バイセクシュアルの私の話
こんにちはか、はたまたはじめましてか。
このページを開いてくださったということは、少しはお時間がおありなのでしょう。
ならば、数年も前から放置したままのこのアカウントを引っ張り出してまで書きたかった、書かずにいられなかった、私の話を聞いて行ってはくれませんか。
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LGBTという言葉は、最近ではよく耳にすることでしょう。
Lはレズビアン、Gはゲイ、BはバイセクシュアルでTはトランスジェンダー。
実際には他にも多数のセクシュアルマイノリティが存在しますが。
そして、私はこの中のB、つまりバイセクシュアルに該当します(少なくとも自分ではそう認知しています)。
初恋は幼稚園のとき。恋とは呼べないかもしれませんが、その時最も仲の良かった女の子が好きでした。
この子とはもう十年以上も交流が続いています。
その次は小学生の時。クラスに一人はいる、格好いいモテる男子です。
人生初のラブレターを書き、見事に玉砕しました。
そうして、初めて人と付き合ったのは中学一年生の時。この時のお相手は男の子でした。
趣味が合って、一緒に遊んだり学校で話したりしている内に自然と、のような感じでした。
ですが友達としての相性はよくても恋人としてはいまいちだったらしく、すぐに別れました。なぜかその後も交流は続いています。
そしてまた少し経って付き合ったのは、友人伝いに知り合い付き合った一つ年上の女の子でした。
その子とは半年あまりで別れてしまい、それから今日まで独り身です。
実は今紹介した人達の他にも好きになった人や付き合った人はいるのですが、いちいち書き出しては黒歴史を掘り返すだけなので、控えさせて頂きます。
自分が、男女ともに恋愛対象になるバイセクシュアルなのかもしれないと気づいたのは、中学二年生の時でした。
さて、私のことをざっと説明したところで、本題に移りましょうか。
ここからは思いついたことを書きなぐった、日記にもならない日記だと思ってくだされば幸いです。
同情は求めていません。私の味方になってほしいとも思いません。
ただ、吐き出す場所のないこの複雑な気持ちを、綴らせて頂きたいだけなのです。
時は高校生。
私の在籍する学校は、学習にももちろん力を入れましたが、ことに道徳や総合に心血を注いでいます。
そして、入学早々教師陣から提示された課題。
それは、総合学習の一環として、予め決められたいくつかのテーマの中からひとつを選び、それを自分の興味のある分野に繋げ、研究し、クラスメイトの前でそれについてプレゼンテーションをするというものでした。
クラスの大半は面倒くさがっていたと思います。何せ他人に取材をしなければいけないし、自分で資料を作るのですから。
ですが私はちょうどその時彼女と別れたばかりで、バイセクシュアルとしての気持ちに敏感になっていたものですから、LGBTのことについてまとめようと思ってしまったのです。
それが、後ほど大問題になることも知らずに。
まず私は、実際にゲイの方やバイセクシュアルの方にお話を伺って資料を作りました。普段は人見知りをするのに、その時は物怖じせず話せたのです。きっとやる気が満ち満ちていたのでしょう。
プレゼンテーションに使うスライドも、フリー素材や自分のパソコン技術を駆使して、先生に褒められるような出来に仕上げました。
また、皆が台本を用意して単調な発表をする中、私はアドリブで話したのです。この行為には、一種の傲慢さも混ざっていたと思います。
そうして発表が終了した後、もちろん私の作品はクラスメイトの賛美を受けました。
皆ほとんど真面目にやっていない中、一人だけ本気で取り組んでいたのでそれも当然でしょう。
ですがそれで終わりではありませんでした。
私は、クラスメイトの投票で、学級代表に決まってしまったのです。
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学級代表に選ばれた生徒は、私も含めて学年で十人程度いました。
学級代表は校内の講堂で、もう一度プレゼンテーションをしなければなりませんでした。
それだけならば良かったのですが。
自分が学級代表だと告げられた翌日、私は担任に職員室の個室へ呼び出されました。問題を起こした生徒が呼び出される部屋だったので何も知らされていなかった私は、とてつもなく緊張しながら担任の言葉を待っていました。
「あなたの発表、大丈夫?」
彼の最初の一言は、こうでした。
予想外の言葉に固まる私をよそに、話は進みます。
「俺は素晴らしい発表だったと思うけど、他の先生とも話したら、あなたの身が危険に晒されるかもしれないっていう話が出てね。ほら、発表の内容がすごくリアルだったから、もしかしたらあなたがその当事者かもしれないって噂が立つかもしれない」
噂どころかその通りなのですが、まあそれは置いておいて。
そんなことを心配されるなんて、思ってもみませんでした。
環境問題やら宇宙の云々をプレゼンテーションした生徒には何も言わずに任せていたのに、どうしてLGBTをテーマにすればこんなよく分からない心配をされるのか。
聡明な方はその理屈が分かるかもしれませんが、頭の中がお花畑どころかジャングルだと友人に言われる高校生にはとんと検討がつきません。
「それでそんな噂が拡散されちゃったら、あなたが困るんだよ。だから、もう少し発表の内容を変えたらどうかなぁ」
今考えれば一理ある意見をだったかもしれません。
