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帝国学院編  5タップ-2  作者: パーナンダ
76年2学期
128/204

 5 メイド募集 (9月24日)

 第4聖曜日の24日は休みだが、25日が臨時休校の為、気の早い者は23日水の曜日の午後から外泊届をだして帝都に出てしまっている。残っていた者も朝の早いうちに出かけてしまっていた。

 女子寮の他の組の(クラス)建屋はひっそりとしていたが、3組の建屋はモゾモゾとやっと動きだした。そんな感じの時間に男子禁制のはずの女子寮のドアをそわそわと居心地悪そうにノックする男がいる。


「あら、ブラックボード先生」


と、第4週週番班長の4-06サンドがドアを開けて訝しがる。


「どうかしましたか。」


「あ~、連絡があって来た。」


「なんでしょう?」


「王城から学生動員が掛かってな。」


「はあ~?」


「その来週の式典に向けていろいろ作業があるんだが、人手が足らんらしい。そこで学院の1年生に手伝いの依頼という動員命令がでた。」


「拒否権は無さそうですね。」


「まあ~そうだ。残っているのがうちのクラスとちらほらだ。それで他のクラスの残っている奴らも根こそぎ引き連れて、13時にイヌイ門に集合だ。」


「他の寮に声をかけて、残っている全員で作業の為に13時イヌイ門集合ですね。」


「あ~そうだ。」


「作業内容はお判りですか?」


「まあ~、掃除とか調度品の移動とからしい、たぶん。」


「そうすると作業服で行った方が宜しいでしょうか?」


「王城に入るからな、制服でいいだろう。それほどの重労働はないはずだ。」


「何時まででしょうか?」


「ま~、一応17時までだが、バイト代替わりに夕食が出るそうだ。」


「分かりました。1食分働けという事ですね。」


「まあ~そういう事だ。お前たちが丸まる残っているせいで、俺が引率責任者にさせられた。」


「それは、ご愁傷様です。」


・・・・・・・・・


 円形の王城の北側は学園地区と呼ばれている。その学園の西側に学生が1500人の帝国学院という教育施設。東側には専門棟、研究棟と言われる研究施設がある。教育と研究の帝国の聖地である。その学院の敷地に近い王城に入るための門の前に学生が集まっている。


