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僕らの爛れていない性生活

僕らの爛れていない性生活 第四話 「爛れていない性生活」

作者: カギ野あや

タイトルの元ネタみたいな作品です。

今までの作品とは少し違う感じですが、楽しんでいただければ幸いです。

春夏秋冬どんな時でも飲み会ばかりやっているサークルというのはどこの大学にも存在する。

かくいう私、藤堂みおりもテニスサークルという名の飲みサーに所属している。

年中飲み屋でバカ騒ぎし、たまにテニスをしたかと思えばそのお疲れ様会でまた飲む。

時間とお金の無駄遣いに思える生活だけれど、大学生らしくて私は案外気に入っている。

友達もなく、静かに4年間を過ごして大学生活を終えるよりもきっとずっと楽しいはずだ。

私たちのサークル活動は楽しむことをメインにテニス以外にも旅行に行ったりバーベキューをしたりと色んなことをするのだが、基本的には同じ大学の人間だけで行う。

そんな普通が今日は少しだけ違う。

サークルメンバーの一人がほかの大学の知り合いと連絡を取り一緒に飲み会をやることになったのだ。

男女の人数調整をしているところからさながら合コンのようで私は気乗りしなかったけれど、人数が多いこともあって参加することにした。



飲み屋に着いたのは私たちが先だったようで、席に通されて勝手に注文を始める。

予約してある席の数からして向こうも大体同じくらいの人数いるようだ。

向こうの大学には可愛い子がいるだろうか、かっこいい人がいるだろうかと、注文を終え準備が完了するといつもの飲み会の調子が始まる。

「みおりも気になるよな?向こうの大学のイケメン。だってな・・・」

意味ありげに下種な笑みを浮かべながら馴れ馴れしく私の体に触ってきたのはこの間の男。

「ちょっとやめてよ~。セクハラだよ~?」

にこにこしながら強めに手を叩いておく。

この間気やすく寝たのが良くなかったのかもしれない。

こういう輩がいるから男は嫌なのだ。

たった一回シたくらいでこいつはヤれると勘違いしたり、彼氏面したり、それを拒むと尻軽だなんだと言い始める。

おしゃべりもうまくて顔もそこそこだったから一度試しで誘ってみたのだがイマイチだった。

付き合った後に急に面倒くさくなるタイプはエッチ自体が下手なことが多い。

そもそも自分に自信がないから余計な束縛やこういう場所でのうざ絡みをしてしまうのだ。

そんな男には興味ない。

モデルもしていた経験があり、自分で言うのもなんだが美人な私はよくモテるのだ。

わざわざそんなしょうもない男と付き合う必要なんてこれっぽっちもない。

今日だって奇しくもこの男がさっき言っていたイケメンの顔を拝みながら夜を明かそうと思ってきたのだから。

おしゃべりの途中で注文していた飲み物やらつまみやらが届き、一旦会話が落ち着いたところにタイミングよく向こうの大学さん一行が到着した。

この場をセッティングしたうちのメンバーがすぐに彼らを出迎える。

一人遅れているそうだが、こちらも男女のバランスが良い。

それとなかなかよさげな男がちらほらいる。

私が男たちの品定めをしていると、向こうの大学のこの場をセッティングした人が私に声を掛けてきた。

「君が藤堂みおりちゃんだよね?」

頷くと、勝手に自己紹介をしてきた。

