモンの師匠の教えか。いつかお目に掛かりたいものだな。それでじゃ、ルイ・シモン。」


「はい。」


「貴殿の持ち込んだ物が結構面倒での。どうしたものか悩んで居った。そうだ。太子はおらぬが母上もいらっしゃる。ここで家族の智慧を借りたいが、奥、お前の意向はどうだ。」


「あなたがお望みなら否はありません。シモンさんの楽しいお話も聞けたので調度趣向が変わって、面白いとも思います。」


「誰か、イーファン叔父上を呼んできてくれ。例の物を持てと。」


・・・・・・・・・・・・


 暫くして部屋の扉が開く、老人が車椅子を押して入って来た。


「太皇太后をお連れした。」


 全員が立ち上がり二人を迎える。椅子がひとつ片付けられそこに車椅子が着いた。老爺はその後ろに立っている。


「叔父上、お座りになりませんか。」


と、皇后が席を勧めるが、


「いや、私はここで良い。それよりも姉上もいらっしゃるが、太子は?」


「公務で出ております。」


「そうか、それは少し残念。家族全員が集まるのはそうそうなかろう。伯母上もご加減がよろしいのか茶会に参加したいと申され、お連れした。皆の者よろしいかな。」


「勿論です。おばあ様。ご機嫌麗しゅうお慶び申し上げます。」


と言う帝王陛下の言葉に全員が叩頭する。 


車椅子の老婆はそれに少し右手を動かして答えた。イーファンはお付きの者に持たせた荷物を空いている小テーブルに置かせ下がらせると、

 

「皇后いや、奥様。おばあさまのお茶を」


と、


「そうでした。おばあさまのお茶を用意します。少々時間が掛かりますのでその間ご歓談を」


と、席を立って控え室に下がった。


「女主人が下がったので、ここは私が場を引き継ぎましょう。お茶会、茶話会は女の楽しみですからね。」


と、皇太后が口を開き


「ルイ殿、山での話などを聞かせ下さいな。」


と話を促され、ルイは兎狩りの失敗談や鍛冶仕事の経験などを話して聞かせた。


・・・・・・・・・・・・


程なく、皇后がメイドに茶器を持たせ点て出しでお茶を運んでくる。車椅子の席には皇后自ら茶を運び自席に着くと、


「おばあさまのお茶をご相伴いたしましょう。」


と声を掛け、少し小振りの茶器を両手で持ち上げ飲み始めた。一口二口飲んで茶器を下ろすと


「さあ、皆様もどうぞ。トリウィア、ひいおばあさまのお手伝いを」


と言うのに合わせ、全員が茶を飲む。


「これは、」


と、ルイが囁くのを


「どうされました、ルイ殿。」


と、皇太后が小声で聞いてくる。


「これは、団茶と言うか、餅茶のようですね。」


「あら、ルイさんは餅茶をご存じなの?」


と、皇后が瞳を輝かせて問う。


「一度だけ頂いたことがあります。」


「学院では餅茶を出すお店でもあるのかしら、」


「いえ、私の茶芸の師匠が淹れてくれものを頂いた事が一度あるだけです。」


「ルイさんはお茶の師匠もお持ちなのね。」


「まだ、入門したばかりで何もできませんが、」


「そう、それはこれからが楽しみという事ですね。ところでわたくしの餅茶はどうかしら?」


「結構なお服かげんです。」


「それはちょっと、紋切り方でつまらないわ、本当の所はどうなのかしら。」


「う~ん、困りました。何が正解なのか分からないのでお答えしようがないのですが、」


「そう意地悪言わずに、おばあさまに美味しお茶をお出ししたいのよ。」


「そうですか。それでしたら、助言と言う事で、まず、餅茶自体にいろいろ改良というより好みに合わせた工夫ができます。それからたぶん塩加減、入れる量もそうですが使う種類によってだいぶ違うようですので、そのあたりを工夫をなさったらよいと思います。」