「よーっし。3組100人とあと4人か。」


と、引率のブラックボード先生が門の番兵に訪いを告げようとすると、中から大門が開けられクレマが立っていた。


「やっ!クレマ、何でそんなとこにいる。」


「遅れるとまずいと思いまして、ちょっと早く来過ぎたらこんなことになっちゃいました!」


「あ~、まあいい。じゃ行こうか。」


「あ~、男子はこちらの従者(フットマン)に付いて行って下さい。女子はこちらのメイドさんに付いて行って指示に従ってください。」


と、言いながらクレマはルイに走り寄る。


「なんで、ファイとベイシラが居るの?」


「さあ~、寮に残っていたから連れてきた。」


「まさか、クリスやテヒ狙いじゃないでしょうね。」


「それは、聞いてみないと。」


「ま、いいわ。喧嘩しないでね。」


と、顔を寄せて囁くと女子の集団に走り寄っていった。


「ルイ、今のはなんだ。」


と、ファイがルイに言い寄る。


「クリスがいないから、喧嘩するなってさ。」


「なんだそれは。ところでなんで第5のベイシラがいる。」


「お前と同じだろう。」


「何が!」


「テヒ絡みだろう。」


「テヒ?あの黒髪の妖艶か、」


「知らないのか。テヒとベイシラはひと夏一緒に過ごした仲だ。」


「え~!」


 そんな二人の肩に手をかけて割り込むように顔を覘かせ、


「ルイ、冗談が言えるようになったのか。」


「事実だろ。」


「事実だが誤解を招くよ、その言い方じゃ。」


「では、なんと言えば良かった?」


「テヒの実家にひと夏お世話になったかな。」


「え~!それって・・・」


「余計、ややこしくなっていないか。」


「事実だからしょうがない。」


・・・・・・・・


 テヒに駆け寄ってクレマが話掛ける。


「ベイシラが来てたわ。」


「知っている。」


「もしかして・・」


「あなたのとことは違うわよ。」


「じゃなんで?」


「星屑の湖に興味があるらしいわ。」


「う~ん、要注意かしら。」


「いっそ、こちらに引きずり込んじゃえば。」


「テヒにしては大胆な表現ね。そこんとこの見極めはテヒに任せるわ。」


「ありがとう。」


「どういたしましてって、ところでファイはなんで?ルイはクリス狙いだろうって言うけど。」


「う~ん、ベイシラの観察によるとルイ狙いみたいよ。」


「なんで~、BL?、ライバル?」


「馬鹿。ルイの活躍とか強さとかに興味があるみたい。」


「それわね~、クリスやクレマが付いているからというより第3が押し上げているからよ。」


「押し上げる?」


「本人の努力だけじゃ出世できないって事。引きも押しもなければね。」


「押し代表はクレマね。」


「。。。。。。。、よろしく。」


・・・・・・・・・・・・


「いいの~、良いの~、佳いのじゃ~」


「どうしたの、何がいいのかしらオルレア」


「お~サンドか。前を歩く三人娘がの~、」


「緑のロングヘアがお好みなのかしら、」


「腰までの髪、長い笹耳、ほっそりとした手足、グラマラススレンダーも良いがやはり華奢な体躯じゃ、マニエリスムの極みの頸、あ~たまらん。なぜわらわは長笹耳に生まれなかったのじゃ。」


「オルレアは高身長に憧れがあるの?」


「我がクラスに長笹耳が三人もいたかの~、」


「ちがうわよ。エミールだけよ。あとは、2-4-19シアリと4-5-18ウタヂよ。」


「そうかそうか、眼福じゃ。」


「ニマニマして、涎が垂れているわよ。」


「いいのじゃ、かまわんのじゃ。」


「もうー、クリス~、何とかして~。」


・・・・・・・・


 大ホールに並べられた、宴席用のテーブルの一画に学生達と引率のブラックボード先生が座って打ちひしがれている。


「誰だ、軽作業だと言ったやつは。結構重いものを運ばされたぞ。」


「おかげで汗だくだ。」


「二百五十人以上のカトラリー何本あるのよ。」


「お皿だってそうよ。何皿のコース料理がでるの」


「壁の絵だってわざわざ変えなくても良さそうなものなのに、」


「モップを掛けても掛けても終わらない床ってあるかよ」


次々と不平不満が飛び出すが、一人の老人が入ってきて、ぴたりと止まる。


「あー、学院生諸君。今日は突然の呼び出しに答えてくれてありがとう。いや、本当に助かった。これで帝国王家の面目も保たれるというものだ。お礼に夕食を馳走するので許してほしい。」


「どうか、ご心配なさらず。学院生を代表して・・」


「わらわが挨拶をするぞ。」


(おい此処はルイだろ)(おじゃ姫は引っ込んでろ)という囁きを聞こえぬとばかりに


「なかなか面白い体験であった。眼福でもあった。食事も期待するのじゃ。良しなに頼む。」


「これはこれは、率直な感想を、では食事を楽しんでいってくだされ。」


そう言うと老人は部屋から退出する。途端、


「オルレア~。」


と、クレマが立ち上がる。


「ここは王城よ。帝国王室の居城よ。何なのあの横柄な口の利き方。少しは弁えなさい。」


「気にするな、クレマ。あの爺やが帝王陛下でもあるまい。」


「そうだけど、」


「食事が冷める前に頂くのじゃ、ルイ。食前の祈りを唱導するのじゃ。」


・・・・・・・・・


 ひとしきり、皆が食べ終わると、オルレアが、


「何とも微妙じゃの。美味いと声を上げるほどではないが、不味い訳でもない。学生だから量があれば文句はなかろうという意味では正解であるが。」


「何言っているの。食べ終わったらなら、食事終わりの祈りを上げるわよ。」


「うむ、ルイ祈りの後は作って頂いた方々に感謝して器を洗おうぞ。」


「みんなやっているわよ。あなたも手伝いなさいオルレア。」


「わらわはくちくて動けぬのじゃ。」


「いい加減にしなさい。あなたの崇拝者ががっかりするわよ。」


「早めに現実を突きつけるのも優しさなのじゃ。」


そんなじゃれ合いをしている時、ブラックボード先生が


「お~い、聞いてくれ。今、王城の家宰様から書状が来た。内容は、給仕の従者(フットマン)給仕の侍女(パーラーメイド)が20名づつ手配が付かないので困っているそうだ。それで、素性身元がハッキリしている学院生に頼めないかという内容だ。」


