101 ドラムライン
黄色の中隊旗の先導で教育第3中隊60名が退場して行く。するとドラムメジャーが敬礼ゾーンの中央に進み出て回れ右をしてドラム隊と正対する。やや足を開き中央に指揮杖を地面に立て、その先端に両掌を重ね置く。
前列中央の黄土色ベレー帽のスネアドラムがサインを打つと。先頭の五台のバスドラがベースビートを打ちならしながらステップを踏み出し移動する。それに続いて前列全体がステップを踏み、隊列を組みかえる。前列のテナードラムが踊るバスドラの間を抜けて後ろの15台のテナードラムと合流し一団を作る。5台のスネアドラムが黄土色ベレー帽を中心に最前列を形成し、5台のシンバル隊が右翼を、同じく5台のマルチタムが左翼を形成する。隊形が整うとドラムメジャーが式台に向き直り敬礼の後、指揮杖を一閃する。すべてが停止し、静寂の訪れを確認するとドラムメジャーは再び指揮状を一閃する。
一台のマルチタムがファンファーレの如くドラムライン演奏の開始を宣言する。
スネアドラムの一糸乱れぬスティックワークが粒だつドラムロールのあと華麗なフレーズを打ち出す。
シンバルが金属の光を煌めかせながら振り上げられ打ち鳴らされ回転してミュートする。
バスドラが白いドラムヘッドを見せつけながら踊る。
マルチタムが豊かな音色で華やかなメロディアスなサウンドを響かせる。
しかし、その場を支配しているのはテナードラムであった。マレットの叩きだす少しくぐもった音が愚直にすべてを下支えする。不動の姿勢が断固たる意志を貫き通す。
ドララムラインの演奏が終わった瞬間は、向こう正面から折れ曲がり再び式台に向けて行進して来ていた各中隊がドラム隊の後ろに整列し終えた瞬間だった。
全員が待っていた。静寂の中、次に起きる事を待っていた。2000人を超える人々が酔いしれながらも次の出来事を待っていた。
衆人環視のなか突然、ドラムメジャーが振り返り普通に歩いてスネアの前に行きオーカーベレー帽のマルチタムとバスドラムとシンバルを呼び寄せる。それぞれに指示を出し、自身は式台に向き直る。スネアが優し気なドラムロールを開始する。
マルチタムが一番高い音で、トントントントントントントントン。
続いてバスドラムが ドーンドーンドーン。
そしてシンバルが ジャーン。
暫くして、再び、
トントントントントントントントン。
ドーンドーンドーン。。
ジャーン。
またそれが繰り返された時、
クレマはすかさず手旗信号を送る。
それを見たドラムメジャーが高く高く指揮状を空に投げ上げる。高く舞い上がった指揮杖はクルクルと回転しながら落ちてくる。ドラムメジャーは三回転を決め華麗にバトンをキャッチする。
途端、スネアの甲高いコールサインが鳴り響く、500名の教育大隊が威儀を正し、ドラムメジャーは式台に向かい敬礼をする。万感の思いを込めた長い敬礼が終わり、回れ右をしたドラムメジャーが鋭く声を発すると、マルチタムが華やかなコールサインを打ちならした。
コールサインの終わりと共に全体が回れ右をして後ろを向く。第1中隊の青いリボンを付けた五人がドラムマーチを演奏し第1中隊の後ろに着く。カウントのリムショットで第1中隊は中隊旗を残して退場の為の行進を開始した。やがて、赤いマフラーを首に巻いたドラムチームが第2中隊を誘導して行く。続いて白いネッカチーフのドラムチームが第4中隊を、黒いバンダナのドラムチームが第5中隊を連れ去って行く。
黄土色ベレー帽を被った20人のドラムチームが第3中隊を連れ去って行く、重厚なテナーのサウンドをフィールドに響き渡らせて。
最後に指揮杖を捧げ抱きドラムメジャーが五色の中隊旗を従えて退場ゲートの中に消えていった。