1、あなたを愛した罪を残して
前回の話を書き終わったので、次の話を書き始めました。
今回は逆行転生(と言っても一年ですが)ものです。
一応悲恋要素にカテゴリ入れましたが、基本恋愛ものです。
また見ていただける方がいらっしゃいましたら嬉しいです。
誰より愛したあなたを捨てて、
他の誰かに嫁ごうとした。
そうして私は死んでしまった。
あなたを愛した罪を残して。
私の名前はシェリア・ヴァンクリーフ、16歳。
ヴァンクリーフ辺境伯の末娘だ。
ヴァンクリーフ家は、チェスカ王国の西に位置する、モラヴァ地区を治めている辺境伯である。
ヴァンクリーフ家に生まれる者は、代々魔法を使えるという特技があった。
そのため基本的に高い戦闘力を持つ者が多く、隣国スロヴァンスカとの国境に面した、このモラヴァ地区を任されているのである。
この地区は、大地も肥沃で、自然に溢れていて、私はこの地域が大好きだった。
例に漏れず、ある程度の魔力を持っていた私にとって、薬草が沢山採れるこの土地は、まさに宝の山だったのである。
運命が動いたのは、私がいつものように、草原へと薬草を採りに行っていた時だった。
偶然、モラヴァ地区への視察に来ていた第一王子の一行に出会ったのだ。
チェスカ王国の第一王子、リューエイ・ライズ殿下。
颯爽としたその姿に、私は一目で恋に落ちた。
そしてそれは、リューエイ第一王子も同じだった。
リューエイ王子のモラヴァ滞在期間中に、私達は愛を育み、そして婚約するに至った。
私はモラヴァ地区を出て、チェスカ王室に嫁ぐ日を心待ちにしていた。
けれど、私は突然リューエイ王子を裏切った。
一方的に婚約を破棄し、チェスカ王国の養女になると、チェスカ王国の姫として、隣国のスロヴァンスカに嫁ぐことになったのだ。
理由も言わず、一方的な裏切りに、リューエイ王子はどれだけ驚き、悲しんだろうか。
けれど私は、リューエイ王子に二度と会うこともなく、釈明することもなく、命を落とした。
スロヴァンスカへと馬車で移動している途中に、何者かに襲われたのだ。
刺客であったのが、盗賊であったのか、詳しいことは分からない。
ただ私はそんな理由で、あっけなく17年の生涯を終えたのだった。
気が付くと、私は家の門の前に立っていた。
ああ、これが死後の世界だろうかと、私は目の前に広がる草原を眺めていた。
「シェリア様、薬草を採りに行かれないのですか?」
隣で侍女のアレナが話し掛けてきた。
「アレナ?」
「はい、どうかされましたか、シェリア様。」
「あれ?」
まるで、いつもの日常だった。リューエイ王子に出会う前の、私の日常。
死後の世界とは、今までの日常を繰り返すものなのだろうか?と思う。
「もうすぐ、チェスカ王国から王子様方が視察に来られるそうですから、今日の薬草採りは手早く済ませた方が良さそうです。」
けれど私は、このアレナの言葉に聞き覚えがあった。
この言葉は、私が草原でリューエイ王子と出会う直前に、侍女のアレナと交わしたセリフだった。
つまり、このまま薬草採りに出掛ければ、私は視察に来ていたリューエイ王子と出会うことになる。
時間が巻き戻っている…?
それとも、追体験しているの…?
怖くなった私は、行動を変えることにした。
「ごめんなさい、急に体調が悪くなったから、今日の薬草採りは中止するわ。」
私はそう言うと、踵を返して家の中へと戻った。
「シェリア様、大丈夫ですか?すぐに薬湯のご準備を!」
私の言葉に、アレナは慌てて薬の準備をしてくれた。
私はそんなアレナに支えられながら、自分の部屋へと戻る。
家は、怖いくらいに以前のままだった。
(やはり、時が戻っている…?)
あまりに現実味のある部屋は、とても死後の世界とは思えなかった。
ベッドに入った私に、アレナが持ってきた薬湯の不味さも、あまりにもリアルだった。
「大丈夫、シェリア?」
横になった私に、母が心配して様子を見に来てくれた。
「お母様…。」
母が私の額に手を当てる。
「あら…?」
そこで母の顔色が変わった。
「あなた、何か強い魔法を使われた気配がするわ…。」
「強い、魔法ですか…?」
「ええ、多分これは、時の魔法ね。国内にこれを使える人はまずいないはずなんだけど…。」
「時の魔法っ…!」
その言葉で、私は現状を理解できた。
私はやっぱり襲われてしまって、恐らくは瀕死のところを、誰かの魔法で時間遡行させてもらい、助かったのだろう。
「お母様、私、殺されたのです、一年後に、誰かに襲われてっ…!」
暴漢の刃が胸を貫いたのは、ほんのついさっきのことのようだった。
今さらながらに恐怖が甦る。
「え?どういうことなの?では誰かがあなたを時間魔法で助けてくれたの?」
「わかりません、たぶん、そうだと…。私、刺された時の記憶しか…。」
「シェリア、可哀想に、怖かったでしょう、痛かったでしょう、私の可愛い娘が、まさかそんな目に合うなんてっ…!」
母は私を強く抱き締めて、震える頭を撫でてくれた。
「きっとあなたは、誰かに助けていただいたのね、なんてありがたいんでしょうっ…!」
温かな母の胸に包まれて、私はようやく安心して、泣きじゃくったのだった。
ひとしきり泣いて、ようやく落ち着いた頃、ヴァンクリーフ家に、チェスカ王国の第一王子、リューエイ王子の視察隊が到着したとの報告が入ったのだった。