「え~!」


「因みに謝礼はたっぷりと弾むそうだ。」


「そうはいっても。」


「どうする。早く決めてくれという事だが、」


「ルイ、班長会議を開いて決めたらどうじゃ。」


「そうね。オルレアの言う通りね。ルイ、班長会議を開いて決めてね。」


・・・・・・・・・・


「それじゃルイ、班長会議の結果。クラス全員で仕事を請け負うという事ね。」


「そうだ、クレマ。折角の休みを40人だけに潰させるのも忍びない。王室主催の饗宴なんて一生、縁のないものと思っていたので全員で参加する形を取りたい。」


「じゃ、全員で引き受けるという事で交渉してくるわ。」


「頼む。できればそれなりの給金が出るのが望ましい。」


「分かったわ。そこそこ期待して欲しいわ。」


「こういうことはクレマがいいのじゃ。よきに計らえ。」


「ほんとにオルレアはお気楽ね。」


・・・・・・・・


 30分も経ったろうか、突然扉が開いてクレマが戻ってくる。


「交渉成立。全員に金貨一枚という事で。」


「金貨1枚と言えば並みのメイドの半月分の給金ぐらいだろう。そんなに高くていいのか。」


「もちろん条件付きよ。まず、給仕係り以外は厨房その他で一日働くこと。」


「まー、当然だな。」


「給仕係は、朝から饗宴場の掃除、テーブルの飾りつけ等、一切を行う事。」


「それも、至極当たり前ね。」


「給仕係りの者は、王室の饗宴にふさわしい技術を習得してくること。」


「そう言われればそうか。」


「給仕係りはギルド資格に鑑み。男子は身長175以上であること、女子は165以上が望ましい。」


「え~!身長制限があるのかよ。」


「そうね。これは王室の様な一流どころでは一流の従者(フットマン)を揃えるけど、一流のフットマンの資格は身長180以上なの。これでもかなり譲歩してもらったのよ。」


「なんでだ。」


「見栄え優先だから。」


「ルイが175だけど、それ以上のものは20名しかいない。ので、譲歩してもらったのよ。」


「ギリギリか。」


「女子はシルエットをそろ得るのが条件だけど。ルネ、男子の給仕係りを纏めて、女子はグレースお願い。」


・・・・・・・・・・


 クレマとグレース、ユニが顔を寄せて相談している。


「テヒは表に出さない方がいいわね。」


「やはり、お酒が入るとめんどくさくなりそうですね。」


「後、クリスやベスはちょっと身長が高すぎない?」


「オルレアも表に出ると面倒くさいですね。」


「まあ、身長が足らないからと納得させるわ。」


そんなところへ、ルネがやって来て、


「クレマ。アダンとガッパーナが絶対嫌だって。」


「そう、やっぱりね。そう来ると思っていたので腹案はあったのだけど・・・いっそファイとベイシラに頼みましょ。」


「いいのか、」


「乗り掛かった舟よ。それから、ジョーも外して。厨房にテヒが入るので助手がいるの。」


「代わりに誰を?」


「クリスを入れましょ。黒服を着せれば十分男前でしょ。」


「それはそうだが、いいのか。」


「きっと本人もひらひらのスカートでいるよりはそっちの方がいいはずよ。」


・・・・・・・・・・


「ハーイみんな聞いて、給仕係りの人はよろしくね。アダンとガッパーナは宴席には慣れているでしょうから、明日からの練習の指導役をお願します。その他の人は明日はここで本番を想定した練習をしますのでお客様役など適宜協力をお願いします。」


一同を見まわしてから、クレマが続ける。


「明日はテヒが厨房に入って練習用の料理を作ってくれます。全員分有りますから・・・」


「ウォーーー、」


「ほんとにみんな現金ね。食研以外の手の空いている人も厨房を手伝ってね。」


・・・・・・・


「おい、ベイシラ。何だか巻き込まれてしまったが、何でみんな喜んでいるんだ。」


「それは、明日のお楽しみだな。ファイ、お前の驚く顔が目に浮かぶよ。」

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