103 夏の休みのモンタージュ
教育大隊建屋の前には第三中隊が残っていた。
「残っているのは私達だけね」
「アシリオ中隊長とクレマが中佐の所から帰ってくるのを待っていたのよ」
「ごめんね、遅くなって。ちょっといろいろ事後処理があって」
アシリオ中隊長がクレマを見ながら肩をすくめて
「ちょっとした事務手続きがあって、それとソシ中佐から改めてお褒めの言葉を頂いた。みんな3か月間よく頑張り通した。九月から始まる帝国学院の学業もこの調子で頑張ってくれ。と、それでだが、恒例として毎年新兵訓練終了時に中隊にニックネームが付けられる。それが通称となっていくことが多い。大抵は成績一番の者の名前を取って例えば“74アシリオ中隊”と呼ばれるようになる。」
一息ついて、中隊長はみんなを見渡す。
「君たちには悪いが、困ったことに私には誰が一番だったのか決められなかった。そこでソシ中佐に相談したと思ってくれ。そしたらだ、ソシ中佐はこうおっしゃった。“831オーカーベレー中隊”と」
全員が?マークを浮かべる。誰かが
「オーカーベレーは分かりますが、831は何の数字ですか?76は付けなくていいのですか」
「君たちがそう思うのももっともだ。なに言うこの私も同じ質問をソシ中佐にしたのだ」
全員が次の言葉を待って静寂を保つ
「ベレー帽部隊を君たちは知っているな。軍の特殊部隊だ。今のところ、緑と鳶色と紅がある。そのうち二つがソシ中佐麾下の部隊だ。」
アシリオ中隊長が話を続ける
「緑ベレー帽特殊戦闘工兵は三個中隊750名、鳶色ベレー帽特殊任務工兵は二個小隊40名、紅ベレー帽特殊攻撃兵は二個中隊500名が現在存在している。ここに君達が加わることになった」
学生の一人が
「どういうことですか」
「黄土色ベレー帽特殊暗号831部隊が君達100名だ。これは非常に栄誉な事である(たぶん)」
「中隊長、オーカーベレーは分かります。記念に作ったこの帽子ですよね。それで、その831とはなんなのかをご説明下い」
「それは特殊暗号につき公表できない。暗号解読は各自でやってもイイが、決して他者に教えてはいけない。・・・もうすぐ、帝都行きの馬車が出る。今日中に学院宿舎につきたい奴はサッサとしろ、以上、解散。」
「無理やり解散だな」
「ちょっと、うるうるとか、肩を抱き合うとかが欲しかったが」
「何、9月になればみんな帝都の学院で顔を合わせるんだ。怪我とかせずに帰って来よいよ」
「お前もな。ところで、おれは帝都に実家があるからいいが、遠方に実家がある奴はどうするんだ」
「みんないろいろ計画を立てているさ。実家が大きな奴は何人か気のい合うやつを誘って一緒に夏休みを楽しく過ごすようだ」
「うちはしがない商売人だから誰も声をかけてくれなかったのか」
「そういう事だ。気を使ってな、そう落ち込むな」
「いや俺も帝都以外で夏を過ごしたい」
「気持ちは分かるが、来年だな。あまりに遠すぎたり山の中の一軒家から出てきた奴らはこの機会に帝都見物を計画しているから、そいつらの案内役をやればいいんじゃないか」
「それもそうだな、何人ぐらいいるんだ」
「10人はいたと思うぞ」
「意外と多いのか少ないのか」
「ベスみたいに、3週間かけて実家に帰って3週間かけて帰る奴もいるがな」
「それじゃ、予備日を考えたら3日も家に居れないな」
「学生の身分じゃ豪華な馬車は雇えないし」
「乗合馬車がある奴はまだいいよ。帝都を出て街道を外れたらほとんど歩きだぜ」
「雨にでも降り込められたらあっという間に1週間は川止めだから、馬を借りるのも考えないとな」
「徒歩だな」
「トホホホホ歩」
この小説を書き始めた頃、高畑充希の「夏のモンタージュ」をかけながら書いていました。