それから私の隣に勝手に座り、話し始める。

正直タイプではない。

顔もそんなに良くないし。

「モデルやってたんだってね。みおりちゃん可愛いもんね!」

くだらないお世辞を言いながらさらりと下の名前になっている。

大学の飲みサーとかそういう遊んでいる系の人たちにはよくあることだけれど、こういうのに急にされるのはあまり好きじゃない。

適当に相手していると顔がだんだん下種くなってきてますますあり得なくなってくる。

話題が下の話になってきたところで、仲良くなれば私とヤれると思っていることに気が付いた。

大方この場をセッティングした時にでも聞いたのだろう。

この男は好みではないけれどうちの大学の、この男の友達の方は無しではなかったので何度か寝ている。

サークルの男子の中では私が何人かと寝ていることがそこそこ広まっているようなので、誰とでもすると勘違いされても仕方のないことだ。

発情顔で必死に喋りかけてくる下品な男にげんなりしていると、遅れていた一人が店に入ってきた。

彼が噂のイケメンだと一目でわかる。

なぜならイケメンなのだ。

背が高くすらりとして目鼻立ちも整っており、なにはともあれイケメンだった。

私はすぐに話を切り上げ彼が座った席の方に移動する。

去り際に小さな舌打ちが聞こえてきて、ますます気分が悪くなったのですぐにその美しい顔に癒してもらわなくてはならない。

「ねぇ、隣いい?」

「別にいいよ」

私に対してさえ完全に上からな態度も純正イケメンを感じさせてくる。

彼はすぐに店員を呼び止めあれとこれと、と注文を入れた。

「結構頼むんですね?」

「まあね」

私の純粋な感想にも素っ気ない対応。

堪らなくはあるのだが、せめて顔だけはこっちに向けてほしい。

ちらりとテーブルに置かれた手を見ると、細く美しく伸びた指は人差し指より薬指の方が長い。

人差し指より薬指の方が長い人は男性ホルモンが多めで何とは言わないけれど大きいらしい。

私の経験的に間違いではないと思われる。

これは期待が膨らむ。

とにかくお持ち帰りへのルートを作ってあげなければ。

「名前聞いてもいいですか?」

「羽橋亮」

「はばしりょうさんですね。なんて呼べばいいですか?」

「好きにして」

「じゃぁ、羽橋くんって呼びますね。私は藤堂みおりって言います。私のことも好きに読んでください」

「ん」

「・・・・えっと何年生なんですか?」

「2年」

「そうなんですね!私も2年なんです!」

「・・・」

投げたボールが全く帰ってこない。

若干ショックを受けている私の様子を気にかける素振りもなく、羽橋くんは料理が来るとすぐにそれを食べ始めた。

一応取り皿に取ってはいるけれど、ほとんど一人で食べている。

「お腹すいてたんですか?」

「まぁそこそこね」

「へー。沢山食べる人っていいですよね!」

「そう?」

「はい。健康的で素敵だと思います!」

「ふーん。まぁ俺そんな食わないけど」

初めて質問への回答以外の言葉が返ってきた。

嫌味かな?

「あー、質問ばっかりでごめんなさい。鬱陶しいですよね」

「まぁ?」

「・・・・そ、そうですか。すいません」

「うん」

イケメンは私の方を全く振り向かない。

横顔も素敵だ。

ただ全くこちらの会話に乗ってこないことだけが問題。

これではお持ち帰りルートが。

というか羽橋くんは私をお持ち帰りしたくないのか?