「お塩は何とかなりそうだけど、餅茶はね。古い本を見ながら作っているんですけど・・」


「陛下のお手製ですか。それは大変ですね。よろしかったら私の知り合いの茶師を紹介いたしましょう。宗匠も会わせろという程の腕前です。」


「それはとてもうれしいわ。いつ会えるかしら、出来るだけ早くお願い。でも、帝都にそんな茶師がいたかしら。」


「少々お待ちください。」


と、ルイはオルレアの方を向いてシマッタという顔をする。


オルレアは後ろを振り返りクレマに頷く。クレマは席を立ちオルレアの耳元に顔を寄せ囁く。


「皇后陛下。」


「はい、オルレアさん。」


「ルイの茶師の都合もありますし今日明日という訳には参りません。」


「それはそうです。」


「お前、あまり無理を言うでないぞ。」


「分かっています。でも、いいお茶師に巡り合えるチャンスですもの、」


「両陛下、ひとつお願いがあります。」


「何でしょう。」


「茶師をご紹介するのはよろしいのですが、それはここだけの秘密という事にして下さい。」


「何故かしら、帝都に名をとどろかせるいい機会だと思いますけど、」


「いえ、本人は大変忙しくしておりまして、その~、他の貴族からのお召しなどは応じたくないのです。」


「おっしゃることは分かりました。秘密にします。でも、私だけが独占したらまたどなたかの恨みをかうわ。」


「恐れ入ります。」


「いいのよ。おばあさまに美味しいお茶を飲んでいただけるなら、」


「それでしたら、一両日中にご連絡申し上げます。」


「よろしくお願いするわ。オルレアさん。」


・・・・・・・・・・・・


「お茶の件がかたずづいたら、私の悩みも片付けて欲しいものだ。」


帝王陛下が席を立ち、小テーブルに置かれた白木の箱と一疋の布帛を自ら大テーブルに運んだ。


皇后と皇太后に一反づつ手渡す。二人は互いに手触りなど確かめつつ品定めをする。


「この、やや緑がかった光沢は天繭(ヤママユ)のテングスで織られた帛ですね。」


と、皇太后。


「手触りからすると、生糸と紬のようですね。」


と、皇后。


「ひいおばあさまも、見てみたいとの事です。」


とルナ。


「これは失礼。」


と、帝王自らが反物を運ぶ。


暫くして、帝王が


「どうであろう。」


と,問うと、皇太后が


「些か、尺が足らなそうですがそれよりも、普通の天繭糸ではありませんね。織りはまあまあと言ったとこです。」


「これをどうされたのですか?ルイ・シモン。」


と、皇后の問いにルイは、


「夏の間お世話になった大岩村の娘達は家繭からの絹織物を生業としております。」


「そうなのでか、」


「はい、其処の織物の師匠から機織りを習い、初めて織り上げましたのがこの二反です。」


「ルイさんは機織もするのかしら、」


「失礼しました。機を織ったのはオルレアでございます。」


「あら、オルレアさん。機を織るのね、織姫ね。」


「お恥ずかしい限りです。初めてのことで、どうにか師匠に許されたのが絹織物のほうで、紬織は別のものが織ました。」


「そうですか、初めてにしては上出来です。しかしちょっと変わった感じがしますね。」


「恐れ入ります。」


「それでルイさんはこれをどうしたいのですか。献上品としては些か中途半端ですが。」


「はい。それは多分大岩村の更に山奥でしか織れないものだと思いまして、どうか陛下に大岩村の保護を願いたいと考えました。」


ルナが


「お母さま。ひいおばあさまが、アララギシジョズと、」


全員がルナを見る。


「アララギシジョズ・・・」


暫くの間、何のことかとかと考える。突然イーファン閣下が帝王陛下に詰め寄り耳打ちする。


「これを」


陛下はベルトの鍵束を叔父に渡すと、駆け出してゆく後姿を見送った。


・・・・・・・・


「あなた・・」


「・・そうだ。奥よ、人払いを」


皇后がメイド長に頷くとメイド達は控えの間に下がっていった。ルイは自分達もと腰を上げ、


「陛下・・」


「まて、お主らには居てもらわねば困る。叔父上を待つ間、皆にはこれを見てもらおう。」


そう言うと、陛下は白木の箱を開け中から、大振りのワインボトルぐらいの大きさのずんぐりとした石を取り出してテーブルクロスの上に置いた。


「翡翠の原石だ。よく磨き込んであるが翡翠だ。それも固い方の翡翠だ。しかも大きい。それで、ルイ、皆にこれの経緯を説明してくれ。」


そう言われてルイは森棲期の森の話をした。


「という事で、イミンギ老師から陛下にと託されたものです。」


「イミンギ老師は何と?」


「特にはこれと言って、只、陛下にと。」


「そうか、大岩村の向こうにそのような森があるとは知らなかった。私はこれをどうしたら良いのだろうか。」


・・・・・・・・

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