102 祭りのあとの
余韻のあとに静寂が訪れ、夢から覚めるように人々が呼吸を取り戻す。
「嬢ちゃん」
「ハイ大佐殿!」
「最後のは、一字信号かな」
「ハイ!」
「つまり確か、チャーリーは“YES"だったかな」
「・・・。」
「何に対するイエスなのかな?」
「・・・・。」
「確か、ドラム通信のトントンが8回に、ドーンドーンが3回、ジャーンが1回だったな」
「・・・・。」
「乱数暗号かな」
「・・・・。」
「8,3,1の定型暗号があったかな」
「それは、と、と、特務暗号です!」
「特務かー!」
・・・・・・・
閲兵式を終え、教育大隊500名は練兵場を見下ろす位置にある復活した教育大隊本部建屋の前に集まっていた。
「素晴らしい行進であった。昨日の前夜祭に続き私も非常にうれしい。あとは各中隊の教官の指示に従ってくれ。では、9月1日には帝国学院生として元気な姿を見せてくれることを願って解散とする。」
ソシ中佐の挨拶で解散となり、各中隊に分かれていく。
「ルイ、借りた楽器を教育大隊本部の倉庫に奇麗にして返して、私は中佐に呼ばれているので後はよろしく」
とクレマはアシリオ中隊長と共に本部建屋の中に消えていく。
・・・・・・
「さて、何をどうしたものかな」
ソシ中佐が事務室の質素な机の前でつぶやく。
「そこはあれがなにでなかなか良かったと云う事に・・・」
「アシリオ中隊長、貴様にはあれを見ていなかったのか」
「あれと言われますと」
「トントントンだよ」
「一応見ておりましたが、ちょっと変わった演出でしたね」
「フン、とぼけおって、2,000人の目の前でトントントンだぞ」
「その後の三回転スピンは流石に社研の学生と言うべき華麗さでした」
「何を寝言を言っている」
「しかし、誰も気づいておりませんでしょう」
「気づいていないと言うところを見ると貴様も理解したのだな」
「いえ小官は何も気づいておりません。ただ、感動していただけであります。」
「お前はそこで寝ていろ。クレマ大尉、連隊長はなんとおっしゃていた」
「ハイ、特に何も」
「何もとはなんだ!!」
「乱数暗号かなとは仰いましたが」
「それで何と答えた」
「別に」
「べー、つーー、にー!」
「ひぃぇーっ。特務暗号と答えましたー」
「何が特務だー!」
「すいません」
「すいませんですむか、ちょっと気の利いた奴なら気づいたはずだ」
「そ、そ、そんなー」
「カラーガードの手旗信号では何を送っていた」
「ハイ、教育大隊学生の感謝の気持ちとして"ダンケ”を発信しました」
「古い兵隊経験者なら平打ちされた信号くらいは読むだろうが、ダンケを理解する奴が如何ほどいるか」
「連隊長は理解されていました」
「それで、返信信号が“U-W”か」
「ハイ、二字組定型を知っているのは通信兵上がりしか居まいが」
「あのー、U,Wとはどういった意味でしょうか?」
「アリシオ中隊長、貴様臨時戦時処置ととわいえ、少佐格までこなしたものが二字組定型信号文も知らんのか」
「すいません。そう言われましても、小官は単なる士官候補生ですので」
「情けない奴だ。“貴官の前途を祈念する”だ。」
「成る程、ダンケに対して中々気の利いた返信ですね」
「貴様は寝ていろ」
「ハイ、寝ております。」
「クレマ大尉、連隊長が帰り際に私になんと仰ったかおしえてやろ~か~」
「ハイ、よろこんで」
「“帝国の暦に8月31日があればよっかたのに”だ。」
「ひぃぇーっ、ばれてる~」
101話が行方不明になり、書き直したら、非常に不親切な話になりました。行方不明の101話ではネタバレていたのにすいません。分かる人にしか分からないという大胆な告白でした。