今まで出会ったことのない対応に私もどう振舞っていいのか戸惑う。

そんな時横から助け舟が。

「こいつ愛想ないから喋っててつまんないっしょ?」

「え!?いえそんな。ちょっと対応が冷たいのが寂しいですけど」

「あははは!言われてんぞ、亮!」

「だから?」

「ちょっとは話せって!ね?」

「え、まぁ。私も羽橋くんともっとお話ししたいです」

「ってかタメでしょ?敬語やめよやめよ」

「いいんですか?」

「いいのいいの。こいつも気にしないし!」

「じゃ、じゃぁ。タメで、いくね?」

声を掛けてきた男子から歓声が上がる。

なるほど、こうやってイケメンを餌にした釣りをしているのか。

既に酒をあおって気分が良くなっているらしい向かいの男子はそのまま3人で会話を始めてくれる。

「ねぇねぇ、そっちは普段どんなことしてんの?」

「うーんと、テニサーだからもちろんテニスとか、月一くらいでバーベキューとか。でも一番は飲み会かも」

「あー分かるわそれ!うちもだわ」

「羽橋くんは何学部なの?」

「理工学部」

「へー!どんなことやってるの?」

「俺も理工学部だよ。理学部と工学部の合体みたいなやつ。ホント色々やんの。もう理系の中でもトップクラスに大変だと思うわ」

「へー、そうなんだー。羽橋くん的にも大変なの?」

「まぁ」

「いや、絶対大変だから!みおりちゃんはどこの学部行ってんの?」

「私は数学とか難しくて駄目だから、文系で文学部」

「あーまぁ女の子って理系教科苦手な子多いもんね?うちの学部も女子全然いないもん!」

「へー。じゃぁ学部内で出会いとか少ないね。羽橋くんは彼女とかいるの?」

「いない」

「そうなんだー!かっこいいのにね!」

「こいつこんなだから全然女子と話さねーのよ」

「えー、もったいないよー!ねぇ、もっと話そうよ!」

・・・3人で会話はしていないかもしれない。

向かいの男子が私に話し、私が羽橋くんに話しかけている間も、羽橋くんはもっきゅもっきゅと机の上の料理を片端から平らげていた。

一皿一皿は大した量ではないけれどさすがにお腹いっぱいにならないのだろうか。

そろそろ食べるのは休憩にしてほしい。

と思っていると、羽橋くんは料理を食べる手を止めた。

「あ、羽橋くんお腹いっぱいになったの?沢山食べてたもんね!」

「まぁね。てことで俺帰るわ」

「うん!じゃぁ・・・・・え!?」

突然の帰宅宣言に驚きを隠せない。

そもそもが遅れてきたのにご飯だけ食べて真っ先に帰るのか。

いそいそと帰り支度を始め、羽橋くんは席を立つ。

「じゃぁおつかれ」

「え!?ちょ、私も帰るね!」

「え!?嘘でしょ!?みおりちゃん!?」

私も荷物をつかんで駆け出すと後ろで悲鳴のような声が聞こえた。

向かいに座っていたあの男子も悪くない顔をしていた。

けれど羽橋くんに比べれば。

「すいません。ちょっと調子よくないみたいなんで」

「え!?じゃぁ俺送ってくよ!」

「いえ‼大丈夫です!羽橋くん、送ってくれるよね?」

「え。・・・あー、まぁいいけど」

「えーーー」

ショック顔のこの男子はまた機会があれば頂いてもいいかもしれない。

羽橋くんと店を出る。

「あんた家どこ?」

「薄木」

「電車じゃんかよ。送るのは駅までな」

「うん。わざわざごめんね」

「いや・・・」

一瞬照れたのかと思ったけど、お前が言ったからだろ、の顔をしていたので違うようだ。

しばらく他愛もない会話、と呼んでいいのか分からない代物を交わしながら歩いていたが、駅前の繁華街の近く、あるポイントに来たので少し立ち止まる。

「やっぱりちょっと調子悪いみたい。少し休んでもいい?」

「えー。まぁいいけど」

「・・・でもこの季節はまだちょっと冷えるよね。どこか落ち着ける場所で休憩しない?」

「この時間だと飲み屋くらいしか開いてないぞ」

「あ、ちょうどいいところに休憩所があるよ」

休憩所=ラブホ。

「まぁ、あそこで休みたいなら別にいいけど」

羽橋くんは非常に素っ気ない人だ。

けれどラブホに入るのも抵抗しないし、というよりそもそも拒否をしない。

当初の想定とは違うけれど結果としてはお持ち帰りされたのと全く同じと言えなくもない。

あとはここで二人の熱い夜を過ごすだけ。



「無理」

拒否された。

「え、えーと・・・・」

『体が火照ってきたの。鎮めてくれない?』なんてベタなセリフでベッドに横になり誘惑したら即答された。

「それつまりセックスしろってことでしょ?嫌だよ」

急にはっきり喋りだしたと思ったらすごい辛辣。

「え、その、なんで?」

素で聞いてしまった。

いやビッチすぎだろと内心突っ込む。

羽橋くんも同じ思いなのか薄笑いを浮かべ、一切の躊躇なく言い放った。

「だって俺処女厨だもん」

「は?」

「だから処女にしか興味ないの。恋愛対象は処女だけなの」

「ちょっと意味が分かんないんだけど」

「は?バカなの?言ったままなんだけど」

「え、セックスしたくないとかそういうこと?EDなの?」

「EDじゃねーよ!」

羽橋くんは鼻を鳴らしてベッドの上の私を見下す。

「他人の手垢のついた女とか普通に嫌だろ。それに加えてその女の前の男と穴兄弟とかマジでありえねー」

「なー!何なのよ急に饒舌に喋るようになったと思ったら私を貶すようなことばっか言って!」

「急だと思うのはお前がさっき会ったばかりだからだ!さっき俺は話す気分じゃなかった、それだけだ!そしてそんな出会ったばかりの男とホテルに入るお前のようなクソビッチを貶して何が悪い!?大体お前こそさっきまでのぶりっ子はどこいったんだ、本性が出てるぞ!」

