13 二日目の反省会の後
「今日の反省はここまでな」
トユンが言い放ったのを受けてアマンダが、
「そうね、長い一日だったわ、特にルイとクリスが来るまではみんな不安でどうなるかと思った」
「ごめんなさい。私たちも突然の事でどうしようもなかったのよ」
クリスがそう返したところで鐘が一つなった。余韻が収まるのを待っていたかのようにルイが
「後は俺が纏めておく。消灯の用意をしてくれ。」
三人が立ち上がり、お休みなさいと言いながら食堂を出ていく。その後ろ姿にルイが
「クリス、ちょっと。朝の事で相談がある」
と声を掛けた。アマンダがクリスに肩を竦めて(ご苦労さん)と唇をうごかした。
クリスは踵を返すとルイのもとに引き返し、胸の前で腕を組みながら、
「何かしら」
と聞いた。ルイは日誌を書くふりをしなが暫くうつむいていたが、
「君に頼みたいことがあるんだ」
と意を決したように顔を上げた。
「なに?」
「君が騎士だと知ってびっくりした」
「親の七光りよ。気にするほどでもないわ」
「いや、きみが正当な騎士であることは、立ち振る舞いを見れば納得がいく」
「ほめて頂いたのかしら」
「朝も言ったように、俺は親とうまくいってない。偶々、軍功を上げたのが帝国のお偉いさんの目に留まり、その縁で寄り親の侯爵家から騎士爵位と騎士爵領を授かった。帝王の直臣ではないし。剣もほとんど我流だ。半年余りの騎士見習いの経験しかない促成栽培だ」
「だから?私も我が家の寄り親から受爵したわ。騎士領は親から貰ったけど、しかも帝王の陪審でもないわ。そんなことが何か問題でも」
「・・・いや、此処は実力・実績主義だから心配はしていない。ただ・・」
「ただ、何?」
「自分には騎士爵としての実力、内実がないのが心配なんだ」
「そんなこと・・・学院を卒業したら少尉にも法官男爵にも大学院生にもなれるのよ。サーでなくロードと呼ばれるのよ。促成栽培なんて気にすることもないわ」
「いや、そういう事ではないんだ。」
「じゃ~どういう事かしら」
「騎士は俺の憧れなんだ。だから本物の騎士、騎士道を身に着けた騎士爵になりたいんだ」
「ここにいても礼儀作法は身に付くわ。それに学識もそれなりに得れるはずだけど」
「それは軍人としてのものだ。」
「たいした違いはないと思うけど」
「いや、俺は本物の騎士になりたいんだ。」
「う~ン、ロマンチストなのね」
「どうか頼む」
頭を下げるルイを睨みながら溜息を一つついて
「判ったわ。暇が出来たら追々考えましょ。今は忙しすぎるわ」
「ありがとう、恩に着る」
「一つ言っておくけど騎士と騎士爵の一番の違いというか大変なことは領地経営よ」
と、そこでコンコンとドアをノックする音がして
「いくら、ドアが開けっぱなしとはいえこんな夜更けに二人きりだとロマンでなくロマンスだと思われるぞー」
「アッ。ヴェルル副官、消灯点検ですね」
「そうだ、後は明日だ。クリス、私が行く前に部屋にいないと大変なことになるから。ルイ、イノー副官は今トイレだから」
「判りました」
二人は片付けも早々に走り出した。
クリスはヴェルル副官の前を通り過ぎる時、立ち止まり振り返って
「何処から聞いてらしたんでですか」
「う~ん、ロマンチストね、あたりからという事に」
お茶目にウインクするヴェルル副官に
「ありがとうございます」
と一礼して駆けだした。