ですが、その時の私は相当頭に血が昇っていて、彼にこんな言葉をぶつけてしまったのです。
「あの発表内容そのままでやらせてくださらないんだったら、私は出ません」
そのあとも少し言い合いは続きましたが、変なところで頑固な私が同じことしか言わなかったので、結局その日はお開きになりました。
それから数日、授業中や清掃中や帰り際に呼び出されては、色々な先生から心配され、発表内容を変える変えないの攻防を続けていました。
そんなある日のことです。
家に帰ると、母親が目を吊り上げて私のことを出迎えました。
機嫌が悪いとすぐに態度に出る母親ですが、原因が全く思いつきません。
花の水換えはちゃんとやったし、部屋の掃除もした。
何怒ってるの、と直球に聞いたところ、母は「学校から電話が掛かってきたの」と言いました。
油断していました。
まさか学校がプレゼンテーションのことについて私の親に連絡するとは思わなかったのです。
そして当然母も、発表内容を変えるようにとしつこく迫ってきました。
ですが私は母の言うことをあまり聞かないので、父が帰ってくるなり同じ話題を展開する。
そうして父に言われました。
「お前はどうしてそんなにLGBTのことをリアルに発表したいんだ」
ここで私の、おそらくこの出来事でいちばんの失言をしてしまったのです。
「私がバイセクシュアルだから」
途端に父は激怒しました。
普段より「LGBTの人は早死する」だの「同性同士で付き合うなんて普通じゃない」と言ってのける彼のこと。
それはもう火山の大噴火かと見紛うほどの怒りようでした。
でもこの心無い言葉を頭から貶すつもりは、私にはありません。
父が若い頃はこういった話題は出ないにも等しく、出たとしてもネタ扱いされる時代だったのですから。
そうして、こういった話題が出るようになった時には彼の頭はだいぶ固くなって、柔軟に物の見方を変えることができなくなっていたのです。
「もしもお前がバイセクシュアルだって勘づかれてSNSで拡散されたらどうするんだ」
「お前の兄までゲイだかなんだかと間違えられたらどうする」
色々と厳しい言葉を受けましたが、その中でいちばん心に刺さったのは、
「おそらくお前はバイセクシュアルじゃないよ」
これには傷つきました。父の頭の中にはLGBTは劣っているという考え方があるので、まさか自分の子供が……という思いだったのでしょう。
私にとっては、自分が自分であることを否定されるような、そんな気持ちでした。
気持ち悪いと言われることももちろん辛いですが、根本的に違うと言われるのもかなり痛いです。
このときはじめて、私の涙腺が決壊しました。
「だって考えてみろ。女とキスできるのか? 今まで女と付き合ったことが無いから、いけるかもと思うかもしれないけど、いざその時になったらきっと無理だよ」
ありますよ、女と付き合ったこと。キスもありますよ。
反抗しかけましたが、黙っていました。父にとっても娘にこんなことを言われて大ダメージのはずです。これ以上言い募れば、父の眼鏡が割れかねませんでした。
そしてお互い大泣きに泣き、言いたいことをぶちまけ、その日は終わりました。
次の日、両親は一言もその話題を出しませんでした。普段通り、優しい二人でした。
そして、その次の日も、またその次の日も。ずっとあの話題は誰の口にも登りません。
学級代表としての発表は、その時流行っていたインフルエンザで出ることは叶いませんでした。
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さて、ここまで読んでくださった貴方は、どう思ったでしょうか。
先生のことを、父のことを、ひどいと感じましたか?
ことに父のことを、娘を理解できない糞のような親だと、考えますか?
私はそうは思いません。
私が悩んでいるとき、退屈しているときに優しく楽しく接してくれる父親なのです。
母親もまた然りで、私が今「彼氏」と呼んでいる二次元のキャラクターの誕生日の時、「貴方の恋人だもんね」とケーキ作りを手伝ってくれるくらいには理解が深いのです。
ただ、私がバイセクシュアルだという事実に驚き、受け入れられなかっただけだと思っています。
……が、心のどこかで、未だに二人を恨んでいる自分がいます。
楽しそうに話しかけてくる姿を見るたび、また、一緒に過ごしてくれている姿を見るたび、「私にあんなことを言ったくせにどうしてそんなへらへらしていられるの?」と思ってしまうのです。
二人が私が言ったことを忘れたわけではもちろん無いでしょう。
私に気を使って、話題に出さないようにしてくれているのだと思います。
その気遣いを感じられるので、私はこれ以上両親を恨みたくないのです。
毎日おはようと言ってくれ、食事を用意し、家のために稼ぎ、遊んでくれる二人を、恨みたくはありません。
そうしてこの複雑な気持ちを吐き出す場所に、私はここを選んだのです。
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私の拙い、面白くもない話を、聞いてくださってありがとうございました。
名も顔も知らない赤の他人である貴方に聞いて頂けるだけで、私は少し救われるのです。
嫌なことは話すと楽になると言いますが、確かにその通りだと、ひしひしと実感しております。
ほんの少しだけではありますが、両親に対するわずかな恨みが、些細なものになったような気がするのです。
貴方にもう一度感謝の気持ちをお伝えして、この文を閉じさせて頂きたいと思います。
ありがとうございました。