「あれはあんたら男が喜ぶようにやってあげてんのよ、むしろ感謝しなさいよ!てかなによ処女厨って!ただの変態じゃないの!キッモ!」

「あん?手垢付いた女嫌だろーが!」

「失礼だって言ってんでしょ!体くらいちゃんと洗ってるわよ!」

「そういう問題じゃねーだろ!穴兄弟だぞ!どうせあのサークルのやつらとヤりまくってんだろ!?名前も知らない奴らと穴兄弟なんて無理だから!」

「そ、そんなヤりまくってなんてないわよ!」

「じゃぁ、最後にセックスしたのはいつ誰とだよ、言ってみろ!」

「そんなこと言えるわけないでしょ!」

「いつやったかは聞かなくてもわかるぞ!確実に2週間以内だ」

「そ・・・れはそうだけど。分かってないじゃない!2週間って範囲広すぎんのよ!」

「彼氏もいない女が2週間も空けないようなスパンでセックスしてたらそれはヤリマンって言うんだよ!」

「うっさい!イケメンと寝て何が悪い!」

「他人の手垢だらけの女となんか寝たくない」

くっそ。

この男ただの変態なだけじゃなくとんでもなく偏屈だ。

「あなたセックスしたことないんでしょ?試すこともせずに一方的に貶すなんて酷くない?一回してみればわかるわよ。穴兄弟なんて意識の問題だし」

「お前人の話聞かねーな。手垢だらけの女は嫌だって言ってんだよ。」

「お風呂でしっかり洗ってるって言ったでしょ!?」

「だからそれが違うんだってば。わっかんないかなー」

「分かんないわよ!」

「そもそもさ、なんで俺があんたとセックスしなくちゃいけないわけ?俺は処女にしか興味ないんだけど」

「好きな子としかシないなんで案外初心なところもあるのね?」

「うん。だっておれお前みたいな淫獣とは違うからね」

いらっ

「大体あなた処女にしか興味ないなんて言ってるけど、好きな子とはするんでしょ?ならその子はもう処女じゃないじゃない」

「いや、しないよ?」

筋金入りの変態だった。

「しないの?」

「しないけど」

「相手が懇願してきたら?」

「え、やっぱするかも」

「ほらー!」

指さして大声を出してしまった。

ちょっとはしたなかったかもしれない。

「うん、確かに言われてみればその通りだな。好きな子がセックスできなくて欲求不満になって寝取られたり俺のことを嫌いになったり、よしんばそこまでいかなくとも辛い思いをさせてしまうのは避けたいな」

一瞬でしかも一番最初にNTRまで妄想を膨らますこの変態はもう手遅れなのかもしれない。

「じゃぁやっぱり手垢の付いてんのが嫌なんだ」

「その手垢って具体的に何よ?そもそも人の細胞は約2か月で全て交換されるのよ?体を洗う以前に別のものになってるんだから関係ないじゃない」

「いや、その理屈だとお前の細胞は新しくなってないよな?」

「ひ、皮膚細胞はもっと交換が早いのよ!」

「どんくらい?」

「一か月くらい?」

「変わってねーじゃん!」

ぐっ。

とりあえず話を逸ら、戻して。

「とにかく!あなたはセックスをしたことがないからその潔癖をこじらせてやらない理由を作ってるだけなのよ。実際したことあるかどうかなんて経験と膜のあるなしくらいの差よ」

「それ結構でかいだろ」

「膜なんて運動でなくなることあるし、経験なんて本人にしかわからないんだからシたことあっても初心な子は初心だし、シたことなくても慣れてそうな子はいるわよ」

「ま、まぁ言いたいことは分からんでもない」

「でしょ?」

「しかしなー」

これは。

一見全くの脈なしに見えていたけれど、ここに来て羽橋くんが悩んでいる。

あともう一押しがあれば。

「実際のところ初めての子とのセックスなんて大したことないわよ。相手の子は痛がるから上手くいかないし、テクもないし。いいことなんて初めてをもらった達成感くらいのものよ」

「いや締め付けが・・・」

緩いって言いたいのかコラ。

「それに初めてをもらうのもいいもんだろ」

「それはあなたが処女とする理由にはなっても処女としない理由にはならないでしょ?」

「言われてみれば確かに」

「だ、か、ら、私と一回、シてみましょ」

羽橋くんが口を開く。

いける。

遂にイケメンと熱い夜を。

タララ、ラララ。

羽橋くんの携帯が鳴った。

「あ、時間だわ。出なきゃ」

「は?」

「泊りで部屋取ってねーもん。金が余計にかかるし出るぞ。調子も悪くなさそうだしな」

「え、いや、ちょっと。今する雰囲気だったじゃない」

「いやしねーよ。そもそも手垢問題俺の中では解決してねーし。あ、料金は当然お前持ちな」

「あー!この守銭奴!」

「いや当たり前だろ!夕飯奢られに来ただけなのになんで来る必要も無いホテルで金使わなきゃいけねーんだよ」

「あたしだってただの休憩でこんなとこ使ったのは生れてはじめてだわよ!」

あー、お店で気が付くべきだった。

この男はサークル活動をするために所属しているのではなくご飯を奢ってもらうために所属しているのだ。

サークルは女の子寄せとして活用し、その見返りにご飯を奢る。

この男はご飯を奢ってもらう代わりにサークルや飲み会の場に出席する。

それにしても出席していると言っていいのか微妙だったけれど、来た、サークルに所属している、その事実だけでも十分に効果はあるのだろう。

「駅までも送る必要なさそうだし、俺はこのまま帰るな。もっとここにいたいならお前はいてもいいぞ。お前の金だし」

そう言って後ろ手に手を振りながら羽橋くんは部屋を出て言った。

・・・・けどやっぱイケメンだ。

一応このお話が、最初にシリーズにしようと思った時にタイトルの原案として使った作品です。

もともとは18禁同人誌なら必ずなんだかんだ最後にはヤってしまうような展開になりながらも、シない。というのが趣旨のシリーズにする予定でした。予定、でした。

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